毎週月曜恒例。出版業界関連の先週のニュースで、ボクが気になったものにコメントをつけてまとめていきます。電子出版界隈が中心です。先週は「栗田債権者説明会」「TPP知財でまたもや交渉内容リーク」などが話題になっていました。
放送アーカイブ構想:「文化的資産」に政治色が見え隠れ – 毎日新聞 ※2015年7月6日
出版とは直接関係ないのですがピックアップ。前提として、国立国会図書館法により国内で発行されたすべての出版物には納入義務があります。対象範囲は「図書、雑誌・新聞のほか、地図、楽譜、レコード、マイクロ資料や点字資料、更にはビデオ、CD、DVDなどの電子出版物も含みます」です。
という前提からすると、日本民間放送連盟の青木隆典常務理事が「文化価値を判断せずに全番組を保存するところに政治の意図を感じる」などと言ってるのは、アホかという感じ。出版物はずっと前から、すべて保存してるのに。文化価値を判断せずに全番組を保存するからこそ、政治的な意図を入れずに済むのですよ。
「これは文化価値がないから保存しません」とかやり始めたら、その文化価値とやらを誰がどのように判断するのか? と大問題になる。とにかく全部保存して、文化価値は後世が判断すればいいのですよ。だからこそ意味がある。
【山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ】Amazon「Kindle Paperwhite(2015)」 ~解像度が300ppiに引き上げられたKindleファミリーの普及モデル – PC Watch ※2015年7月6日
新型Paperwhiteのレビュー。解像度が上がった分、もっさり感が上がっている模様。2012や2013を持っている人は、買い換える必要ない感じ。E INK端末を持ってない人向けかな。文字読むにはとても良いです。
米Amazonによる閲覧ページ数に応じた支払い、1ページ当たり0.6円程度か – ITmedia eBook USER ※2015年7月6日
前提として、読み放題サービスの「Kindle Unlimited(日本では未展開)」と、プライム会員が月に1冊借りられる「Kindleオーナー ライブラリー」の報償分配方法が、以前はダウンロードされ10%読まれれば1カウントだった、ということを頭に入れておく必要があるでしょう。
以前の方式は、冒頭少しだけでも読まれれば10%クリアするような短い本が有利とかなり批判されていたのが、是正されたのです。もっとも、ページあたり0.6円というのは「その月の」数字で、全体で読まれたページ数が多くなれば、ページあたりの額は減るはずです。「KDPセレクト グローバル基金」からの分配なので。
また、読み放題とレンタルの2つのサービスに登録している本は、Kindleストア独占配信になっている、ということも頭に入れておく必要があるでしょう。「KDPセレクト」プログラムの一環になっているため、出版社系が参加しない理由でもある、はず。
凸版印刷、紙と電子のハイブリッド出版に対応した書籍制作支援クラウドサービス「TOPPAN Editorial Navi」 -INTERNET Watch ※2015年7月6日
先週ピックアップした日経より詳報なので改めて。ワンソースから紙と電子を同時に制作できるクラウドサービスです。去年のブックフェア凸版ブースにプロトタイプが出ていましたが、セルフパブリッシングプラットフォーム「BCCKS」のブラウザエディタに、クラウド編集機能(この辺りは凸版が技術提供しているはず)が付いたもの。
それにしても「2020年度までに関連受注を含めて100億円の売上を目指す」って、すごい強気な感じ。「関連受注を含めて」だから、印刷含めなのかな?
【新文化】 – 栗田債権者説明会、「返品問題」で意見続出 ※2015年7月6日
かなり紛糾している様子。月曜社の「ウラゲツ☆ブログ」や、小田光雄さんの「出版状況クロニクル補遺」に詳しくまとめられています。
アマゾンがあちこちで「親しいのはわかってんだよ」とレビューを削除 : ギズモード・ジャパン ※2015年7月7日
これ、今年の4月にアマゾン ジャパン Kindleダイレクト・パブリッシング担当部長の小菅祥之氏が「販売を開始したら、友人・知人に評価やコメントをもらう。(客観的な内容であれば不正には当たらない)」と推奨していたのと思いっきり矛盾するのですが、どうなっているんでしょうね?
そもそも「客観的な内容じゃない」って、どうやって判断するんだ?w
— 鷹野 凌/月刊群雛発売中 (@ryou_takano) 2015, 7月 7
「本は全く読まない」が最多、平均読書量は月約3冊 「子どもの読書実態調査」が示す – ITmedia eBook USER ※2015年7月9日
「全く読まない子どもの割合が27.1%」と出ているのですが、全国学校図書館協議会×毎日新聞社の読書調査では小学生の不読率は3.8%。なぜそんなに差が。「保護者付き添いの下」だから? どこまでを「本」とするか、回答者によってかなり揺らぎがありそう。
EBook2.0 Magazine – 「ポスト電書」の戦略を考える ※2015年7月8日
8割マンガは以前からよく言われていることですが、「ストアの6割がアマゾンとみられている」ってどこ情報だろう?
