ネットで「実名」の意味が無い理由と、「匿名の危険性」について煽ることの無意味さ

(※写真:写真素材 足成より)

タイトルに書いた内容について、昨日 Twitter でつぶやいたらびっくりするほど反響があったので、エントリーとしてまとめておきます。

きっかけは東浩紀さんによる下記のツイート。

これを読んで「またか……」と思ったのは、たぶんボクだけじゃないはず。たぶん毎日どこかで「実名派」と「匿名派」がネットのどこかで論争を繰り広げているんじゃないでしょうか。

この問題を語る時に、どうしても二元論になる人が多いのだけど、「匿名性」って本人特定の難易度で段階があるんですよね。2ちゃんねるだって完全匿名ではないし、逆に「実名です」と自称していてもそれを証明する術が無い人が大半だと思います。

詳しくは後述しますが、ボクはこの問題のポイントは実名か否かではないと思っています。少なくとも、「みんなが実名を名乗ればいい」なんて簡単な話ではないです。

実際のところ、現時点のネットで実名を名乗ることにメリットがあるのは、東浩紀さんみたいな有名人だけだと思います。中川淳一郎さんによる下記の記事が、ボクには非常に納得できました。

・決して有名人ではない人がネットでは匿名の方が良い理由9個

http://getnews.jp/archives/119284

恥ずかしい発言・写真がアーカイブ化される。自分では消したつもりでもすでに魚拓を取られたり転送されまくり、もはや制御不能に

いじめる対象として、相手が匿名では面白くない。実名の方が相手の人生を狂わせることが可能なので「いじめがい」がある。故に実名の人はいじめられやすい

東浩紀さん宛の Mentions を検索すると、呆れるほど膨大な口撃に晒されているのが判ります。だけど、冒頭に挙げた東浩紀さんのツイートは、ちゃんと文脈を読むと、そういった自分の経験だけに基づいているわけでは無いということも判ります。要するに、軽犯罪告白→炎上→個人のプライバシー暴露、電凸、追い込みといった事例があまりにも目に付くため、憂慮しているという話なのです。

そういった「匿名の人から他者への過剰な攻撃」を防ぐための方法として、東浩紀さんは「やりすぎると正体ばれるってだけで、かなり抑制効果はあると思う」と、実名表記の義務化を推しているようです。

でもボクは、ここで問題にされている「匿名側の暴走」というのは、最近になって急に発生してきた現象ではなく、ネットに限った話でもないと思うんです。ネットの存在は、暴走している姿を誰にでも判りやすいように可視化しているだけで、例えば「匿名のイタズラ電話」とか、「匿名の投書による誹謗中傷」なんて、昔からよくある話じゃないですか。

実際のところ、ネット上の「匿名性」というのはそれほど堅牢なものではありません。捨てアカウントで暴言ぶつけて削除して逃げても、どこかに証拠は残ります。ニンテンドーDSから2ちゃんねるに通り魔予告を書き込みして、逮捕された中学生がいい例です。ポイントは「ネットは、実は匿名性は高くない」ことを知らない人が多いことです。

「ネットは、実は匿名性は高くない」ことをちゃんと判っている人は、法律上「黒」と判定されずに済むラインをなかなか踏み外しません。余談ですが、民事訴訟はハードルが高いので、グレーではなく「黒い」行為でも、相手と程度次第では反撃されずに済みますが、「判っている人」はその辺りのラインを見極めるのも上手いのです。

「匿名の投書による誹謗中傷」は、消印・筆跡・指紋などからしか相手を特定することができません。「匿名のイタズラ電話」は、番号非通知にされたら逆探知や声紋ですかね? 最近の技術だと、逆探知にはどのくらいの時間がかかるか判りませんけど、いずれにしても相手を特定するのは非常に難しいです。そういった「匿名性」の高さが、反撃されずに攻撃するための手段として悪用されているわけです。

こうした理由から恐らく、「ネットは、実は匿名性は高くない」ことがしっかり認知されれば、「法律的に黒」な攻撃は少なくなるのではないか、とボクは考えています。

ところが現状では、マスコミなどが「インターネットの匿名性を悪用して~」的な報道を繰り返しすぎたせいで、「匿名性」に対する過信と誤解が世間に蔓延してしまっているような気がするんですよね。新聞・TVなどの既存メディアはいつまで経っても、インターネットを「自分たちの商売の邪魔をする存在」として扱っていると思います。

「インターネットは匿名性を悪用する人がたくさんいる怖い所です」と恐怖を煽る報道・教育をするのではなく、「インターネットの匿名性は、実はそんなに高くないので、悪用すると逆に痛い目にあいます」ということをしっかりと認知させればいいと思うんです。

ボクは「インターネットで実名を名乗ること」は、「相手に与える印象」という心理的な意味以外は無いと思っています。「私は実名です!」と言った所で、それを証明する手段が無ければ匿名(顕名)と同じことです。試しに”鷹野凌”で検索すると判ると思いますけど、ネット上にリアルのボクを特定できる情報は無いと思います(※これを書いた当時の話です)。

“鷹野凌”とリアルのボクを結びつける情報が無ければボクを特定することはできないから、それが実名だろうが匿名(顕名)だろうが大した問題ではないということになります。ところが仮にボクがネット上で悪いことをしたら、名前が”鷹野凌”だろうが何だろうが全く無関係に、発信者情報(IP)からリアルのボクが特定されます。

だから「実名・匿名論争」は無意味なんですよ。匿名の危険性について煽るのはそろそろやめて、匿名性を悪用することの危険性を認知させましょうよ。「民度が高くない」と言うのであれば、その民度を上げる努力をすればいいんです。

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