現時点では日経だけが報じた(※読売・朝日・毎日・産経・共同(47News)・時事のWebサイトで「パロディ」を検索して確認しました)下記の記事について、ボクが想像だにしていなかったような様々な反応があって、いろいろ考えさせられたのでエントリーにします。
さいきんやたらと飛ばしが多くて信頼性の低い日経ですが、文化審議会著作権分科会法制問題小委員会で検討課題の一つとして取り上げられたのは事実のようです。
ところが、この日経の記事に対する反応を見ると、「また日経かよ」「ただしソースは日経」「虚構新聞かと思った」という反応をする方も多かったです。これは自業自得でしょう。
ボクは上記のTogetterまとめを先に見ていたので、日経の報道を比較的好意的に捉えることができました。ただ、ボクとは全く異なる受け止め方をした人々も大勢いらっしゃるようです。ざっと分類すると、以下の3つに分けられると思います。
- タイトルだけ見て脊髄反射し「規制」だと勘違いした
- 「規定」が設けられることへの心配・不信・拒絶
- 「規定」が設けられることに好意的
以下、どうしてそういう反応になってしまうのか、順に考察していきます。ちなみにボクは悲観的ではありますが、3番目です。
1. タイトルだけ見て脊髄反射し「規制」だと勘違いした
正直、ボクにとっては斜め上の反応で、まとめを見て大笑いをしてしまいました。まさに「どうしてこうなった!?( ^ω^ )」という感じだったのですが、少し冷静になって考えてみると原因はいくつか考えられます。
日経の記事タイトルだけを見て、「規制強化」だと早とちり
これはTwitterに多い反応で、「虚構新聞に釣られる」のと似ています。「リンク先を読め!」というやつです。ただ、Twitterは「感じたことをその場で即座に発信する」ツールなので、こういう反応もある意味仕方がないのかもしれません。感じたプロセスがそのままつぶやきとなってダダ漏れているわけですから。
もしかしたら後から自分の勘違いに気づいて、「あ、なるほどこういうことだったのね」と納得しているかもしれません。が、記事に対する反応から、さらに膨大な手間をかけて個別にその後を追いかける気にはなれません。
また、いわゆる「2ちゃんねるまとめブログ」や、2ちゃんねるのスレタイ(スレッドのタイトル)も、ミスリードを誘うような書き方になっているのが、二次被害を大きくしている原因でしょう。参考までに、どんなタイトルが付けられているか列挙します。リンクは貼らず、URLだけ記載させて頂きます。
[2ちゃんねる]
- 著作権法に「パロディー」規定新設へ 2次創作の大半が死亡する見込み
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news/1339065246/l50
- 【完全死亡】 同人屋オワタ!!著作権法に「パロディー」規定へ
http://hayabusa3.2ch.net/test/read.cgi/news/1339282643/l50
- 【速報】著作権法に「パロディー」規定新設へ ニャル子さん・・・(´;ω;`)ブワッ
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/poverty/1339065415/l50
[まとめブログ系]
- 著作権法に「パロディー」規定新設へ 文化審小委で検討開始!ニコ動とかどうなっちゃうの?(はちま起稿)
http://blog.esuteru.com/archives/6291572.html
- 【完全死亡】 同人屋オワタwwwwwwwwww 著作権法に「パロディー」規定へ!!!!!(神速報)
http://blog.livedoor.jp/kamisokuhou/archives/67567614.html
- 著作権法に「パロディー」規定新設へ 明文化されたら、どこぞのパロAVは即死だなwww (アルファルファモザイク)
http://alfalfalfa.com/archives/5581097.html
「お?」と思わせるタイトルでないと埋没してしまうのは判りますが、これは酷い。まとめブログ系には、まともなタイトルを付けているところもありますが……。
日経の記事を冒頭だけ読んで、「規制強化」だと判断
ちゃんと最後まで読まないのが悪いのですが、ある意味「日経の記事の書き方が悪い」とも言えます。日経の記事は、以下の文から始まります。