多少期間が前後しますが、eBookJapanが51億円、BookLive!が89億円(旧ビットウェイ系「Handyコミック」なども含まれる)、パピレスが84億円、「めちゃコミック」のアムタスは10ヶ月で100億円突破なので概算117億円、取次メディアドゥの電子書籍売上が70億円なのでLINEマンガなどの取引先書店粗利30%とすると100億円で、合計441億円(いずれも2014年前後の年間売上)。
つまり、公開されている数字およびその概算だけで、電子出版市場1411億円の31.3%あるのですが。6割がAmazonだとすると、残りの電子書店合計で125億円・8.7%? さすがそこまで少なくないと思いますよ。
なお、EBook2.0 Magazineには「電子書籍市場が前年比35%増の1300億円」と書いてありますが、正確には1266億円です。まるめ過ぎ。
神保町でビブリオバトル 若者の本離れに三省堂書店と大学生がコラボ – 神田経済新聞 ※2015年7月9日
明治大学の学生が、三省堂書店に企画を持ち込み実現したビブリオバトル。いい動きですね。
主婦と生活社に公取委勧告 委託料に消費増税上乗せせず :日本経済新聞 ※2015年7月9日
「原稿料は税込み2万円」みたいな約束になっていると、税率変わったときに「これどうなるんだ?」と思うのですが、「消費税転嫁対策特措法」によって増税分を外注先に負担させるのは禁止されているので、増税後も変わらず2万円だとアウトなのです。外税計算にしておいた方が、面倒がなくていいですね。なお、既に差額分は支払いしているとのことです。
「LINEマンガ」連載3作品が単行化 描き下ろしエピソードを収録で7月28日発売 – ITmedia eBook USER ※2015年7月9日
2014年9月に始まった「LINEマンガ連載」から単行本化が。comicoの『ReLIFE』みたいに売れるといいですね。なお、まだインディーズ出身作品は含まれていない模様。
町の本屋さん 生き残りに向け何を売る? NHKニュース(Internet Archive) ※2015年7月11日
東京国際ブックフェア最終日に、認定NPO法人本の学校との共催で行われた「書店の現在と可能性―実践する経営者の視点から」に登壇していた「ウィー東城店」佐藤店長の取り組みについて。雑誌コーナーの向かいに化粧品売り場や、奥に美容室があったり、カウンターで子ども向けに手品をやったりしているそうです。「それって本屋?」という声が聞こえてきますが、「遊べる本屋」ヴィレッジヴァンガードという前例(書籍売り上げは10%程度)もありますし。
図書館関連
公共図書館はほんとうに本の敵? « マガジン航[kɔː] ※2015年7月9日
「文藝家協会ニュース」特別号(2015年4月30日発行)掲載の、2月2日に紀伊国屋サザンシアターで行われた「シンポジウム〈公共図書館はほんとうに図書館の敵?〉」の書き起こし転載。仲俣さんグッジョブ。全体の流れを読むと「あーなるほど」とも思えるのですが、林真理子さんと新潮社常務石井昂さんへの印象はあまり変わらない感じ。
書店、出版社が図書館向け電子書籍貸出サービスへ望むこと -INTERNET Watch ※2015年7月8日
自分の書いた記事ですが。上記シンポジウムと同様に、紀伊國屋書店社長高井昌史さんの発言が「うーん?」という感じだったので、脚注をつけておきました。
メディアドゥと楽天が展開する「OverDrive Japan」の電子図書館事業 -INTERNET Watch ※2015年7月9日
こちらも自分の書いた記事ですが。OverDrive社長に、イギリスの公共図書館で行われた電子図書館サービス実証実験結果について質問したのは我ながらグッジョブだと思ったのですが、意外と反響薄いのが悲しい。「出版社が電子図書館にコンテンツを預けると『紙が売れる』」そうですよ。
TPP知財関連
著作物等の利用円滑化のためのニーズの募集について|文化庁 ※2015年7月7日
パブリックコメントではないのですが、意見募集が始まりました。
TPP妥結後を見据えた準備、という気がする。
— 鷹野 凌/月刊群雛発売中 (@ryou_takano) 2015, 7月 7
予感的中。
日本に戦時加算10年、著作権「不平等」解消へ : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) ※2015年7月9日
「戦時加算」が残っていたのは日本だけなので、それが解消されるのは嬉しい話。でもそれが保護期間70年への延長と引き替えになるのは道理が違うでしょ。メリットだけをタイトルに使う読売新聞ェ……。
時事ドットコム:著作権侵害、非親告罪を導入へ=適用制限めぐり最終調整-TPP ※2015年7月11日
まだ交渉は終わっていないのに。「関係筋」って誰なのさ。
日本に戦時加算10年、著作権「不平等」解消へ : 経済 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) http://t.co/Qm9g6KxjhT ★TPP(の著作権関連)でアメリカの言い分を殆ど飲まされるため、バランスをとってフェアユースとか戦時加算解消が急浮上してきた(^^;
— 赤松健 (@KenAkamatsu) 2015, 7月 9
日本の実情と情報社会の未来を見据えて交渉を尽くし、最大限取り得た条件全体を判断して国民多数がTPP加盟を選ぶなら、それは良い。だが、保護期間延長はおかしい。そしておかしいと思っているのは1人ではない。
>緊急声明への最終呼びかけ
http://t.co/jxY3bdYmTF
— 福井健策 FUKUI, Kensaku (@fukuikensaku) 2015, 7月 9
共同声明への個人・団体賛同はここから。7/15が二次集約締切で、最後に若干の延長はあり得るが、条約交渉への声を届ける時間はもう残りわずかである。
>ニコ生緊急放送17000人視聴の御礼/緊急声明への最終呼びかけ
http://t.co/jxY3bdYmTF
— 福井健策 FUKUI, Kensaku (@fukuikensaku) 2015, 7月 13
ぜひ緊急声明への賛同を。
お知らせ
私が理事長をやっているNPO法人日本独立作家同盟で、7月25日にセミナーをやります。第4回。コルク佐渡島庸平さん×漫画家鈴木みそさん。ファシリテーターはまつもとあつしさん。チケットはPeatixにてお求めください。