先日、ロボットが感情を習得するには何が必要なのか?という思考実験を行なっていました。そもそも感情とは何ぞや?というところからいろいろ調べ物をしていたのですが、”情動” という言葉の定義につまづいてGoogle+ で問い掛けをしました。
やり取りはとんでもなく長くなり、後で Word に落としてみたら全部で6,000文字近くありました。要するに、感情というのは本能的な欲求から発生するだろうという発想からスタートしたのですが、ロボットの本能というのは生物とは異なるのではないか?という視点を頂いたんですね。そこから話が大盛り上がりしていく中で、こんな記事を教えてもらったんです。
人とロボットの秘密 ITmedia ニュース via kwout
この最初の記事がアップされたのは2009年5月15日で、なんと書籍の中見をまるごと連載形式で紹介するという形を採っていたようです。書籍の発売は2008年7月1日なので、まだ10ヶ月しか経っていないころです。
全文がWebで読めるなら、わざわざ書籍を読まなくても……と考える人は多そうですが、Webをちょっとだけ読んで面白そうだったので、せっかくだから手元に形として残しておきたいなと思い書籍を買いました。岡田斗司夫さんが「なんでコンテンツにカネを払うのさ?」で、本の出版と同時に中身を全てWebにアップしたけど、売り上げは落ちなかったという話をしていましたが、堀田純司さんのこの本はどうだったんでしょうね? ちなみにボクが買った本は、第1刷でした……。[最後に追記あり]
第1章 哲学の子と科学の子
公立はこだて未来大学教授 松原仁さん
いきなり最初から興味深かったのですが、これまでの人工知能の研究によって、人間の思考はプログラムでシミュレートするような単純なモデルでは再現できない、という結論に既に達しているそうなんですね。
そして到達した結論は、意識はただ意識だけを実現しようとしてもダメで、 世界の情報を獲得するセンサー や、 その情報を解釈する機能 、そして その解釈を環境にフィードバックする機構 が不可欠。環境と相互作用を行うことができる体が必要なのだという認識だった。
つまり、コンピュータに人間と同じような意識を持たせるには、人間と同じような感覚を持った体が必要、ということのようです。デカルト的な心身二元論(心と体は別モノ)ではダメだった、と。
そして、アトムみたいにゼロベースで作り込んでいきなり知能をもたせるのは、今も未来も恐らく できない と考えられているとか。赤ちゃんが大人へ成長するように、 育てていく というアプローチしか無いと多くの研究者は思っているそうです。
恐らく、一度体得させればその学習成果を他のロボットへ共有できると思うので、1体1体全てゼロから育てていかなければならない、なんてことは無いのではないかな?と思うのですが。安直ですかね?
第2章 人間は肉体を解放するのがはやすぎた
大阪大学教授 石黒浩さん
冒頭で永井豪さんのマジンガーZの設定が熱く語られています。ボクは知らなかったのですが、永井豪さんは「脆弱な肉体だからこそ、魂は謙虚さや優しさをもつのだ」という考え方をしているそうですね。つまり、鋼鉄の体を持った強靭なロボットは、人間とは異なる思想を持つに違いない、と。
この章に出てくる石黒さんは、人間そっくりアンドロイドの研究開発を行なっている、その筋では有名な方のようです。どうもまだ、不気味の谷近辺にいるようで、ボクは「怖い」という感情を持ってしまうのですが……。
第3章 記号論理では、思考を再現できない
デジタルヒューマン研究センター博士 中田亨さん
1956年に行われた人工知能に関する「ダートマス会議」と、そこで発表された初の人工知能「ロジック・セオリスト」。この会議の参加者は「人間が施行する過程で行われる記号の操作を模倣することで、機械も思考することができる」と考えていたそうです。
しかしその人工知能は、大学の入試試験レベルの問題は解けても、小さい子どもでも解けるような問題は解答できなかったそうです。例えば「この映像にうつっているものは何か?」という簡単な問いかけですら、現代にいたるまで解決できない難問だとか。
中田さんは、非言語コミュニケーション(表情や身振り手振り)について、舞踊などの芸術分野の理論をペットロボットに適用し、そのロボットが人間に与える印象を研究しているそうです。
知性だけをシミュレートしてもそれは表層的なもので、人間の根元には動物的なところがある、というようなことなのかな?と思いました。
第4章 意識を、機械で実現するモデル
慶応義塾大学教授 前野隆司さん
