日経ビジネスオンライン11月28日付の「記者の目」を読んで、ちょっといろいろ思うところがあったのでエントリーにします。
孫正義の透視眼 記者は単なる媒介者か?
1ページ目に書かれている、小板橋太郎さんという記者の、初めて孫正義さんに会った時のエピソードがなかなか興味深いです。
私が初めて孫社長にインタビューしたのは、日本経済新聞の記者をしていた2007年12月28日。その日のことをよく記憶しているのは、冒頭から孫社長に激しい「お叱り」を受けたからだ。
東京・汐留にあるソフトバンク本社26階の応接室に現れるやいなや、孫社長は「日経新聞と総務省はグルなのか! 審査の結果が正式発表前に新聞に出るなんておかしいじゃないか」と言い放った。
これはなかなか貴重な体験だと思います。(おそらく)自分が書いたわけではない記事について怒りをぶつけられ、それを弁護しなければならない立場というのは、外回りをしているとよくあることです。ましてやその相手が孫正義さんなんて。そういう貴重な体験を元に、どのように記事が展開するか、ちょっと興味を持って読み進めました。
だけど、2ページ目まで読み進めるうちに、幾度となくツッコミを入れることになりました。まず「記者」としての立場について。
自分のことをこんな風に言うのはいささか恥ずかしいが、私は記者としては議論で相手を打ち負かす能力を持っていない。そのため、相手に気を許してもらって情報を得るしかない。いわば、「膝に乗っかる」タイプの記者だ。
これ、前提条件を誤っていると思うのですよ。記者の仕事は自分の意見を相手に伝えることではないでしょう。なぜ、インタビューする相手と議論をする必要があるの。相手から本音を引き出すテクニック? だったら、記者が相手を打ち負かす必要は無いでしょ。打ち負かしたところで、相手の本音なんか引き出せやしないですよ。
その時ピンと来た。孫社長はタスクフォースやマスコミに訴えているのではないと。孫社長はネット中継のUSTREAMを見ている一般大衆に直接訴えているのだと。
そこに気づいたのは素晴らしいと思います。でも、「なぜ孫正義さんがそういう手法を採るようになったのか」という方向で、自省しなければいけないのではないでしょうか。しかし、記事はそういう方向ではなく、孫正義さんと対比させようと、5人の名前を挙げます。
「君は日本国憲法を読んでいるのかね」。記者会見で質問する記者をにらみつけ、不快感を隠さない小沢一郎・元民主党代表だ。彼は目の前にいるインタビュアーに対して、感じたことをそのまま返してくるタイプだ。その言動が、記者やカメラの向こうにある何千万という一般大衆にどう見られるかについては、あまり考えが及ばない。つい本音が出てしまう。
「違います」と断言しましょう。記者やカメラの向こうにある何千万という一般大衆にどう見られるかを計算しているからこそ、記者クラブの会見を嫌うようになったんです。マスコミには、発言の一部だけを切り取って印象操作をされてしまうから。
インターネットで会見の一部始終をノーカットで見られるようになったのが大きい。記者に対し不快感を隠さないということは、視聴者に「バカな質問をする記者だな」という印象を植え付けることができます。勉強しているなーと感じられるいい質問がくると、嬉々として答えている様子も見られます。一次情報を目にした人々は、そういった全体像で小沢さんの人間性を判断します。小沢さんは分かった上で、そういう姿を演じていると思いますよ。
石原慎太郎・東京都知事や、菅直人・前首相、かつてのサッカー日本代表である中田英寿氏もその類だ。「おれはビッグだ」と言ってマスコミを敵に回した歌手の田原俊彦氏もそう。記者の挑発に乗る、分かりやすいキャラクターだった。その代わりに親近感は感じる。自分の周囲にもこんな人がたくさんいる。
石原慎太郎さんは小沢さんと似ていて、記者の挑発に「わざと」乗っているように感じます。つまり、分かりやすいキャラクターを演じていると思います。菅直人さんは、記者の挑発に乗りやすい方なんでしょうか? ボクはあまりそういう印象は持っていません。
中田英寿さんをここで挙げるのは、明らかに間違っています。発言の一部だけを切り取って印象操作されることに嫌気がさし、一切のマスコミ取材を拒否して、自身のホームページから自分の言葉で発信するようになった中田さんが、「記者の挑発に乗る、分かりやすいキャラクター」ですって? 「その代わりに親近感は感じる」ですって? 他の誰かと勘違いしているんでしょうか? 「マスコミが感じる疎外感」というこの記事の文脈だったら、むしろ中田さんは孫さんに近いと思いますよ。
そして田原俊彦さん。つい先日、TBSの「爆報!ザ・フライデー 田原俊彦『ビッグ発言の真実』」という放送がありました。デイリーモーションにアップされていたので貼っておきます。14分程度の動画なので、是非見て頂きたい。
当時のマスコミが、発言の一部だけを切り取って印象操作したことが、見事に分かります。そういうマスコミが創り上げた虚像に、恐らく日経ビジネスの記者さんも踊らされていたということなのでしょう。
一次情報をライブだろうと録画だろうと全て見聞きすることは不可能なので、マスメディアによって編集された情報というのはありがたいものです。編集されていない生データは、掘り下げた検証をするためには必要ですが、幅広く情報を集める際には大半が邪魔になります。ちょこっと興味を持っただけの話に、何時間もの動画を見る時間を費やすことなんかできませんからね。
しかし、二次情報を見聞きする時は、記者が作為的に編集を行うことがあるということを念頭に入れなければならないとも思います。一次情報が公開されていることはあまりないので、なるべくなら複数の二次情報に目を通す「クロスチェック」を行いたい。それさえ時間的に厳しい場合は、普段の言動から「信用できると」と判断した情報発信源を持っておくこと。誰がどうやったって、完全な客観性なんか保てないのですから、そこは割りきるしかないですよね。
でも、選ぶ情報源を誤ると、どんどんおかしな方向に流れてしまいます。週刊誌の中吊り広告や、2ちゃんねるまとめブログの下衆な見出し、ツイッターの短い煽り文句などに騙される人の多さに、ボクはかなり危機感を覚えています。最近は新聞(主に産経)ですら、酷い見出しを多く目にします。思い込みや脊髄反射で踊らされることがないようにしたいものです。