ボクは「アニメの原作を電子書籍で」シリーズのエントリーで、小学館のガガガ文庫は電子書籍版を「廉価版」として捉えているらしく、表紙以外にはイラストがないという注意書きをしてきました。
先日、紀伊國屋書店BookWebPlusで「人類は衰退しました」を購入したので、どんな感じなのかを確認してみました。レポートさせて頂きます。
実際のところ、最後の方の「妖精さんメモ」に、なかた氏とちくわ氏などの図版資料が付いているので、ストアの注意書きにあるように「イラストが無い」わけではありませんでした。まあ、一般的なライトノベルに入るような、1ページまるまる使ったイラストではありませんけど。
ちなみに表紙画像はこんな感じです。iPadのRetinaディスプレイで観ているからというのもあると思いますが、画像の劣化具合が凄まじい。これ、イメージダウンになりかねないような(;・∀・)
もう1点気になったのが、ところどころで妙なフォントの文字が混ざること。下図はKinoppyビューアの機能を使って、マーカーを付けてあります。
これが、電書魂さんが取り上げていた「異体字問題」というやつですね。
紙書籍版を持っていないので比較検証ができないのですが、画面で見る限り恐らくオリジナル版(底本)がJIS第3/第4水準漢字を使っているのでしょう。下図はJIS第1/第2水準漢字との比較です。
わざわざこういう処理を施さなければならないというのが頭痛いのですが……使用する漢字を変えたら「同一性保持権の侵害だ!」って怒り出すような著者がいる、ということなのでしょう。「その異体字を使った表現に、著者としての意図がある」のかもしれませんが、デジタル・ネットワーク時代に合わせた形で変換する許可をとればいいのではないかと思うのですが……難しいのかなあ。
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田中 ロミオ
小学館 (2011-11-18)
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[追記]
この作品、ニコニコ静画(電子書籍)で冒頭だけ配信が始まったのですが、表紙画像はめちゃ綺麗だし、巻頭に挿絵が入ってるしで、いま他ストアで配信されている「廉価版」とは明らかにクオリティーが違います。もしかしたら、高画質イラスト付きの「通常版」を用意している最中なのかもしれませんね。
だとしても、アニメ放映もうすぐ終わるんですけど……放映前に用意できないものなのか(;´∀`)
コメント
「法政大学懸賞論文事件」というのがございまして、法政大学が優秀賞の論文の句読点や誤字脱字を直して公表したら論文の作者から同一背保持権侵害で訴えられて、結局法政大学がほぼ全面的に負けてしまったという……
異体字については尚更でしょうね
ところで紀伊國屋書店BookWebPlusアプリをダウンロードした際に一緒に専用フォントもダウンロードされませんでしたでしょうか
おーなるほど、ありがとうございます。そんな背景があるんですね。そりゃ出版社、警戒するわけですね。
http://www5d.biglobe.ne.jp/Jusl/Bunsyo/HyoukiHanrei.html
親告罪なんだから、無断でやらなきゃいいと思うんですけどね(;^ω^)
Kinoppyは専用フォント入れてます。游明朝Pr6N Mというやつですね。
一般に同じ字とされている字でも、微妙に字の指し示す意味が違ったりしますし(辞書では全く同じ意味で扱われていても厳密にはちょっと指し示す意味の範囲が異なるという字は多数存在します)、用字の他の意味を想起させることを狙っている等の可能性もありますから、作者がそこまで考えて一つの"作品"なのだという主張をする場合、それは認められてしかるべきではないかと感じます。旧字・新字の関係で言えば、例えば「芸」と「藝」は元々全く意味の異なる字ですので、旧字を好む人は間違いなく一定数います。
また、今回は人退という新しい作品ですが、作者が死去しているような古い作品で特殊な字形が使われていた場合に、それを出版社が勝手に一般的な字形に変えてしまう(例:『こころ』の「寐る」→「寝る」)とファンや研究者が反発する、というのはよくあることです。それは作者がその用字に意味を持たせていたか否かとは関係なく起こります。
