著作権保護、戦勝国は10年長く 「戦時加算」米に撤廃要求 TPP交渉:朝日新聞デジタル
朝日新聞デジタルが、TPP知財分野交渉において日本は、著作権保護期間の「戦時加算」撤廃を求めているという記事を出しました。撤廃はいい話なのですが、後半に「法律不遡及の原則」を無視した仰天記載が。まあ、あり得ない話ではないのですが。
「戦時加算」はこれまで何度も撤廃要求をしてきて、そのたび「じゃあ代わりに保護期間は死後70年へ延長ね」と言われて引き下がるという歴史を繰り返してきているようなので、今回も同じような条件闘争なんだろうなーと思ってこの記事を読んでいました。ところが、[ログインして続きを読む]の後半にはこんなことが書いてあります。
たとえば、2012年末に保護期間が切れた作家・吉川英治氏の「三国志」や民俗学者の柳田国男氏の「遠野物語」などは、インターネット上の無料図書館などで、誰でも無料で読めるようになっている。こうした作品は、いったんは切れた著作権が「復活」することになり、新たに著作権料の支払いや使用の許可が必要になって、無料で読めなくなる可能性がある。
おいおい。
これに対する知財クラスタの反応。法学者・玉井克哉さんは相変わらず。(追記:失礼だと受け止められたようなので、削除しておきます)
これは絶対に実現してほしい。国民の誰も損しない、純粋な国益。 @baatarism: “著作権保護、戦勝国は10年長く 「戦時加算」米に撤廃要求 TPP交渉:朝日新聞デジタル” http://t.co/cFY1BPGBjR
— 玉井克哉(Katsuya TAMAI) (@tamai1961) 2014, 5月 17
[追記]翌日、下記のような説明をされていました。記事中には遡及適用のことが書かれているのに、当初は「国民の誰も損しない、純粋な国益」とおっしゃっていたので、それを含めて賛成だと受け止めましたが、そうではなかったようです。
「著作権の保護期間を延長すると、既に権利の切れた作品の権利が復活して、大混乱になる」って、「相手を黒く描いて、その黒さを批判する」手法の典型ではないですかね。当たり前だけど、そんな延長には小生も反対。でも、そんなもん、USTRですら想像してもいないよ。
— 玉井克哉(Katsuya TAMAI) (@tamai1961) 2014, 5月 18
遡及なんて入りっこないと思っているので、何かの誤解だと思っています。EUは「加盟国間でバラバラなのは困る。統一しよう」という趣旨で決めたので、70年の国でまだ権利のあるものは従前50年だった国でも復活させる必要があった。対外通商交渉とは、状況が違います。 @ryou_takano
— 玉井克哉(Katsuya TAMAI) (@tamai1961) 2014, 5月 18
(追記ここまで)
弁護士・福井健策さんの反応。
朝日が報道。「日本など半数がなお保護期間延長に反対しているが、日本は最大10年の戦時加算を米国だけに撤廃させる見返りに20年一律延長を呑む交渉中」と。 >著作権保護、「戦時加算」米に撤廃要求 #TPP 交渉 http://t.co/rhiyOh3nfm
— 福井健策 FUKUI, Kensaku (@fukuikensaku) 2014, 5月 17
注目すべきは、既存作品も延長どころか、既に消滅した作品が延長で「復活」するとある。異例だし、各界で混乱は必至。ますます正当化され得ないが、本当にそんな交渉をしているのか。 >著作権保護、「戦時加算」米に撤廃要求 #TPP 交渉 http://t.co/rhiyOh3nfm
— 福井健策 FUKUI, Kensaku (@fukuikensaku) 2014, 5月 17
たらればさんの反応。
前RT、福井先生のおっしゃるとおり「消滅していた著作権が復活する」となると、例えば青空文庫から太宰治(1948年没)の作品が消えるということだろうか。し、信じがたい愚行としか…。。私たちは何を売り渡そうとしているのか、本当に分かっているのだろうか。。
— たられば (@tarareba722) 2014, 5月 17
境真良さんの反応。
さすがに一度切れたものの「復活」はないと信じたいが… RT @tarareba722 前RT、福井先生のおっしゃるとおり「消滅していた著作権が復活する」となると、例えば青空文庫から太宰治(1948年没)の作品が消えるということだろうか。し、信じがたい愚行としか…
— 境真良/ ساكايما(旅の途中) (@sakaima) 2014, 5月 17
