友だちと一緒に書店へ行った時に「最近どんな本読んだ?」と聞いたら薦められた1冊。その場でハードカバーを購入したのですが、随分前に文庫が出ているし、映画化もされているんですね。
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百田 尚樹
講談社
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第二次世界大戦中の零戦にまつわる話を、生き証人に語らせるというフィクションです。司法試験勉強中の主人公とフリーライターの姉が、最近まで存在すら知らなかった実祖父の生前を追いかけるというストーリーになっています。
参考文献のタイトルはこんな感じ。
「零戦最後の証人」
「大空のサムライ」
「零戦燃ゆ」
「海軍航空隊生活」
「空母零戦隊」
「カミカゼの真実」
などなど。実際にあった話をベースに、物語は組み立てられています。戦艦ミズーリの話は Wikipedia にも載っていますね。あくまでこの話はフィクションですが、戦争の記憶が風化しかけている今、こういった判りやすい形で若い世代に過去の悲劇を知ってもらうというのはアリだと思います。
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、「何がなんでも生き延びる」と公言していた男が「なぜ死を選んだのか?」が判るクライマックス、その直前で明かされた事実が、ボクの想像には全く無かったので思わず「おおっ」と声が出ました。著者の百田尚樹さんは放送作家ですが、この構成は本当に旨いですね。さすがだなーと感心させられました。
ただ、帯(※ボクの持っているのは第九刷です)の謳い文句「最強のミステリー!」は、つい先日亡くなられた児玉清さんの書評から採ったようですが、この本をミステリーと呼ぶのは何かちょっと違うなーという気がします。ミステリーの定義から外れてはいないのですが、そこが主題か?と言われると、うーむとクビを傾げてしまう。
また、けっこう序盤で姉の恋人である新聞記者が、「カミカゼ特攻隊は狂信的なテロリストだ」と言いだしたのには強烈な違和感を覚えました。「こんなこと言うような、歴史を知らない日本人の新聞記者がいるのか?」と。
でも、参考文献をチェックしてみて判ったんですが、「カミカゼの真実」は副題が「特攻隊はテロではない」なんですね。わざわざそれを否定する本を出さなければならなかったのは、どうやらアメリカ同時多発テロの時に、カミカゼ特攻隊を連想した人が少なからずいたようなんです。
上官の命令が絶対であるという軍隊の掟や、家族への手紙すら検閲され墨を塗られるといった時代背景をよく知らなければ、短絡的に考えてしまうのかもしれませんね。違和感を覚えたボクの方が、もしかしたら少数派なのかもしれません。
たぶんこういうのは、学校でどんな歴史教育を受けたかによって、個々の認識が違ってくるのでしょう。とくに近現代史は、政治的背景から歴史認識が論争になったり、「大学入試に出ないから教えない」といった話もありますし。Wikipedia の「南京大虐殺論争」を読むと、この辺りの話の面倒くささがよく判ると思います。
また、興味関心の度合いは、当事者性にも大きく左右されます。 例えば欧州の人の多くは、自分には直接関係のない日本の歴史に興味を持たないでしょう。逆にボクも、アメリカが対ドイツ戦略爆撃において多大な犠牲を払いながら昼間爆撃を行った(敬意を表してマイティ・エイスと呼ぶそうです)なんてことは知りませんでした。
ボクの父方の祖父は、シベリア抑留から生きて帰ってきた人でした。祖父がシベリアでどんな目にあったか、祖父がいないあいだ祖母がどんな苦労をしたか、帰ってからどんな辛い思いをしたか。ボクは聞いたことがありませんでした。もう二人とも亡くなっているので、もう永遠に聞くことはできません。だからせいぜい、文献に残る他の方々の証言から、想像することしかできません。
いまボクたちが平和な時代を生きることができるのは、過去に多くの人々の尊い犠牲があったからです。少なくとも、何があったか理解しようと努力をし、なるべく「正しい」と思われる歴史を後世に伝えていかねばならないと思います。
歴史は勝者によって創られる。