ただ、ラノベや大衆小説ごとき、と言ってしまうと失礼かつ反感を買いそうですが、ラノベや大衆小説くらいで実際に字形にまで深い意味を持たせている作品がそうそうあるとも思えないですし、コンピュータや各種媒体上での漢字の再現は皆さんご指摘の通り文字コードの問題が数多くありますから、今回のケースみたいなのは簡単に表示できる字に直しちゃっていいと思いますけどね。そもそも電子書籍はその利便性から求められている訳ですから、電子書籍に何もかもを求めるというのがナンセンスなので。
(でも、電書魂さんのところでも指摘がある通り、人名や地名等、固有名詞、それも特に実在するものに関してはそう簡単にいく話ではないと思います。)
長文失礼しました。論点がずれていたかもしれないですね。
本文でボクは「電子のルールに作品を合わせる」方向の話をしていますが、むしろ配信フォーマットやプラットフォームが、JIS第3/第4水準漢字に対応していなかったところに問題がある、とも言えますよねー。
EPUB3だとかなり問題解消されるらしです。現時点で配信されてる作品をどうするんだ?という問題は残りますがw
>配信フォーマットやプラットフォームが、JIS第3/第4水準漢字に対応していなかったところに問題がある、とも言えますよね
そうですね。JIS第4まで対応すれば、(中文で使う漢字となると話は別ですが、少なくとも日本において使われる漢字については)珍しい地名も含め、大概の漢字に対応できますからねえ。
ただ、きりがないと思うんです。作者が使おうとしている字が、たまたま対応している(使える)文字コードの範囲にあったら使え、たまたま範囲外だったら使えない、というのでは、表現に用いれる字の自由度において、本質的な解決になってないと思うんです。
だから、鷹野さんの表現をお借りすると「電子のルールに作品を合わせる」、つまりは、電子書籍としての出版をしたいならば、やはりある程度のところで妥協をするしかないのではないかなと思います。
まあ、徹底的に「底本と同じモノを!」とこだわるなら、印刷最終工程のアウトライン化されたPDFか、画像で配信するという手もありますけどねw
ニコニコ静画で配信してるものはソク読みで配信してるものと同じだと思います。
http://sokuyomi.jp/product/zinruihasu_001/LN/1/
で、これらはおそらく画像だと思うのですが(少なくともリフローではない)、その点についてはどのようにお考えでしょうか。
(出版社的にはリフローでなくて問題ないと思ってる人ばかりなら、そちらのほうがいいと思ってる気がします)
おおなるほど、間違いなく画像ですねこれは。
読者としての立場から言うと、わざわざ時間とコストをかけて「自炊」する人というのは、置き場所に困るくらいたくさんの本を買っている人なわけで、そのニーズに合わせた商品(つまり版面そのまま・リフローではない)をさっさと提供しなさいよ!と思っています。
逆に著者としての立場から言うと、改行位置や改ページ位置って意味の伝わり方が変わるうので、それなりに考えて文章を書いているのに、リフローだと勝手にそれが変わっちゃうんですよね。「この文は1行に収めたい」という意識で表現を変えたりする場合もあるのに、そういう工夫を全部無駄にしてしまうというw
こちら(↓)の連載記事を読むと、版元が何にこだわっているのか、というのはある程度理解ができるのですが、「そこってそんなに重要なの?」というのは著者・読者両方の立場からかなり疑問に感じています。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/yoake/20120629_543477.html
該当の記事は版元としてというより、「電子書籍制作者」としての意見だと思います。
みんな「リフローなしでよい」と思っていればよいのですが、そうでない人は読者にもいますし。
また現実的に、現行の電子書籍端末やスマホでスキャンものを読むのは非常につらいという点もあると思います。
今後電子書籍端末の解像度やパフォーマンスが上がったり、タブレットが主流になれば変わってくるかもしれませんけれど。
(なんだかんだでスマホが主流じゃないかと思うので、そうであるうちは難しいんじゃないかと思っています)
ちなみに版元がスキャンを嫌がるとすれば、読者が「スキャンしただけなら安くしろ」と言うことだと思ってます。
「高くていいから売ってよ!」と言うのなら喜んで売ると思うんですけどね。