どうやら Gumroad は、本国アメリカではそれほど話題になっていないようですが、日本ではウケたので、日本を主要ターゲットとする方針のようですね。日本語表記対応も近日中に行われるようです。[追記]と書いているあいだに、日本語化されていました。早い。
Gumroadは日本が大好きらしい 早くも日本語サイト?(ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1202/15/news100.html
Breaking News!今日GumroadのCEO Sahil Lavingiaと話したが、今日にも日本語に対応が完了するかもとのこと!!!
— 朝山貴生 Takao Asayamaさん (@TakaoAsayama) 2月 16, 2012
さて、前々回・前回の記事で Gumroad の問題点について挙げさせて頂いたのですが、解決策の提示が無いというご指摘を頂いてます。「こんなのダメだゴミだ」とケチをつけるのは簡単ですが、建設的でないのも確かです。
Gumroad の問題点についてもう少し掘り下げてみました。
1本目の記事の目的は、著作権者への警鐘。2本目の記事の目的は、さまざまな角度から見た問題点の把握と提示でした。そこで今回は、問題の解決策について考察してみたいと思います。
Gumroad の特徴は、「販売したい」と思う人の参入が非常に容易だという点にあります。Twitter か Facebook のアカウントを持っていれば、トップページから3回クリックするだけで商品販売リンクを作成する画面に辿りつけるという簡潔さは凄いと思います。PayPal の設定は後からでもOKで、とにかく販売用短縮リンクを即座に作り、即座に配信できる仕組みです。
問題の根が、この「売り手の参入ハードルが低い」点にあるのが厄介なのです。参入ハードルを高くすればするほど、特徴を損ねてしまうという二律背反なのです。
ところで、「レモン市場」というのをご存知でしょうか?
ご存知でしたらしばらく読み飛ばして下さい。
レモンは皮が固いため、中がどうなっているかわかりません。生産者はそれをいつ収穫したかを知っています。その情報が生産者や販売者に隠されていたり偽られていたとしても、消費者にはわからないのです。これを情報の非対称性といいます。
よくレモン市場の例えで用いられるのが、中古車市場です。むかしの中古車市場は、メーター改ざんは当たり前、事故車を事故車じゃないと偽って売ったり、複数の事故車をぶった切って一台にして売る「ニコイチ」とか、展示在庫ではない(どこかの駐車場で撮ってきたような)写真をオトリ広告に使ったりと、めちゃくちゃだったそうです。
もちろん、ちゃんとした業者もいれば、悪い業者もいます。でも、消費者にはそれを判断する術が無かったため、「中古車販売店は全て信用できない」という判断をする人も多かったようです。これによって、新車信仰、すなわち日本では新車の方が中古車より断然売れる※という不思議な状況を生み出していました。つまり、一部の悪いことする奴らが、中古車市場全体の足を引っ張っていたということです。
※ 日本自動車販売協会連合会の発表している中古車登録台数には、業者間取引も混ざっています。
日本の中古車市場が大きく変わったきっかけは、買取専門店ガリバーの登場と、中古車情報誌の登場だと思います。ガリバーは、中古車の下取という概念に革命を起こし、自動車メーカー自身が系列販売店を守るために中古車へ注力せざるを得ない状況を生み出しました。中古車情報誌は、消費者が安心して中古車を購入できるように、情報の非対称性を解消するための努力を続けてきました。最近の中古車情報は、以前では考えられないほど品質に関わる情報がオープンになっています。
ところで、中古車の販売店になるためには何が必要かをご存知でしょうか?もちろん商品を仕入れるための資金や、仕入れをするためのオークション会場会員になること、店舗・展示場なども必要ですが、そういった商売に必要な要素以外で特別に必要なのは、警察が発行している古物商の免許だけ※です。そしてこの古物商免許の取得には、特別な審査や資格は必要ありません。申請をするだけ※で取得できます。
※ 古物商の免許は中古品全般の売買に必要です。中古車の売買だけに必要なものではありません。
※ ただし、むかしに比べると最近は警察もうるさくなって、簡単には許可が降りないようです。
自動車整備士になるためには国家資格が必要です。つまり、国家試験に合格する必要があります。また、自動車整備を事業として行う際には、国からの認証が必要です。でも、中古車の販売店をやるだけなら、整備は外部へ委託すればいいので、これらの資格や認証は必要無いのです。
この参入ハードルの低さが、悪いことをする奴らに中古車市場が荒らされてきた原因と言えるでしょう。極端な話、仕入れの資金と手段さえあれば、店舗や展示場すら必要無いのです。
非常に簡素化された仕組みなので、売り手の参入ハードルが低いのと同時に、商材がデータなので、不正な手段を使えば仕入れのための資金すら必要ありません。そして、商材が並んでいる「場」が無い※ため、不正な販売を行った形跡を発見しづらいという特徴もあります。つまり、ちょっとだけ小遣い稼ぎみたいな軽い気持ちで、バレずに悪いことができてしまう仕組みなのです。
※ Twitter や Facebook は、人によって観測範囲が全く異なるため、「場」とは言えないと思っています。
まず1つ目の提案は、購入ページに販売者の情報を載せることです。
……いくらなんでもこれは酷い。誰が販売者なのかを調べることすらできません。最低限、初回認証の際に利用した Twitter か Facebook のリンク程度は用意しておくべきでしょう。
