ドットDNPのイベント「ウェブから学ぶ電子出版の可能性」で感じた、本来追求すべき当たり前のこと

ドットDNP

5月7日にドットDNPで行われた、ゴールデンウィーク企画『五感で楽しむ本』スペシャルイベント第3弾「ウェブから学ぶ電子出版の可能性」へ行ってきました。レポートを兼ねて、感じたことを書き連ねておきます。

ボクがこのイベントに行ったのは、2016年4月1日に施行予定である「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(略称:障害者差別解消法)」が電子出版界隈にどのような影響を与えるのかを、アクセシビリティに関しては先行しているウェブの事例から学ぶことができるだろうと思ったからです。

登壇者は、株式会社ミツエーリンクス 取締役CTOの木達一仁さんと、株式会社Gaji-Labo 取締役CXOの山岸ひとみさんです。お二人とも使用したスライドを公開していただいているので、講演内容の詳細はスライドシェアをご覧ください。

木達さんは、ウェブアクセシビリティ基盤委員会(WAIC)副委員長でもあります。こちらが木達さんのスライド。「ウェブアクセシビリティは、障害者や高齢者のため「だけ」ではない」というフレーズが印象的でした。木達さん自身による振り返り記事はこちら

Webデザインにおけるアクセシビリティへの取組み

from Mitsue-Links Co.,Ltd. R&D Department Accessibility Team

山岸さんは、特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構認定人間中心設計専門家で、一般財団法人生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナーでもあります。こちらが山岸さんのスライド。「紙の書籍と電子書籍に同質の体験は求めていない」「情報は同じでも、体験は異なる」というフレーズが印象的でした。

読書体験を考える ――サービスとしての読書体験 from Hitomi Yamagishi

そもそもアクセシビリティは、追求すべき当たり前のこと

実際に話を伺ってみて、障害者差別解消法への対応といった狭い観点だけではなく、もっと広い視野で考えるべきなのだということを感じました。

木達さんによると、「アクセシビリティ」は対象がすべての人々で、利用できるかどうかの度合いを指すもの。「ユーザビリティ」は対象が特定の人々で、利用しやすさの度合いを指すもの。

明確に切り分けることは難しいけど、「ユーザビリティ」を確保するためにはまず「アクセシビリティ」を確保すべき、ということになるそうです。

つまり、障害者差別解消法施行によって政府・地方公共団体・独立行政法人・特殊法人は対策が義務化され、民間は努力義務だが指導や勧告に従わなかったりすると罰則があるという強制性があるから「アクセシビリティ」が注目されているわけですが、本来はそもそもすべてのユーザーの利便性を追求するための基礎である、というところから考えねばならないようです。

木達一仁さんと山岸ひとみさん

質疑応答で「ウェブからみた電子書籍の不満点は?」という質問があり、木達さんは「どこの書店で買った本でも、自分のライブラリの中で横串検索できるようになっていて欲しい」という点を挙げました。

そうなんですよ。そもそも「デジタルならこういうことできて当たり前でしょ?」ということの多くに、まだ制約があるままなんです。思わず客席から大日本印刷の方に「そういえば『オープン本棚プロジェクト』ってどうなってます?」と言いそうになりましたよ。喉まで出かかって止めましたけど。

山岸さんは「新刊はもちろん、古い本が電子化されておらず『存在しない』」点を挙げていました。ボクが電子書店ガイドを書き始めた2012年当時のラインアップは3万点程度だったのが、いまでは30万点を超えているので、かなりマシにはなってます。それでも「そもそも売ってないものは買えない」状況は、かなり多く残っています。

ITmedia eBook USERで「電子書店完全ガイド」を数年書かせていただいてますが、その5つのチェックポイントである「ラインアップ」「本の探しやすさ」「買いやすさ」「保管しやすさ」「読みやすさ」は、ガイドの構成要素としてずっと変わっていません。これらは本来、追求すべき当たり前のことだと思うのです。

「ユーザビリティ」の前にまず「アクセシビリティ」と考えると、マルチデバイスに対応してなきゃ話にならないわけですよね。スマートフォンでWebにアクセスしたら、PC向けレイアウトが表示されるとか、論外なわけです。

そう考えていくと、電子書店の人からすれば「何から修正しなければならないのか」という優先順位が立てやすくなるかもしれません。いやー勉強になった。

タイトルとURLをコピーしました