著作権にまつわる法制度を検討する文化審議会(文化庁長官の諮問機関)の小委員会が7日、今期の初会合を開き、既存の著作物をパロディーとして改変・2次創作する行為について、今期の検討課題として取り上げることを決めた。現行の著作権法にはパロディーに関する規定がないが、インターネット上の動画共有サイトなどでの2次創作が活発に行われていることから法整備を目指す。ただし、パロディー作品に対する関係者の認識は一様でなく、法制化には曲折も予想される。
著作権法にあまり詳しくない人が、ここだけを読んだら「パロディが規制される!?」と感じてもおかしくはないでしょう。もう1段落おいて、3段落目まで読まないとどういうことなのか判らない文章構造になっています。
これまで日本の著作権法ではパロディーに関する規定が存在しなかった。このため、現行の著作権法を厳密に適用すると、パロディーは「同一性保持権」の侵害にあたり、元の作品の著作者に許諾を得ない限りは違法となる可能性があった。しかし、近年はインターネットの動画共有サイトなどを中心にパロディーによる2次創作が本格化しており、実情に合わせた法体系の整備を求める声が高まっている。
(※下線はボクが追加しました)
前知識のない人は、ここまで読んで初めて「パロディは現行法では規制されている」事実を知るわけです。釣られたヒトには「最後までちゃんと読め!」と言いたいですが、日経にも「もっとわかりやすい文章を書け!」と言いたい。
なお、パロディに関してはマッド・アマノさんの「パロディモンタージュ写真事件」で最高裁判決が出ており、有名な「引用基準」の判例になっています。福井健策さんの「著作権とは何か」から引用します。
(前略)つまり、アマノさんの作品は一見すると明らかに複製か翻案ですから、通常ならば著作権者の許可が必要です。ですから、著作権法のどれかの「制限規定」にあたらなければ、原則どおり著作権侵害になる可能性が高まります。
たとえば、いくらクリエイター側が「パロディは許されるべきだ」と言っても、「パロディは許す」という制限規定がない場合、裁判としては少々苦しくなります。では、日本の著作権法にそんなパロディ例外規定があるかといえば、ありません。
許される根拠になりそうな制限規定は何かないのかというと、「引用」の規定しかありません。(後略)
(※下線はボクが追加しました)
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ちなみに、日経の記事に対する反応で「嘉門達夫オワタ」というようなものも見受けられるのですが、嘉門達夫さんの「替え唄メドレー」は、原曲の著作権者や、歌詞に登場する人物・商品名などの関係者に、すべて事前に許可を取っています。
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ここは重要なポイントなのですが、事前に権利者から許可を得ているなら、何も問題は無いのです。例えば「東方プロジェクト」のガイドラインや、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社(以下クリプトン社)の「ピアプロ・キャラクター・ライセンス(以下PCL)」のように、権利者が事前に「ここまでの範囲ならOKですよ」というラインを明確にしている場合も、そのルールを守っている限り問題はありません。
問題は、次節で述べる、権利者に無断で二次的著作物を作って公表する場合です。
2. 「規定」が設けられることへの心配・不信・拒絶
いわゆる「二次創作」をやっている方々や、逆に権利者側にも見られる反応です。これは要するに、今はグレーゾーンになっている部分が、白黒はっきりしてしまうのはまずいのではないか?という話です。著作権法は親告罪なので、権利者が何か文句を言われない限りは問題になりません。
これが「パロディ規定」という形で法律に明文化されてしまうと、「グレーが白になったおかげで大手を振って活動できる」という方向と、「黒と判定されて活動できなくなってしまう」という方向が考えられる、というわけです。
黒と判定されてしまう危惧というのは、充分理解できます。東京都青少年育成条例によるゾーニングに代表されるように、「エロ」に対する世間の風当たりは特に強いからです。
実際、クリプトン社のPCLでは、公序良俗に反するもの(TVで放映できない、という目安)は禁止されており、公式サイトにも18禁カテゴリは存在しない状態になっています。
