芥川賞受賞記念購入です。
実はこれまで円城塔さんの作品は読んだことがありませんでした。前回の芥川賞で「これはペンです」が候補に挙げられ、村上龍さんのよくわからない指摘によって落とされた、という経緯だけは目にしていました。
【芥川賞選考】村上龍の指摘について
村上龍さんの”指摘”というのが、イチャモンにしか見えなかったんですよね。ボクも読んでないので周囲の声だけで判断しているのですが、なんだか「SF作家なんかに受賞させてたまるか」みたいな力学が働いたような気がしてしまって。ボクには”論壇”とか”文学界”ってよくわからないんですけど、なんか無理やり”権威づけ”しようとしているなーという印象を受けたのです。
ところが当の本人は、選評で村上龍さんがノーコメントだったのに対し
公的な”指摘”は特になかったので、あとは単行本なりで各人に御判断頂ければという以上、わたくしからはありません。
— EnJoe140で短編中さん (@EnJoeToh) 8月 11, 2011
この態度!おとなですね。感心してしまいました。
そういう経緯を見ていたので、今回の芥川賞候補にふたたび円城塔さんが挙げられているのを知って、ニコニコ生放送をワクワクしながら見ていました。
円城塔さんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
— 鷹野 凌さん (@ryou_takano) 1月 17, 2012
いやはや、作品読んだこともないのに、はしゃぎすぎです。
さて、本の内容へ移ります。円城塔さんの作品は「難解だ」という噂は目にしていました。二回読みました。二回ともかなり時間をかけて、わからない言葉は都度調べて、行きつ戻りつ読みました。
わかりません。
いやはや、まさかここまでとは。単純にストーリーを追うような読み方というのが、恐らく間違っているのでしょう。ボクの思考が不思議な世界に迷い込んだような、そういう感覚を楽しむ本なのかもしれません。長い時間をかけて、繰り返し繰り返し読んで、何年か経って、ふっと部分部分の意味が朧気ながら理解できてくる、そんな楽しみ方をする本なのだと思います。
プロローグに載っている詩(?)を全文引用します。
何よりもまず、名前があ行ではじまる人々に。
それから、か行で、さ行で以下同文。
そしてまた、名前が母音ではじまる人々に。
それからbで、cで以下同文。
諸々の規則によって仮に生じる、様々な区分へ順々に。
網の交点が一体誰を指し示すのか、わたしに指定する術はもうないのだが、こうする以外にどんな方法があるというのだろうか。
いったいぜんたいここから何を読み解けばいいのでしょう? 恐らくこの話の主人公である多言語作家『友幸友幸』の、言語の習得過程を表現しているのだとは思うのですが……難解です。エントリーのタイトルに【書評】なんて、恥ずかしくて付けられなかったので、外しておきました。
それでも、これからこの話を読む人に対し、多少でも読解のヒントになるものが記せれば、という思いはあります。例えば、この話は基本的には一人称で描かれているのですが、途中で視点が変わります。
- 友幸友幸の作品『猫の下で読むに限る』の登場人物視点
- それを翻訳した訳者視点で、友幸友幸の謎について
- 友幸友幸の視点
- 訳者(=友幸友幸探索のエージェント)視点
- 友幸友幸の視点……!?
一人称で「わたし」と書いてありますが、節ごとにその「わたし」は違う人なんです。一回目に読んだ時は、節が変わるたびに頭が混乱してしまいました。もちろん読み進めればわかるのですが、一人称多視点で描かれているというのを事前に頭に入れておけば、ボクのように混乱することはないかもしれません。
あとは、ボクが意味を調べた言葉について、列記しておきますね。
- [ ブロブディンナグ ] ガリバー旅行記に出てくる巨人の国の名前
- [ アール・ブリュット ] アウトサイダー・アートのこと
- [ ミスタス ] ウルティマオンラインに出てくる架空の街の名前
- [ ピジン・イングリッシュ ] 南太平洋で使われているブロークンな英語
- [ フェズの街 ] モロッコに実在する街の名前
- [ タティング・シャトル ] レース編みの道具らしい
- [ フィリグリー ] 銀線細工
- [ ミャーフキー・ズナーク ] ロシア語の Ь
- [ ボビン ] ミシンなどで使う糸車
- [ 玻璃 ] 水晶とかガラスの一種らしい。読みは”はり”
最後に、ボクが気づいた謎について。エイブラムス氏は男なのか女なのか。『猫の下で読むに限る』の中では男だと明示されています。ところが次の節で、氏は子宮がんで亡くなったとあります。さてはて?(ただのトラップかも)
他の方の書評や考察はなるべく読まないようにしていたのですが、これを書き終わったらその戒めを解こうと思います。いやー難解だ。ネタバレとかそういう次元の話じゃないですねこれは。
まあそうだろう。わかるようにできていないのだから当然だ。
終盤に登場する謎の男が言うこのセリフが、もしかしたら全てを物語っているのかもしれません。
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円城 塔
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[追記]
ネタバレ上等!な方は、こちらを読むといいかも。大森望さんによる解説。
円城塔『道化師の蝶』攻略ガイド
[追記2]
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文藝春秋 (2012-02-10)