ソフトバンクグループのSBイノベンチャー株式会社が提供していた無料マンガアプリ「ハートコミックス」が、漫画家・赤松健さんが会長を務める株式会社Jコミックテラスの「マンガ図書館Z」に統合されました。これはどういうことなのでしょうか? 考察してみます。
「ハートコミックス」サービス開始の経緯は?
話は2014年7月10日、「Jコミ」が大幅バージョンアップして「絶版マンガ図書館」に名称変更する記者発表会を行ったころにさかのぼります。この記者発表会には私も行っており、記事にしています。現地で公開。
http://www.wildhawkfield.com/2014/07/blog-post.html
Jコミはライト層に弱いため、強いところと手を組みたいと思っていたとのこと。そこで、ソフトバンクグループのSBイノベンチャー(株)と提携して、無料でコミックが読める「ハートコミックス」を今秋よりApp Storeで提供開始するそうです。
当時のスライドには「Jコミとしては初めて他社と提携」という文字が見えます。
余談ですが、この記者発表会後に行われた「漫画家5名による電子書籍シンポジウム」は、なかなか刺激的な内容でした。ほぼ全文書き起こし記事はこちら。
http://www.wildhawkfield.com/2014/07/ebook-symposium-by-five-cartoonist.html
その後、予告通り秋に「ハートコミックス」のβ版がリリースされます。ソーシャルゲームのビジネスモデルを、無料マンガアプリに適用する、という特徴がありました。これは新しい「マンガ図書館Z」アプリにもそのまま引き継がれています。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1410/27/news090.html
私自身は「ハートコミックス」を使ってみたことがないのですが、上記の記事には「ユーザーが登録した情報(性別・年齢・好み)や行動履歴を基におすすめ漫画を紹介。漫画のレビュー記事も掲載し、読みたい漫画に出合える仕組みを実装した」という記述があります。
ところが新しい「マンガ図書館Z」アプリに「おすすめ」機能はありますが、「好み」を登録するような画面はなかったですし、レビュー記事も見当たりません。この辺りが「ハートコミックス」から変わった点、ということになるのでしょう。
ソフトバンクグループのITmediaが援護射撃
上記、ITmediaの「ソフトバンクが無料漫画アプリに参入」記事には、SBイノベンチャーの杉浦正武さんが登場します。「ハートコミックス」の主担当者で、過去にはITmediaで5年間ほど記者をやっていたこともあるそうです。
そういう経緯もあってか、「ハートコミックス」リリースから3カ月ほど、ITmedia eBook USERで「eBookマーケットリーダー」という記事を連載します。なお、ITmediaもソフトバンクグループです。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1410/27/news118.html
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1411/05/news054.html
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1411/12/news023.html
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1411/19/news035.html
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1411/26/news034.html
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1412/03/news033.html
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1412/10/news021.html
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1412/17/news035.html
記事の最後は毎回「ハートコミックスアプリのダウンロードはこちら」で締めくくられており、「場貸し」的な援護射撃だったことが想像できます。
この連載終了後には「電子コミック・プチレビュー」という新たな連載が始まり、こちらも署名は「ハートコミックス」の方になっていました。こちらは1つだけ貼っておきます。
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1412/19/news031.html
ところがその後、今回の統合に至るまで、「ハートコミックス」のニュースを目にする機会はありませんでした。苦戦していたのでしょう。
Jコミックテラスが運営を引き継いだということは
現在、「ハートコミックス」の公式サイトにはこんな記述があります。
2015年12月1日には、株式会社Jコミックテラスが運営を引き継ぎ、リソースやノウハウを融合しました。
プレスリリースが出ていたのに、まったく気づきませんでした……。
電子コミックアプリ「ハートコミックス」に関わる事業の発展的引き継ぎについて | SBイノベンチャー株式会社 | グループ企業 | 企業・IR | ソフトバンクグループ
http://www.softbank.jp/corp/group/sbiv/news/press/2015/20151201_01/
リリースを読む限り、SBイノベンチャーの「ハートコミックス」は、最後までβ版だったようです。Android版はなかったのかな? ちなみに「マンガ図書館Z」ではAndroid版がiPhone版より2日早く提供開始されています。この辺りも「ハートコミックス」から変わった点、だと思われます。
ストレートに捉えれば、SBイノベンチャーの「ハートコミックス」はうまくいかなかったので、Jコミックテラスに事業継承した、ということになるのでしょう。あれ? Android版はどっちが開発したんだろう? SBイノベンチャーが開発中だったのを、Jコミックテラスが引き継いだのかな?
さようなら、「絶版マンガ図書館」アプリ
今回の統合を、赤松健さんはこう表現しています。
絶版マンガを無料で読める「マンガ図書館Z」、iOS/Android専用スマホアプリをリリース -INTERNET Watch https://t.co/nCRYTK8NdL @internet_watchさんから ★ #マンガ図書館Z の新しい公式アプリ、ようやく完成しました!
— 赤松健 (@KenAkamatsu) 2016年4月27日
昨日の記事にも書きましたが、これまで「マンガ図書館Z」には、2012年8月1日にリリースされた「JComi Viewer+」(のちの「絶版マンガ図書館」)アプリがありました。これは「ウェブブラウザ付きの汎用PDFビューワー」です。App Storeでの評価はこんな感じです。
なかなか厳しいですね。ところが今回リリースされた「マンガ図書館Z」のApp Storeでの評価は、現時点でこんな感じです。
好評価! これは赤松健さん、嬉しいんじゃないかな。ちなみに過去のバージョンの評価は「ハートコミックス」のものだと思われます。昨日の記事にも書いたように、「絶版マンガ図書館」アプリは5月25日でサービス終了するので、「さようなら、おつかれさまでした」と言うべきなのでしょうね。
リワード広告モデルを採用
「マンガ図書館Z」には、読むのに「ハート」が1ページに1つ必要なマンガと、「ハート」を消費しないマンガがあります。「ハート」は毎日回復するほか、有料で購入、友達紹介で回復、動画視聴で回復、そして、アプリダウンロードで回復可能です。
このあたりの仕組みは、恐らく「ハートコミックス」をそのまま継承していると思われます。iPhoneの[アプリダウンロード1]は「AppDriver」、[アプリダウンロード2]は「CAリワード(旧:MobADME)」が提供している、リワード広告です。Android版は端末不調により未確認。
あまりアプリ広告は詳しくないのですが、通称「ブースト」と呼ばれているリワード広告は、1年ほど前、Appleが規制に本腰を入れ始めたという話題になっていたことを思い出しました。
AppBank、リワード広告「今後はやらない」――「モンスト攻略」から「オーブプレゼント」が消えた理由 – ねとらぼ
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1506/15/news089.html
結局、いまでもリワード広告は残っているってことですよね。大丈夫なのかな。