じゃあ例えば「初音ミクさんのエロい絵」が世の中に存在しないかといえば、ちょっと別の場所(例えばここ)を探せばゴロゴロしているわけです。それらに対しクリプトン社がいちいちクレームを付けているかというと、公式サイト以外は黙認しているというのが実情です。それは恐らく、「エロ」の力によって界隈が牽引され拡大していることをクリプトン社も判っているからでしょう。
「パロディ規定」がどのようなモノになるか次第なので断言はできませんが、現状では無断で利用できるのは「引用」と「私的利用」くらいしかないところに、新たに「パロディ」という領域が広がるという話なのですから、仮にパロディ規定ができても親告罪という原則が揺るがない限り、いまグレーであるものが、白とグレーに色分けされるだけであろうと思われます。
つまり怖いのは、「パロディ規定」というよりは、非親告罪化だとボクは思います。
ちなみに「パロディ規定」が既にある他の国の状況については、こちらのエントリーが参考になります。フランス・アメリカ・ドイツの場合です。
諸外国における「パロディ規定」の趣旨は、「批判」や「風刺」などを目的とする、原著作者の意に沿わない形の二次的著作物であっても、「パロディ規定」によって公表できるようにしよう、というものです。
ただ、日本の場合は文化的背景が異なるため、「パロディ」という言葉の持つ意味がかなり広範になっています。人によって定義はさまざまなので、恐らく文化審議会著作権分科会でも「そもそもパロディとは何か?」という定義から紛糾するのではないでしょうか。
3. 「規定」が設けられることに好意的
現状が既に非常に厳しく規制されていることを理解していて、今後予想される「非親告罪化」に大きな危惧を抱いている人は、「パロディ規定」に関しては前向きに捉えているのではないでしょうか。もし「非親告罪化」してしまったとしても、無断で利用できる範疇が広がっていればまだ救われるからです。
ちなみにボクは、前向きな話だとは思いつつこんな反応をしています。
これは紆余曲折あるだろうなー結局何も決まらずに終わるっていうオチが見える。|著作権法に「パロディー」規定新設へ 文化審小委で検討開始 :日本経済新聞 nikkei.com/article/DGXBZO…
— 鷹野 凌さん (@ryou_takano) 2012.6.7
「日本版フェアユース」の時と同じオチになるんじゃないかなー。
— 鷹野 凌さん (@ryou_takano) 2012.6.7
関係者の協議が続き、どうなったか。
悪用されないよう、実際にいま困っている領域を個別特定して条件を細かく定めた。
え? 「条件を細かく定めるならそれはもうフェアユースではないのでは?」
その通りだ。だからもう「権利制限の一般規定」とは呼ばれない。つまり、新しく4つの、まあ控え目な個別規定が出来たのだ。
これに関しては、ボクが傍聴に行った著作権法学会でもかなり批判をされていました。著作権審議会で散々議論して出した提案が、どういうプロセスで削られこういう残念実装になったのか見えない、と。
で、この「パロディ規定」に関しても、「どこまでの表現をパロディとして認めるのか?」というのは「誰もが納得する判断軸」というのが存在しないとても難しい問題なので、散々議論したあげくに「現状維持」という結論で終わるのではないかなー?というのが、ボクの予測です。
さてこの件について、もう少し掘り下げてみましょう。ちょうど今、上記の著作権法改正案に、自民党・公明党が修正案として「違法ダウンロードの刑事罰化」を盛り込もうとしています。
正直言ってこのMIAUの反対声明は遅いと思います。恐らくもう間に合わない。民主党も他の法案を通したいので、この修正案を飲むでしょう。なぜギリギリの状況になってから声明を出すのか……ぶっちゃけ「MIAUは反対の声を上げた」というアリバイ作りに見えます。
ちなみにボクは、4月にこの動きが報道された直後に、下記のようにエントリーを2本書き、自分の選挙区の国会議員へ反対の陳情書を送付しています。
ただ、こうした声に呼応する動きが少ないということは、「違法ダウンロード刑事罰化やむなし」と考えている人の方が多いということなのかもしれません。衆院解散という噂も出ているので、まだどうなるか判りませんが……。
そこで、冒頭の日経報道です。ちょっと穿った見方をすれば、「骨抜きになった日本版フェアユース規定」と「違法ダウンロード刑事罰化」という動きに対し、「パロディ規定」という動きを見せることで、不平の声を抑えようとしているのではなないでしょうか。考えすぎ?