こちらに参加してきました。著作権法改正の法案化や、ダウンロード厳罰化といった動きに対し、学会がどのような見解を示すかとても興味があったからです。
ボクは学会員ではないし学生でもないので、参加費2,000円納めてきました。まあそれだけの価値はあったかなーと思います。簡単なレポートにしておきます。
プログラムはリンク先通りの内容でした。阿部浩二さん(岡山大学名誉教授・元著作権審議会会長)の記念講演は著作権法改正の歴史についての話で、学会にずっと関わってきている方ならたぶん懐かしいと思うお名前がいっぱい上がっていたのでしょう。ボクはその辺りぜんぜん詳しくないので、半分以上聞き流してしまいました。
午前中のシンポジウムは、欧米の著作権法リフォーム(全面改正)議論について。複製や送信が誰でも簡単にできるようになった現状、法と社会規範が乖離してしまっているというのは欧米でも問題になっているようです。
アメリカでは、著作権の登録制度(方式主義)を復活させようという意見が強いようです。また、アメリカにはフェアユース法理はあっても、プライベートユース(非商用の私的複製:日本の著作権法30条)の規定が無いというところから、そういう制度を設けていった方がいいのではないだろうかという提案がなされているようです。
興味深いのは著作権保護期間について。著作権法リフォームの議論を行ったCopyright Principles Projectのメンバーには自由派も権利者側の利益を代弁する立場の人も両方が入っていたらしいのですが、その総意として「今の保護期間は長すぎる」という見解だったそうなんですね。
一部の声の大きい権利者のロビー活動によって、法律が歪められてしまうというのはどこの国でも同じようです。ただ、そのプロセスが米国では開示されているのに対し、日本では密室で議論され開示されない場合が多いため、どういう理由でそうなったのか研究したくてもできない場合が多いとか。それは欧州でも同じような状況(立法プロセスが不透明)なようです。
欧州では、現時点で重要視されている著作者人格権の保護が、英米法に近い形に修正した方がいいのではという提案がなされていたり、死後70年という保護期間は長すぎるという見解になっているようです。
午後からは、では日本は?という話に移ります。
中京大学講師の京俊介さんは政治学の研究者なんですが、「著作権法改正の政治学」という本を書いたということで呼ばれたそうです。学会でこういうのは珍しいのかな?
posted with amazlet at 12.04.21
京 俊介
木鐸社
売り上げランキング: 48949
著作権法の立法過程に関する政治学分析を行なっている本、ということです。講演はその概略について。詳しくは本を読んでくださいと言ってましたが、専門書は高いですね……。
著作権法というのは、多くの有権者があまり関心を持たず、エリア特性のある話でもないため、政治家も積極的に関与しない分野なので、単純なモデル(ゲーム論)に落としこむことで、バイアスの方向性や将来像が見えてくるのではないか?というのがざっくりとした内容です。官庁が政策案を作る際に、利益集団が政治家に陳情するか否か、その利益集団による陳情が政治家を動かしやすいかどうか、というような観点からの分析を行なっています。
よっぽど変な情熱を燃やす与党議員や野心的な文部科学省官僚が登場しない限り、リフォームはできないのではないか?というのが結論でした。夢もキボーもありゃしない。
その後登壇した方々からも、政策形成プロセスでは少数派バイアスが強く働き、利益が薄く広く拡散されているため組織化されにくいユーザーの立場というのはないがしろにされがち、という話が何度も指摘されていたのが印象的でした。
そして学会としては、著作権審議会で散々議論して出した提案(※日本版フェアユース)が、どこでどういう判断をされて削りに削られ、今回の法改正案に至ったかというプロセスがうわさ話程度でしか伝わってこないのが、大いに不満であるというのが、登壇者の語る言葉の端々からひしひしと伝わってきました。逆に、日本版フェアユースがどうしても必要だというのであれば、その根拠をもっと具体的に提案すべきだったのではないか、という声もありました。
面白いなーと思ったのが、出版社への隣接権というのは以前(ちょっといつ頃の話か聞き漏らしました。結構古い話っぽい)審議会で討議されて、「付与すべき」という結論が出たにも関わらず、経団連からの猛反対で法文化が見送られたっていうこぼれ話があるそうです。経団連は何で反対したんでしょうね?興味深い。
質疑応答で興味深かったのは、クリエイティブ・コモンズ。二次創作と二次利用の切り分けができるようにしたいというニーズは、日本では強いけど海外ではそれほどでもないそうです。カスタマイズ要望は様々なものが挙げられているけど、優先順位は低くなっているみたい。現状では「改変禁止」で表示しておいて、例外として自分で追記するしかないようですね。