最近、Amazon の読み放題サービス「Kindle Unlimited」が日本でもうすぐ始まりそう、という報道が盛んです。ではこのサービスが先行しているアメリカではどのような評価なのかを確認し、日本で開始されたらどんなことが起こるかについて考察してみます。
「Kindle Unlimited」はアメリカでどう評価されているのか?
まず、「Kindle Unlimited」がアメリカでどう評価されているのか? についてです。この記事やこの記事などを参考にしています。
月額9.99ドルで100万点が読み放題
まずラインアップ。月額9.99ドルで100万点が読み放題になります。ライバル「Scribd」は月額8.99ドルで100万点。この1ドルの違いに大きな差はない、と感じられているようです。なお、読み放題サービスには他にも「Oyster」や「Entitle」などがありましたが、現在は閉鎖されており、事実上2社の争いになっているようです。日本でも、基盤の弱いところが淘汰されてしまう可能性が考えられますね。
大手出版社「ビッグ5」が未配信
日本の報道ではここに触れていないケースが多いのですが、「Kindle Unlimited」には大手出版社「ビッグ5」がタイトルを1冊も提供していません。ところが、ライバル「Scribd」には、ハーパーコリンズとサイモン&シュスターとマクミランがタイトルを提供しています(アシェットとペンギンランダムハウスはオーディオブックだけ提供?)。つまり、この2社のサービスでは、タイトルがあまり重複しない状態になっているようです。うまく住み分けられた、というところでしょうか。
Kindleダイレクト・パブリッシングの作品が多い
では「Kindle Unlimited」の100万点の中身は? というと、著者が Amazon と直接取引できる「Kindleダイレクト・パブリッシング」で、「KDPセレクト」オプションを付け Amazon 独占配信にしているタイトルが多いようです。「スティーブン・キングや『ハンガーゲーム』といったベストセラーもあるよ!」とのことですが、そういうのは例外みたいですね。
0.99ドルから4.99ドルのタイトルがほとんど
また、「Kindle Unlimited」で配信されているタイトルのほとんどは、通常の購入では0.99ドルから4.99ドルのものとのこと。つまり、ページ数が多く単価が高い本は、読み放題へ提供すると損だと判断されていたようです。もっとも、1年ほど前からロイヤリティの計算方法が、読まれたページ数に比例する(Kindle独自のページ数換算で、1ページあたり0.005ドルくらい)形に変わっているので、状況は変わりつつあるのではないかと思われます。
サービスは国別
「Kindle Unlimited」はアメリカ以外に、イギリス、カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ブラジル、メキシコ、インド、中国などで提供されています。ところがこのサービスは国別になっており、アメリカの「Kindle Unlimited」はアメリカ在住者のみに限定されているようです。ただ、どの国で配信するかはタイトルごとに出版者側が選べる仕組みになっているので、100万点の多くが日本でも読めるのではないかと思われます。
「Kindle Unlimited」が日本で始まったらどうなるか?
ではこの「Kindle Unlimited」が日本で始まったらどうなるか? について考察してみましょう。
「8月開始」と報道されているが?
アマゾンジャパン、読み放題サービス8月開始へ:メディア産業の総合専門紙-文化通信 https://t.co/7ifCKolrMv
— 鷹野凌 (@ryou_takano) 2016年6月27日
このツイート、ただツイートボタンを押して流しただけなのに、文化通信公式よりたくさんリツイートされてびっくりしました。時期が明らかにされたのが初めてだったからでしょう。とはいえ Amazon 公式見解ではないので、ほんとうに8月に始まるかどうかはわかりません。タイトルが思ったように集まっていないため、9月にずれ込むかもしれない、という噂話を耳にしましたが、これも噂なので真偽は確かではありません。
「月額980円で5万5000冊」らしい
また消えるかもしれないから一応スクリーショット撮っておいた。まだPC版の画面だけのようだ。 pic.twitter.com/eeXJOWBYg1
— 電子書籍はKoboでいいのだ。 (@kobo_iinoda) 2016年6月25日
一時的に、上記のような告知ページが表示されていたようです(現在は消えています)。「月額わずか¥980で、55,000冊を超えるタイトルと数千におよぶオーディオブックへの無制限アクセス」とありますが、実際にサービスインしたときどうなるかはもちろん不明です。
集英社が参加しないことは確定しているらしい
7月15日の日経新聞報道によると、講談社と小学館は参加。KADOKAWAも検討中。参加見送りとして名前が挙がっているのは集英社のみ。国内のライバルサービス「ブックパス」を調べてみたところ、こちらにも集英社は配信していませんでした。このあたりは一貫しているようです。
なお、「ブックパス」の読み放題には、現在4万点が配信されています。検索結果がシリーズ数(巻数が多い場合でも1としてカウント)でしか表示されないのですが、コミックは「少年」988件、「少女」1848件、「青年」2239件、「女性」1137件。小説は「文芸」が914件、「SF」が184件、「ミステリー」が543件、「ライトノベル/ティーンズノベル」が413件という感じです。ざっと見た感じ、古い作品が多いようです。このうちどれくらいが「Kindle Unlimited」に配信されることになるのでしょうか?
