【書評】アルフレッド・ベスターさんの「虎よ、虎よ!」を読んだ

年末に「最近のライトノベルが酷過ぎる」という釣りで話題になっていて、気になったので読んでみることにしました。

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)

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アルフレッド・ベスター

早川書房

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最近のラノベひどすぎだろ・・・・・・。これが小説かよ・・・・・・。

https://twitter.com/#!/yakibook/status/152383893964726272

実際にはこれが、「最近のラノベ」どころか、1956年に発表されたSFの古典だったという話しです。ボク自身は「虎よ、虎よ!」を読んだことはありませんでしたが、こういう表現は他の作品で何度か見たことがあったので、釣られはしませんでした。ちなみに、こういった表現技法は「タイポグラフィ」と呼ぶそうです。

しかし、前後無しでいきなりこの文章を読んだら、何のことだかさっぱり判りませんよね。

遠方でカチャカチャという足音が縦になった北極光の柔らかいパターンになって眼に入ってきた。

これだけを見た時は、ボクも「音が眼に入るって何のことだよ」って思いました。

これは、主人公が「共感覚」という特殊な知覚現象を体験している様子を描写しているのです。音が視覚に、動作が音に、色彩が苦痛に、触感が味覚に、嗅覚が触覚に。自分が体験したことがない感覚なので、それがどういう状態か全く想像がつかないのですが、なるほど音が視覚になっているなら「音が眼に入る」という文でもおかしくないわけですね。

この小説を最後まで読んで思ったのは、この本は「ストーリーを楽しむ」というよりは「感じる」という表現の方が似合ってるな、ということでした。普通の感覚で考えると、主人公はおかしなことばかりしているんです。冒頭に、宇宙船をぶち壊され主人公だけ生き残り6ヶ月漂流し、たまたま近くを通りがかった船が自分を助けてくれなかったから復讐の鬼になるというシーンがあるのですが、普通に考えたら「宇宙船をぶち壊した奴」を恨みますよね。

こういう「?」という行動パターンは随所に見られ、最後の最後でも「ええええっ!?」と驚かされました。しかし、この小説は主人公に感情移入する物語ではないのだと思います。誰でもテレポートができるというのはどういう世界なのか、復讐に燃える男がどうやって敵を追い詰めていくか、スピード感とリズムを「感じる」物語なのだと思います。

特に、タイポグラフィが出てくる終盤では、こういう「映像ドラッグ」を観ているような感覚を味わいました。

さすがに「傑作」と言われるだけあって、後世の作品に多大な影響を与えています。恐らく石ノ森章太郎さんはこの作品が大好きだったんでしょうね。怒りで顔に模様が浮き出るという設定は、「仮面ライダー」に。奥歯のスイッチを押すと加速するという設定は、「サイボーグ009」に使われています。ご本人が「モチーフにした」と言及したかどうかは判りませんが、リスペクトしているのは間違いないと思います。他にも「AKIRA」とか「サトラレ」とか「コブラ」とか、いろんな作品のモチーフになっているみたいですよ。50年以上前の作品とは思えない、新鮮な感動を味わいました。

コメント

  1. nightwalker より:

    こういう小説ってデジタルになったらもっと色々面白い効果が期待できるでしょうね。文字が動きまわって音も出てと。

  2. 鷹野凌 より:

    そうなると、映像作品との境界がだんだん曖昧になってくるかもしれませんね。

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