昨晩、佐々木俊尚さんが急にパブーを口撃し始めました。
パブーが実に残念な提案をしてきた。期待していたのにがっかりだ。
— 佐々木俊尚さん (@sasakitoshinao) 8月 7, 2012
パブーと佐々木俊尚さんは蜜月関係だと思っていたのに、いったいどうしたというのでしょう?
パブーはいままで手数料30%だったのが、急に60%を要求してきたのだ。
— 佐々木俊尚さん (@sasakitoshinao) 8月 7, 2012
!?
びっくりしました。そりゃ怒るだろ、と。
で、冷静になって考えてみると、なんだかいろいろ不可解なのです。そのことについて、簡単にまとめておきます。
ライバル不在?
パブーのような、セルフパブリッシングの支援をサービスとして提供している企業は他にもいくつもあります。どこか1社が独占しているわけではなく、はっきりいって乱立しています。
- 電子書籍の出版・販売サービス forkN
…… 手数料率30%で、パブーの有料プラン(月300円)とほぼ同等の機能(PDFインポートなど)が使える。
- 電子書籍出版wook(ウック)- 出版社、作家の電子ブックストア開設
…… 手数料率25%(個人ユーザー・容量1GBまで)
- loftwork.com
…… 手数料率20% + PayPal手数料(販売価格が300円未満の場合は、loftworkの手数料は無料)
これ以外にも、一時期話題になっていたGumroadや、PayPalといった、手数料がもっと安い方法もあります。逆に、国内で手数料率が30%以上というのはまぐまぐの有料メルマガが50%くらいでしょうか。
これだけいろんな手段があって、パブーがセルフパブリッシング市場を独占しているわけではないのに、どうして急に60%なんていう手数料にして納得させられるというのでしょう?普通に考えたら、あり得ない判断ですよね。
ちなみに、ボクもパブーで著書を販売していますが、いまのところ手数料率がアップするというお知らせは届いていません。他でも聞いたことがないので、恐らく現時点では佐々木俊尚さんにだけ話がきているのでしょう。
セルフサービスのはず?
そうなると、なぜ急に60%なんてことを言いだしたのか、理由が気になります。
マーケティングの能力もないのに中抜きしか考えてない業者とはもう付き合わないことにしよう……。
— 佐々木俊尚さん (@sasakitoshinao) 8月 7, 2012
うーん、手厳しい。実際ボクも、電子書籍を出して1週間ほどピックアップに掲載されていましたが、買ってくれたのは大半がボクがGoogle+などで告知をしたことに拠るもので、パブーのストアパワーというのはあまり期待できるものではないのが現状だと思います。その辺りの詳細はこちらのエントリーに。
- 電子書籍ストア「パブー」で本を作ってみて感じたこと ※2012年5月17日
だからボクも、「もっとパブーが『売る』ことに力を入れてくれないと、手数料率30%というのは辛いなぁ」と感じていました。ちなみに、パブーのトップページには、佐々木俊尚さんの著書のバナーが2枚も貼られています。「いいなあ……」と羨ましく思いますが、普通に考えたら広告宣伝費が別途かかるでしょう。もしかかっていないなら、佐々木俊尚さんがパブーの宣伝をするといったバーター取り引きがあるのでしょうね。
パブーから「人件費をかけてるんだからたくさん中抜きするのは仕方ないだろう」みたいな返信メールが来て愕然。こっちの書籍執筆コストはまったく無視なんだな。もうつきあわないことにする。
— 佐々木俊尚さん (@sasakitoshinao) 8月 7, 2012
※「中抜き」ではなく「中間搾取」だと後ほど訂正ツイートが入りました。
ちょっとこの辺りは佐々木俊尚さんによる意訳が入っているので、文字通り受け止めることはできませんが、パブー側が何を主張しているかはなんとなく想像がつきます。
「人力での対応部分が非常に広範囲にわたりますため現段階ではご提示した料率を考えております。」ってバカじゃないだろうか。単にepubに変換してるだけじゃん。
— 佐々木俊尚さん (@sasakitoshinao) 8月 7, 2012
パブーは基本的にセルフサービスです。上記のエントリーや、マニュアルを読んで頂くとわかると思いますが、本来、パブーが何か手作業をすることは無いはずです。つまり、恐らく佐々木俊尚さんはWordか何かで書いた文章をパブーに渡し、後工程は全て任せていたのではないでしょうか。そうでなければ、人件費が別途かかるようなことはないはずです。
後工程には価値がない?