山田奨治さんの反応。
10年の戦時加算を撤廃して20年延長するだとか、延長分を遡及して適用するだとか、理解しにくい話ばかり聞こえてくるが、真相が闇の中なのが一番の問題。 #TPP #著作権
— 山田奨治 Shoji YAMADA (@yamadashoji) 2014, 5月 17
MIAU 香月啓佑さんの反応。
遡及効が前提になってるがどうなんだろう? / “著作権保護、戦勝国は10年長く 「戦時加算」米に撤廃要求 TPP交渉:朝日新聞デジタル” http://t.co/cW53lmMtnz
— Keisuke KATSUKI (@kskktk) 2014, 5月 17
ボクはこういう反応。
おいこら法律不遡及の原則はどこいった "いったんは切れた著作権が「復活」することになり" 著作権保護、戦勝国は10年長く 「戦時加算」米に撤廃要求 TPP交渉 – 朝日新聞デジタル http://t.co/UfpaJS3zTS
— 鷹野 凌/月刊群雛5月号発売中 (@ryou_takano) 2014, 5月 17
記者が勘違いしている(校閲もスルー)可能性?
— 鷹野 凌/月刊群雛5月号発売中 (@ryou_takano) 2014, 5月 17
これに対し、江口さんからはこのような反応が。
@ryou_takano 記者の知識レベルでの可能性の提示だと思います。日本で映画の保護期間を延長した時は遡及適用無しでした。ただ「欧州連合域内における著作権保護期間の調和に関する指令」では遡及適用という例もありますから、可能性としては全く否定はできませんね。
— 江口秀治 Hideharu Eguchi (@hideharus) 2014, 5月 17
「法律不遡及の原則」があるので、日本で映画の著作権保護期間が公表後70年へ延長されたときも、それ以前に保護期間が切れている作品には遡及適用されていないのです。ただ、世界的には前例がないわけではないのが、話としてはややこしい。
文字数制限のある紙面上では難しいかもしれませんが、前提として「法律不遡及の原則」があることには触れておくべきだったんじゃないかなあ。
ちなみに、弁理士・栗原潔さんのブログでも同じことについて言及されています。
朝Pこと、丹治吉順さんの反応。
@ryou_takano 遡及適用それ自体が交渉項目になり得るデカい話だということは、知財ヲタじゃないとわからないので、ここは「ものの例え」くらいに思って読んでました。むしろ70年を受け入れたわけではないという趣旨の方が記事の意味かと。
— 丹治吉順 aka 朝P (@tanji_y) 2014, 5月 17
なるほど確かに、先日の読売や産経の記事とは、その点では一線を画していますね。
- TPP交渉、著作権保護期間「70年」で合意へ : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
- TPP「知財」合意へ前進 著作権保護期間、70年に統一で調整 (1/2ページ) – SankeiBiz(サンケイビズ)
撤廃には賛成だ。ただし、10年の部分「短縮」の代わりに20年の恒久一律延長を呑むなど、下策も下策だろう。使用料的にも戦時加算分はわずかな割合。 >著作権「戦時加算」米に撤廃要求 #TPP 交渉 http://t.co/rhiyOh3nfm
— 福井健策 FUKUI, Kensaku (@fukuikensaku) 2014, 5月 17
戦時加算は戦前戦中の作品にしか適用されないので、時間が経てば自然消滅する。それを名目上失くすために、逆に全作品を恒久延長するとは、どんな叡智か。 >著作権「戦時加算」米に撤廃要求 #TPP 交渉 http://t.co/rhiyOh3nfm
— 福井健策 FUKUI, Kensaku (@fukuikensaku) 2014, 5月 17
ボクは福井健策さんのこの意見に賛成。
いっぽうそのころMIAUの共同代表は
今週はいろいろなことが多すぎてあらゆる原稿が終わらない……。
— 津田大介 (@tsuda) 2014, 5月 16
平常運転、と。 RT @tsuda: 今週はいろいろなことが多すぎてあらゆる原稿が終わらない……。
— 小寺信良 (@Nob_Kodera) 2014, 5月 16
なにやら大変そうです。
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