前野さんの「受動意識仮説」が面白い。「意識」はトップダウンで判断をくだすものではなく、結果として出力される “受動的な物語” だと捉えているそうです。つまり、体の中でさまざまなタスクを反射的に行なっている機能の集積(ボトムアップ)こそが、意識だと。
これを裏付けるような研究があって、指を動かそうとする時には、指を動かそうという意識より早く、無意識のうちに指へ運動準備指令が出ているそうです。意識より 0.35秒も早かったとか。何か熱いものを触った時には無意識に手を引く脊髄反射というのがありますが、実際はそういう意識に現れない行動というのが人間の全てのベースになっているということなんでしょうね。
人間というのは、動かす装置よりセンサーのほうが圧倒的に多い存在だそうです。それゆえ “感覚” のインプットが無いと「心」が生まれないという論理になると。
第5章 知能化から生命化へ
慶応義塾大学教授 吉田和夫さん
自ら進化を行なってきた自然システムと、他者によって道具としてつくられた人工システムの違いはどこにあるのか、というのがこの章の主題です。ロボットを設計する際に、学ぶべきものは40億年の歴史をもつ “生命” だ、と。
吉田さんのロボットは「もしこういう状況になったら、こういう行動をする」といったシナリオでロボットの行動を決めるのではなく、まず存在の原理原則 = アイデンティティを与えてやるという発想で設計されているそうです。
精密な情報にもとづく制御は微細な動作を可能にする代わりに、適用範囲が狭くなる。だから吉田さんの研究している “キュービックニューラルネットワーク” では、精緻な情報による制御から漠然とした領域の判断まで、次元の階層を自在に行きつ戻りつしながら制御を行うそうです。
なお、あとがきに載っていましたが、この研究を行なっていた吉田さんは、この書籍の発売前に残念ながら急逝されたそうです。合掌。
第6章 無限への挑戦、人間のすべてを定量化する
早稲田大学教授 高西淳夫さん
高西さんは、人間のふるまい(動作、センサー、発話、芸術表現、情動など)を研究し、数値で定量化して工学モデルを獲得しようとしているそうです。医学者などの専門家の知識を取り入れてロボットをつくる。それを人に提供してアプリケーション領域で運用し、結果を得る。というプロセスで性能向上を図っていると。
ここまで読んでくると、そういったアプローチにはあまり新鮮さを感じないのですが、その覚悟が凄い。いかに人間が持っている様々な要素が膨大であろうとも、各分野からひとつひとつ解読していけば、いつかは人間全体のモデルが手に入る、と。
最終章 ロボットが見せる未来
二足歩行ロボットによる格闘技の大会「ROBO-ONE」というのが毎年開催されていて、サンライズが協賛しているそうです。そして、ガンダムシリーズなどをモチーフにした機体の製造・参戦を許諾しているとか。なかなか粋ですね。
なお、第20回 ROBO-ONE は、3月24日~25日に川崎市産業振興会館で行われるそうです。見に行ってみようかな。
だからもし、人間同様にふるまう機械ができて、人間がそのセンサーの情報をリアルタイムに獲得しながら機械を操作するようになると、自分の身体イメージは拡張され、そのボディを自分の体として感じるのではないか?
将来、肉体から解放された人間が、機械の意識と出会ったらどのように感じるのだろうか。
この辺りの発想はボクと全く同じで、攻殻機動隊の影響ですね。思わず苦笑いしてしまいました。
さて、この本を読んでいて、「膨大な感覚のインプット」そのものをシミュレートすれば、体が無くても「意識」が作れるんじゃないかな?という発想が思い浮かびました。
目で見る、耳で聞く、肌で感じる、匂いを嗅ぐ、味わうという「情報」さえあれば、それが体験そのものなのか、仮想世界なのかが区別がつかないというような話がありますよね。
切断された足の、無いはずの部位から痛みを感じるという “幻肢痛” というのもあります。つまり、肉体が無くても意識を芽生えさせることは可能なのではないかな?と。これもあくまで思考実験ですが。
さて読み終わってみて、最初に挙げたロボットが感情を習得するには何が必要なのか?という思考実験に、なんとなく答えが出たような出ていないような、もやもやした感じになってしまいました。哲学的な方面のインプットが必要かな?うーん。
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堀田 純司
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[追記]
失礼かなー?と思いつつ、堀田さん本人にツイッターで聞いてみました。「詳細は検証できてないそうなのですが、恐らくプラマイ同じくらいだったかと思います。」という回答を頂きました。