ではもし仮に、佐々木俊尚さんが原稿ベタ打ちのテキストファイルをパブーに送って、後工程を全て任せていたとしたら、+30%は妥当でしょうか?
付加価値も何も生んでないくせに人件費をスタート地点にして中抜き料率決めるのってどうなんだろう。
— 佐々木俊尚さん (@sasakitoshinao) 8月 7, 2012
※「中抜き」ではなく「中間搾取」だと後ほど訂正ツイートが入りました。
ほんとうに何の価値もない工程なら、お金を払う必要はないでしょう。ではこのケースはどうか?というと「+30%は妥当ではない」が、少なくとも「無価値ではない」と思います。印税率を減らす形ではなく、一定額を要求するのであれば、納得してもらえたかもしれません。
東京国際ブックフェアのシンポジウム「電子書籍時代に出版社は必要か?」で、コーディネーターの福井健策さんが「出版社は何の役に立つのか」という資料をプロジェクターに映していました。
出版社の機能論:
理念上は
作家を発掘し育成する「発掘・育成機能」
作品の創作をサポートし、時にリードする「企画・編集機能」
文学賞や雑誌媒体に代表される信頼により世に紹介・推奨する「ブランド機能」
宣伝し、各種販路を通じて展開する「プロモーション・マーケティング機能」
作品の二次展開において窓口や代理を務める「マネジメント・窓口機能」
上記の初期コストと失敗リスクを負担する「投資・金融機能」
もう少し細かく分解すると、編集・校正・表紙デザインなどの装丁・配信データへの変換・プロモーション・盗賊版対策などなど、これらの機能を全部自前でできるなら、決済機能だけPayPalを使って直接ユーザーに販売するのが一番安上がりです。
でも、何もかも全て自前でできるスーパーマンなんて、ごく一部だと思うんです。結局のところ、どこまでの機能を対価を払い他人に任せるか、自前でやるかというバランスの問題だと思うのです。
自分の力で売るのなら、PayPalの手数料率5%台が妥当。ストアのパワーが大きければ、Kindle/AppStoreの30%が妥当。さまざまな電書プラットフォームへのディストリビューターは、手数料率15%が妥当(ストア30%を引いた70%×15%で10.5%)。これが世界標準。
— 佐々木俊尚さん (@sasakitoshinao) 8月 7, 2012
ちなみにKindleの場合、30%の手数料とは別にDelivery Costs(通信費)がかかるので、実質は50%くらいです。それでもKindle Storeに任せて納得できるくらい「売れる」ならいいですし、納得できないなら他の手段を使えばいい話です。
ボクも、ほんとうにパブーの手数料率が60%になるなら、他のサービスへ移転します。ウェブ上でEPUB変換できるforkNかwookかな? 代替手段はたくさんあります。
しかし、古い話を掘り返して恐縮ですが……
アメリカの新しいセルフパブリッシングサービスが注目。手数料が5%+0.3ドルって凄い。来月発売の新著で使ってみようかな。/個人コンテンツ販売の新時代を開くか 「Gumroad」で同人誌を売ってみる j.mp/wStUJ2
— 佐々木俊尚さん (@sasakitoshinao) 2月 14, 2012
こうやって持ち上げていたGumroadではなく、PayPalをプッシュするんですね。Gumroadには別途PayPal手数料がかかることを当時は見落としていたんでしょうか?この辺りもちょっと不可解でした。
これもうきっとGoogle+ガイドブック(ブクログのパブー)
鷹野凌
Booklog,Inc.