編集者への評価が可視化された講談社の新マンガ投稿サイト「DAYS NEO」

 この記事は「出版ニュース」2018年7月上旬号へ寄稿した原稿の転載です。以下、縦書き原稿を横書きに変換、改行(空行)増し、タイトル末尾に「DAYS NEO」の追加、見出しの追加、リンクの追加などをほどこしましたが、内容・文体(常体)は掲載時のままです。

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編集者を逆指名できる投稿サイトの意味

 講談社の新しいマンガ投稿サイト「DAYS NEO(https://daysneo.com/)」の仕組みを知ったとき、筆者は「やられた!」と思うのと同時に、同社のマンガ編集者たちのことが、ひとごとながら心配になった。どれだけの人が、この仕組みの意味に気づいているか。そして、そのことがもたらす未来が、どのようなものなのか。これはある意味、編集者にとって非常に残酷な仕組みなのだ。

 集英社の「ジャンプルーキー!」など、出版社自身がマンガ投稿サイトを運営し、デビューへの登竜門にする仕組みは、いまではそれほど珍しくない。そんな中にあって「DAYS NEO」は、投稿者が編集担当者を逆指名できるシステムである点が、大きな特徴になっている。ベータ版オープン時のプレスリリースに書かれた「これからは、漫画家が編集者を選ぶ時代」という一文は、非常に筆者の目を惹くものであった。

 「DAYS NEO」の「編集者一覧」を開くと、「ヤングマガジン」「モーニング」「アフタヌーン」「イブニング」「Kiss」「BELOVE」「コミックDAYS」「月刊少年マガジン」「月刊少年シリウス」の9誌、130人以上の編集者がずらりと並んでいる(※)。そしてよく見ると、名前とプロフィール画像の下に、★マークと数字が記されていることに気づく。

 編集者の名前をクリックしてプロフィールページを開くと、編集者が投稿作品に付けたコメントの一覧が表示される。そのコメント一つ一つに「いいね」ボタンが設置されている。つまり★の数字は、一般ユーザーによるコメントへの評価総数であることがわかる。

 要するにこれは、編集者が投稿作品をどれだけ読んで、どれだけコメントを付けたかが、誰でもすぐわかる形で可視化され、さらに、そのコメントが的確なものであるかどうかを一般ユーザーから評価され、その評価もまた可視化されているという、大変恐ろしいシステムなのだ。

 いや、恐ろしいのは当事者である編集者にとっての話で、むしろ投稿する側からすれば、これは当然のことと言っていい。なにしろ「投稿者が編集担当者を逆指名できるシステム」をウリにしているサービスなのだから。どんな編集者なのか、どれだけ熱心に仕事しているのか、そして、どれだけ一般ユーザーから支持されている編集者なのか。逆指名するに足る編集者なのかどうか、客観的に判断可能な指標が示されていてしかるべきだ。つまり「DAYS NEO」は、投稿者とその作品が吟味される投稿サイトであるのと同時に、編集者も吟味される場でもあるわけだ。

新しい仕組みに熱心な編集者と、そうじゃない編集者が可視化される

 面白いことに、4月2日の正式オープンから本稿執筆時点で数カ月が経過しているが、すでに★が数百を超えている編集者もいれば、いまだ単にアカウントがあるだけで★はおろかコメントすら皆無の編集者もゴロゴロしている。中には、プロフィール文すら空欄のままの編集者もいる。この新しい仕組みに対し、熱心な編集者とそうじゃない編集者がいて、それが誰でも見られる形で世の中に開示されているのだ。

 もしかしたら、コメントも★もゼロという編集者は、持ち込みなど他の既存の手段によってすでに担当作家が大勢いて、新しい手段には手が回らないのかもしれない。ただ、投稿者からすれば、そんな事情は知ったこっちゃない。編集者に当たり外れがあるのは半ば常識だ。編集者に付いた★の数によって、シビアに判断されることになるはずだ。仮に★が少ない編集者から「担当希望」されたとしても、投稿者としては「本当にやる気あるの?」と疑問に感じてしまうことだろう。

 コメントの数も★の数も、一朝一夕には増えない。コツコツ積み重ねていくしかないのだ。いずれ、★やコメントの多い編集者に逆指名が集中し、少ない編集者は投稿者から相手にされず、慌てることになるだろう。評価が可視化されているというのは、そういうことなのだ。そんな未来が容易に予想できてしまったため、冒頭に書いたようなことを思ったのだ。

 ちなみに筆者が「やられた!」と思ったのは、似たような評価システムを構想していたためだ。もちろんアイデアは、アイデアのままでは意味がない。世に送り出されて初めて意味を持つ。これを実際のサービスとして提供を始めた講談社「DAYS NEO」チームと、システム運営担当の未来創造に、心から敬意を表したい。

出版社を通じて作品を世に送り出す意味が問われている

 さて、マンガ誌の編集者にとって新人の発掘方法は従来、新人賞への応募作品や持ち込みが中心だった。ところが紙のマンガ誌が売れなくなり、休刊になったりウェブマガジンへ移行したりといったケースも増えてきた。そういった中、新興IT企業など出版社以外も、自社のIP(知的財産)を持つため、熱心に新人発掘を行うようになってきた。そして、投稿サイトやSNSから才能が発掘されることも増えてきた。新人獲得競争は、どんどん激化しているのが現状だ。

 出版科学研究所によると2017年、コミックス(単行本)の売上はついに紙と電子が逆転した。従来は、リアル書店へ営業することが拡販の有効手段だったが、今後はインターネット上でのマーケティングが拡販には必須となる。ところが正直言って、インターネットに弱い出版社がまだまだ多い。作家のSNSでの発信力に、強く依存しているような状況も見受けられる。出版社が作家に宣伝活動まで求めるなら、プロモーション費用分還元すべきではないかとも思うほどだ。

 作家にとって、出版社を通じて作品を世に送り出す意味は、個人でやるより何倍もの範囲に作品が届けられるからというのが本質だ。出版社を通してもたいして売れず、個人でやるのと大差ないなら、出版社を通す意味はない。それどころか、かえって損かもしれない。初版部数がどんどん絞られるようになってきたいま、出版社の存在意義が強く問われるような状況になりつつあると言っても過言ではないだろう。

 2013年に、マンガ家の鈴木みそ氏が個人出版で1000万円稼いで、大きな話題になった(参照:)。当時はまだ先駆的な事例だったが、電子出版市場が拡大するにつれ、後追いの事例も増えてきた。最近では『怪盗ルパン伝アバンチュリエ』の森田崇氏が個人出版を始め、最初の3カ月半で360万円稼ぎ、話題になっている。

 もちろん、成功事例があれば、失敗事例もある。「誰もが個人出版で成功できる」などというのは、ただの幻想だ。ただ、紙の出版市場が縮小するのと同時に、SNSなど作家と読者が直接繋がれる手段が普及した結果、出版社を通じた場合の期待値と、個人で直接出版した場合の期待値は、少なくともマンガに関しては、以前より差が小さくなってきているように思う。いずれ、マンガ以外も同じような現象が起きてくるだろう。そういう状況に気づき、すでに手を打っている出版社と、従来のやり方に固執している出版社とでは、大きな差がつき始めているのではないだろうか。

※注:これは本稿を執筆した6月中旬時点の数字で、9月2日時点では11誌150人に増えている

初出:出版ニュース2018年7月上旬号 DIGITAL PUBLISHING No.185

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