【書評】野尻抱介さんの「南極点のピアピア動画」を読んだ。

野尻抱介さん5年ぶりの新刊です。Amazon での予約開始直後に注文したはずだったのですが、みごとに konozama を食らってしまいました。

まあ、ワンカップPさんの動画を思い出して、なんだか懐かしい気持ちになりましたけどね。こういう状況ですら楽しんじゃおう!というノリは、きっと人生を面白いものにするのではないかと思います。

……というわけで、つい先程読み終わりましたので、さっそくレビューさせて頂きます。

「南極点のピアピア動画」は、共通の世界設定を背景とする連作集です。最終の第4話で、それまでの内容がすべて収束する形になっています。ボクは第3話の「歌う潜水艦とピアピア動画」だけは、SFマガジンの初音ミク特集に載っていたので読んだことがありました。

S-Fマガジン 2011年 08月号 [雑誌]

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早川書房 (2011-06-25)

当時、冒頭に「シリーズ3作目」と書いてあるので、続きものかな?と思ったんですが、単独で読んでも大半は理解できました。ただ、改めて連続で読むと、「これはそういう意味だったのか!」というのがわかって、新鮮な気持ちになれましたね。

第1話「南極点のピアピア動画」は、二ヶ月前に月へ衝突した彗星の影響の話から始まります。コンピューターシミュレーションで、極点からジェット気流が発生することがわかり、それをパラシュートで受け止めて宇宙旅行をしちゃおう!というチャレンジの話です。「ピアピア技術部」がノリと勢いで、わりとスケールの大きいものを「作ってみた」という感じでしょうか。

第2話「コンビニエンスなピアピア動画」は、もう1段階スケールの大きい話になります。コンビニに巣を作る蜘蛛が、高強度の紫外線と真空殺虫器に耐え、えらく丈夫な糸を吐く新種だということがわかり……というところから、とんでもなく話が飛躍していきます。こちらでもピアピア技術部が大活躍。ちょうど最近話題になったニュース関連です。

大林組プロジェクト「宇宙エレベーター建設構想」

第3話「歌う潜水艦とピアピア動画」は、少し今までの2話とは方向性が変わります。クジラの研究をするための予算が通らない。「だったらボーカロイドを利用してみろよ」というアドバイスを受けて、動画をアップしてみたら大評判になり、実はボカロ好きな人たちが官公庁の上層部にもたくさんいて、話しがトントン拍子に進んでいく……という辺りは、ほんとうにこんなことが起きたらステキだろうなーと、ニヤニヤできます。実際にクジラの研究に出かけてみたら、ピンガーのエコーに異常値が見つかり……ここから先は読んでのお楽しみです。

第4話「星間文明とピアピア動画」は、第3話のラストシーンからの続きになります。何を書いてもネタバレになりそうだし、是非ここはご自身で読んで感動を味わって欲しいので、内容には触れません。第1話から第3話までの話が、ここですべてつながります。ラストシーンで使われている「ハジメテノオト」は、ボカロ好きな人ならたぶんみんな知ってる、ボクも大好きな曲です。

巻末の解説は、なんとドワンゴ会長の川上量生さんです。帯にはこんなことが書いてあって、おもわず「おいおい」とツッコミを入れたくなりました。

そもそも野尻さんがちゃんとしたSF作家だったというのは驚きだった。

まあ解説を読めば、親しみを込めた冗談だというのはわかりますが。ニコニコは野尻さんに多大な恩があるそうですよ。

川上さんの解説は、この小説のタイトルや話中で実現されていることをニコニコに対する提言(嫌味)と捉え、それに対する回答をしています。嫌儲に対する見解には大いに異論がありますが、それはまた別エントリーで。川上さんの考えの一端がわかって、これはこれで面白かったです。

南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

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野尻 抱介

早川書房

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