Kindle先行・限定タイトルは現在3万9000点
いま日本のKindleストアにある「Kindle先行・限定タイトル」には、3万9000点配信されています。ただ、左カラムの「出版社」を見ると計500点程度しか表示されないため、恐らくこのほとんどが「Kindleダイレクト・パブリッシング」で「KDPセレクト」オプションを付け Amazon 独占配信にしているタイトルだと思われます。
なお、Kindleダイレクト・パブリッシング利用規約の最終更新日は現時点で2016年1月18日ですが、オプションの「KDPセレクトプログラムの利用規約」には既に「Kindle Unlimited(中略)ならびにKindleオーナーライブラリーに掲載」と明記されているため、「KDPセレクト」オプションを付けて Amazon 独占配信にしていたら、「Kindle Unlimited」が日本で開始されたら自動で掲載されることが確定しています。つまり、アメリカと同様、日本の「Kindle Unlimited」も多くが「Kindleダイレクト・パブリッシング」の作品、ということになりそうです。
恐らく出版社系もボーンデジタルの作品は配信する
恐らく出版社系でも、ボーンデジタルで短い本(イーシングル)は、「Kindle Unlimited」に出さない理由がない、と思われます。たとえば「ゴマブックス」が約3900点、「All About Books」が約2700点、「朝日新聞デジタルSELECT」が約1900点、「impress QuickBooks」が約500点、「カドカワ・ミニッツブック」が約300点、などなど。たぶん1万点くらいがラインアップされるのではないかと思われます。
競合サービスは?
ブックパス読み放題コース
取り扱いジャンル:コミック、雑誌、小説、実用書
取り扱い冊数:約4万点
月額:562円
コミックシーモア読み放題フル
ジャンル:コミック
点数:1万782タイトル/2万4687冊
月額:1480円
コミックシーモア読み放題ライト
ジャンル:アダルト系以外のコミック
点数:2849タイトル/8722冊
月額:780円
Yahoo!ブックストア読み放題
ジャンル:書籍、コミック、雑誌など
点数:約2万冊
月額:432円
その他
「dマガジン」など電子雑誌の読み放題サービスが競合として挙げられている記事を多く見かけますが、恐らく「Kindle Unlimited」には雑誌があまりラインアップされないため、競合することはないと思われます。理由はデータ制作上の問題で、KindleストアはPDFが配信できないからです。
[追記:ジャーナリスト西田宗千佳さんから、以下のような指摘がありました]
一点だけ私から指摘しておくと、こちらでは、複数の出版社から「雑誌を提供する」との情報を得ている。いくつかの報道でdマガジンが競合に挙げられているのは、その情報を加味したものと考えます。 https://t.co/bgb6qiqSo2
— Munechika Nishida (@mnishi41) 2016年7月19日
雑誌をEPUBで制作するフローができているところはむしろ、提供する可能性が高いのかもしれません(追記ここまで)
他の競合他社が急いでいるらしい
これも噂話なので眉に唾を付けておいていただきたいのですが、電子書店でKindleストアと競合しているR社やB社などが、「Kindle Unlimited」に先んじて読み放題サービスを開始しようと準備しているそうです。あくまで噂です。
結局、どうなる?
私が出版社側の立場であれば、アラカルトで充分売れているタイトルを、わざわざ読み放題へ提供することはないでしょう。あまり売れていないタイトルを読み放題へ提供することで、少しでも売上を増やそうとするはず。そうすることにより再発見され、再評価される場合もありますからね。
となると、作品で稼ぐための手段として、無料配信・広告モデルの「マンガ図書館Z」が最後の砦とするなら、「Kindle Unlimited」はそのもう少しだけ手前のポジションという位置づけになりそうです。どっちへ出すのが得なんだろう? という天秤です。
読者側はどうか? なんだかんだで Amazon のネームバリューにより、そこそこ会員は集まるのではないかと思われます。ただ、上で挙げた競合他社は既に顧客を囲い込んでおり、あまり「移行」は起きないのではないか、とも思います。鍵を握るのは「エロ」かな?