先週は「大日本印刷本体がhonto事業を吸収」「ニコ動会員減でカドカワ大幅減益決算」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年5月7日~13日分です。
DNP、本体にネット書店「honto」吸収〈ITmedia ビジネスオンライン(2018年5月7日)〉
なにが驚いたって、いつのまにかDNPの100%子会社になっていたこと。InternetArchiveで調べたところ、昨年12月時点の会社案内にはまだ「NTTドコモ」と「丸善CHIホールディングス」の名前がありました。ドコモが手を引いたのでしょうか。なお、今回DNP本体へ吸収される「honto」以外の事業には、元々DNPが運営していた「まんがこっち!」「よみっち」「お約束写真館」と、ブクログから承継した「パブー」があります。
違法な海賊版サイトへのユーザー流入は世界レベルで急速に拡大している〈GIGAZINE(2018年5月7日)〉
デンマークの海賊版問題。ブロッキングしてもすぐまた別の経路が作り出されるイタチごっこグラフがなかなか興味深いです。それでもアクセスの76%を抑制できるなら、意味はあるのかもしれません。
海賊版サイトの「収入源根絶」、広告規制が対策の切り札〈読売新聞(2018年5月7日)〉
4月25日の社説で「海賊版サイト 接続遮断はやむを得ぬ措置だ」という政権擁護の論陣を張った読売新聞が、広告規制を切り札だと解説。ネットの社説はプレミアム会員じゃないと読めないんですけど、広告規制には言及されているんでしょうかね? なお、DMMは昨年1月から11月末までに、2000万円近く漫画村に広告料を支払ってしまっていたそうです。ひいいい。
ユーザー投稿型マンガアプリ「ジャンプルーキー!」広告収益は100%作者に還元〈ケータイ Watch(2018年5月7日)〉
「少年ジャンプルーキー」をリニューアルし、新たなアプリとして提供開始。誰でも投稿可能なUGCで広告収益を100%作者へ還元と、「マンガ図書館Z」と同じモデルの採用です。縦スクロールに対応しているみたい?
電流協、初のアワードで大賞にMagaport選定〈文化通信(2018年5月7日)〉
特別賞にNPO法人日本独立作家同盟の「NovelJam」が選ばれています。ありがとうございます。
ヤフーのTOB巡るインサイダー疑惑 告発見送り〈日本経済新聞(2018年5月8日)〉
ヤフーは2016年にイーブックイニシアティブジャパンを子会社化しましたが、その株式公開買い付け(TOB)がインサイダー取引の疑いがあるということで、2017年11月に証券取引等監視委員会が強制調査に乗り出していました。結局、告発見送り。関係者の方々はホッと胸をなで下ろしていることでしょう。お疲れさまでした。
comico新編集長に 「うしおととら」初代編集担当の武者正昭氏が就任〈アニメ!アニメ!(2018年5月8日)〉
小学館で30年以上のキャリアを持つベテラン編集者が「comico」の編集長へ就任。見開きではなく、「comico」縦スクロール形式のマンガ編集に携わることになるそうです。薄味のふわっとした作品が多かった「comico」に、非常に濃い味が投入されることになりそうです。面白くなりそう。
本を中心とした施設が神保町の文化を受けつぐ ――UDS中川敬文さんインタビュー〈マガジン航(2018年5月8日)〉
岩波ブックセンター跡地にできた「神保町ブックセンターwith Iwanami Books」の、仲俣暁生氏によるレポート。書店単独の収益では厳しいので「事業モデルとしては、飲食とコワーキングスペースだけで成立するように設計」しているとのこと。なるほど。
海賊版より魅力的なサイトを 一歩先行く「アダルトコミック業界」に学ぶ〈ITmedia NEWS(2018年5月9日)〉
NPO法人日本独立作家同盟主催イベントレポートの後編。とはいえ、稀見理都氏が紹介したアダルトマンガ定額読み放題サービス「Komiflo」を中心とした構成になってます。イベントの中身に触れているのは、3ページ目だけです。しかし、後述しますが、フローの「雑誌」とストックの「単行本」を一緒にして議論してしまうのも危険だなーと思う今日このごろ。
「dマガジン」が創る電子雑誌の世界〈日本電子出版協会(2018年5月10日)〉
JEPAセミナー報告。NTTドコモとブックウォーカーの「dマガジン」関係者が登壇です。とくに後者、高見氏による技術系の話は面白かった! プレゼン資料をエンベッドしておきます。