2つ目の提案は、販売者の個人情報が入力完了しない限り、購入できないよう制御することです。I want this!ボタンを非表示にしておくのがいいと思います。短縮リンクの作成までは今のままの流れでいいと思いますが、いくらなんでも販売者が PayPal の情報すら入力していないのに、購入ができてしまうというのはまずいと思います。また、氏名・住所・電話・メールアドレスなど、Twitter や Facebook 以外の手段で連絡が付く方法が無いと、トラブルが起きた時にアカウントを消して逃げられたら困ってしまいます。
3つ目の提案は、データ保管する場所を Gumroad に限定し、ダウンロード可能回数に制限を設けることです。購入者にはデータのある場所がURLで示されますが、そのURLが他の人に知られてしまうと、タダで何度でもダウンロードできる仕様になっています。つまり1回誰かが購入し、そのURLを仲間内で共有すれば、支払いはその1回で済んでしまうのです。これは販売者にとって、危うすぎます。
4つ目の提案は、公式の「場」を早期に用意することです。「公式に無いなら作っちゃえ」という発想で、既に有志が検索できる「場」を用意※していますし、事業が軌道に乗ってくれば恐らくのちのちには Gumroad 自身が「場」を用意するでしょう。人が集まる「場」は、そこから派生するビジネスが可能になるからです。それを、簡素なものでもいいので、早期に用意して欲しい。少なくとも「場」があれば、不正を見つけやすくなります。
※ ちなみに検索してみると、既にいろいろと権利関係でアウトっぽいモノが見つかります。この有志による「場」の存在が、情報発信者と購入ページを切り離してしまうため、かえって不正行為を助長するという指摘もあります。
5つ目の提案は、深津さんから頂きました。販売者の販売商品一覧や、購入者による販売者評価を見られるような仕組みを用意することです。ヤフオクのような形で履歴や評価・コメントが見られるようになっていれば、消費者が購入前にさまざまな判断をすることができます。
6つ目の提案は、販売者の身元を保証するような仕組みを用意することです。Twitter や Facebook で、著名な誰かのなりすましを見分けるのは、ネット歴が長い人であれば比較的たやすい※ですし、情報が拡散していけばいずれバレます。ただ、参入ハードルがあまりにも低いため、なりすまし → 販売 → バレる → アカウント削除 という短期間でちょっとだけ小遣いを稼ぐことくらい簡単にできてしまうのです。
※ ネット上で長期間活動し情報を発信し続けている人は比較的信頼性が高いと言えます。
Twitter や Google+ の認証済みマークはどうやって取得すればいいかわかりませんし、Facebook の認証済みマークはこれから始まるところであまり認知されていません。また大手のSNSは恐らく、膨大な人数の創作者に1人1人認証を付けるような手間はかけないでしょう。信頼性の高い販売者を数多く集めることは、競合他社との差別化にもなります。認証には、自分のホームページなど Gumroad 以外での活動実績があれば充分だと思います。そして、その情報はもちろん、購入用ページに表示すべきです。
ちなみに、ニコニ・コモンズ関連でも問題になっていますが、著作者自身がその著作物の制作者である証明をすることは意外に困難です。例えば絵であれば、下書きなどの絵を描く途中工程の情報※を持っていれば、信頼性が高いと判断することができるでしょう。これは創作者が今後の自衛策として頭に入れておくべきことだと思います。
※ レイヤー結合前のPSDファイルなどで充分だと思います。ただ、「著作者であることを証明するためだけに、PSDファイルを事業者に渡す」といった行為は、その事業者に対しよほどの信頼(確認後必ずデータは削除する、とか)が無いとできませんが……
7つ目の提案は、しっかりとした不正行為防止策を講じることです。1から6までの対策が講じられれば参入ハードルはわりと高くなっているので、オプトアウト方式(通報があれば対処)でも構わないと思いますが、今は違反データの通報方法すら無い状態です。規約にはずらりと禁止事項が並んでいるのに、受け付け窓口すら無いという状態には呆れるしかありません。
そして8つ目は、Gumroad に対してではなく、創作者の方々への提案です。こういった仕組みを積極的に活用しましょう。消費者は、海賊版と本物が同じ条件で並んでいれば、本物を買いたいと思うモノです。
9つ目は、消費者の方々への提案です。まず本物の販売者(正規の著作権者)かどうかを疑いましょう。本物の販売者を見ぬく目を持ちましょう。そして、本物から買うようにしましょう。そうすることが、創作者がまた新たな作品を生み出す活力になります。
ただし8つ目、9つ目の提案は、Gumroad が今のままの状態ではないことが条件です。今のままだと、圧倒的に販売者が有利な仕組みです。消費者との情報の非対称性にもほどがあります。今のままなら、販売者ばかりが玉石混淆の情報を発信し、消費者はそれに不信の目を向けるしかないという状況になります。
この提案がベストと言うつもりはありません。もっといい解決方法があるかもしれません。願わくば Gumroad が諸々の問題点を早期に改善し、みんなが喜んで利用できる場になることを望みます。
[2/21追記]
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社から、キャラクターの二次創作物デジタルデータのダウンロード販売は『ダメ』という公式見解が出ました。
デジタルデータのダウンロード販売に関しまして