大幅減益のカドカワ、ニコ動で苦戦〈ITmedia NEWS(2018年5月10日)〉
決算説明資料をひととおり確認してみましたが「海賊版」という言葉は見つけられず。出版事業は「出版市場全体が縮小する中でも電子書籍・電子雑誌の成長が継続し、横ばい」とのことです。また、26ページで「ニコニコ書籍」の売上が前年度比92.6%とマイナス傾向であることが明かされていますが、要因は「BW統合の一時的影響」としています。
少年ジャンプがスマホ向け「縦スクロール漫画」限定の漫画賞 きょう募集開始〈ITmedia NEWS(2018年5月10日)〉
まさか集英社が縦スクロールマンガ限定の賞を始めるとは! 受付は「ジャンプルーキー!」です。小学館「少年サンデー」ベテラン編集者が「comico」の編集長へ就任するのとほぼ同時にこういうことが起きるというのは、とても興味深いです。
海賊版サイトに対抗する「マンガ図書館Z」の勝算とは? 『魔法先生ネギま!』赤松健に聞く!〈ダ・ヴィンチニュース(2018年5月11日)〉
漫画家・赤松健さんに聞いた、「海賊版サイトをつぶす唯一の方法」〈ITmedia NEWS(2018年5月11日)〉
赤松健さん(Jコミックテラス)の「マンガ図書館Z」が仕掛ける次の手は、出版社とのタッグでした。無料公開して広告収益を作者に100%分配してきたわけですが、同じことを出版社にも適用するそうです。どこと組むかはまだ明かされていません。「出版社横断の公式で便利なマンガプラットフォーム」というのは、マンガ誌とコミックス(単行本)とで状況が違うと思うのですが、そのあたりどうなんだろう? という疑問も。「出版社個別のサービスやアプリが展開されている(主にマンガ誌の問題)」と「電子書店を複数使うと本棚が分散してしまう(主にコミックスの問題)」は、別の問題ですよね。紙のマンガ誌はかさばるしすぐボロボロになるから、いつまでも保存しておく人のほうが珍しかったはず(フロー)。でもコミックスはマンガ誌より良い紙を使っているので、長年保存する人は珍しくないように思います(ストック)。フローとストックの違いがあるので、切り分けたいところ。
「NTTを訴えていいかと相談あった」、NTT鵜浦社長が語るブロッキング決断の理由〈日経 xTECH(2018年5月11日)〉
昨年秋に、著作権者と出版社からNTTを訴えていいかという相談があったそうです。NTT鵜浦博夫社長自身にも「ネットの無法地帯を放置しない、との強い思いがあった」とのこと。ただ、無法者に対抗するために無法を働いていいという理屈は、法治国家では成り立ちません。盗人を問答無用で撃ち殺していいわけではないのです。「緊急避難に該当」という政府見解には相当無理があります。やるなら立法措置を急ぐべきでしょう。
スクウェア・エニックスHDが2018年3月期決算を発表、売上高は微減も営業利益は前期比22%増に。DL販売やスマホ・PCブラウザゲームが好調〈ファミ通.com(2018年5月11日)〉
出版事業は「コミック単行本の売上が好調に推移し、とくに電子書籍形式による販売が増加している」そうです。電子コミック市場の拡大が、中堅出版社にも好影響を与えている事例。文字モノもはよ!
アルファポリスの19年3月期は営業利益3期ぶり最高益更新見込む〈みんなの株式(2018年5月11日)〉
『ゲート』を刷りすぎて苦戦した2017年3月期から一転。マンガを中心に書籍出版事業が好調で、2015年度から本格対応している電子書籍も積極販売で大幅増収増益とのことです。すばらしい。
日本における電子書籍化の現状:国立国会図書館所 蔵資料を対象とした電子書籍化率の調査〈Speaker Deck(2018年5月12日)〉
日本図書館情報学会春季研究発表会で発表された研究調査。国立国会図書館所蔵タイトルでISBNがあるものから無作為抽出で5万点をサンプル調査。私の荒っぽい調査より精度が高そうです。とはいえ、コミックが64.8%、文庫が44.0%、新書が30.4%で、あとはぐっと電子化率が下がるという傾向は私の調査と変わらずです。なお、細かいことを言うと、ISBNで検索できない電子書店に「BOOK☆WALKER」が入っていますが、検索できるはず。全商品RSSへのリンクを貼っておきます。
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