2014年3月15日に国際大学GLOCOM ホール(東京・六本木)で行われた、MIAU設立6周年記念イベント「MIAU祭2014」のレポートをパート別にお届けします。今回は小寺信良氏によるサプルメントセッションです。
動画はニコニコ「MIAUチャンネル」に載っていますので、詳細を確認したい方はそちらをご覧下さい。トータルで5時間半のイベントです。
- Electronic Frontier Foundation (EFF) Maira Sutton 氏による基調講演
- 小寺信良氏によるサプルメントセッション「自炊代行訴訟の動向」と「リテラシー教育」に関するMIAU活動報告 ← この記事はココ
- Session 1:インターネットと著作権
久保田裕氏、田村善之氏、田中辰雄氏、heatwave_p2p氏、津田大介氏
- Session 2:インターネットとプライバシー
鈴木正朝氏、石井夏生利氏、高木浩光氏、津田大介氏
- Session 3:MIAUの今後
清水亮氏、小倉秀夫氏、モーリー・ロバートソン氏、ハリス鈴木絵美氏、小寺信良氏、津田大介氏
- Session 4:オープンデータ・オープンガバメント
渡辺智暁氏、福井健策氏、楠正憲氏、八田真行氏、庄司昌彦氏
※INTERNET Watchで3月17日に記事公開済み
このパートは、MIAU代表理事である小寺信良氏からの、最近のトピックスである「自炊代行訴訟の動向」の報告と、「リテラシー教育」に関するMIAU活動報告です。「サプルメントセッション」として、他のセッションのあいだに行われています。
小寺氏自身が「場つなぎみたい」となかば自虐的におっしゃっていましたが、MIAUが何をやっているのかをオープンな形で報告するのは大切なことだと思います。
トピックス「自炊代行訴訟」の動向について
まず、最近のトピックスとして、「自炊代行訴訟」がいまどうなっているのかについての状況報告です。動画はこちら。
2013年9月に地裁判決が出ましたが、被告が控訴したため、知財高裁で裁判が行われています。
現在は、7社訴えられたうち1社(「スキャポン」の株式会社ドライバレッジ)だけが残っているそうです。残り6社は全て既に廃業しているそうです。
裁判は、控訴人の追加資料提出待ち(期限は5月8日)になっているそうです。裁判官は、純粋なコピー代行業者との違いについて、双方に主張・反論を求めているとか。
裁判外の動きとしては、最大手「ブックスキャン」が業者を組織化した「日本蔵書電子化事業者協会」と、著作権者側の「Myブック変換協議会」が設立され、ルールが策定中……とありますが、昨年6月に「蔵書の電子化における基本方針に合意」のお知らせが出て以降、情報発信がないのが現状だと思います。
- 自炊代行「許諾」の未来とは、“蔵書電子化”関係者座談会(前編) -INTERNET Watch
- 非破壊型スキャナーで自炊代行に影響は? “蔵書電子化”関係者座談会(後編) -INTERNET Watch
この座談会以降、ご無沙汰だなあ……いまどうなっているんだろう?
争点はどこか。「カラオケ法理」によって「直接侵害」が拡大されている弊害が大きくなっていると小寺氏はいいます。疑似的に「間接侵害」が作り出されてしまっているわけです。
また、「主体は誰か」議論は本質的には不毛だともいいます。そもそも「スキャン」ボタンを本人が押せばいい、という手続きだけの問題なのかと。コンビニでお酒を買う時にレジで[20才以上です]ボタンを押す儀式と同じようなものですよね。
この先にある問題について。「メディア変換サービス」はそろそろ合法化されるべきだと小寺氏はいいます。本のデジタルスキャン、ビデオテープのキャプチャ、CDのリッピング……などなど。ユーザーは「複製」をしたいのではなく、デジタル化の恩恵を受けたいだけなのだと。
また、小寺氏は、クラウド上のメディアロッカーサービスがなぜ日本では利用できないのか、という点も問題点として挙げました。文化審議会著作権分科会のワーキングチームで議論が行われており、津田大介氏もそこには参加しているそうです。
ところが昨年11月に、権利者団体によって構成される「Culture First」から、仰天提言が発表されます。
「複製機能」を補償の対象とすることで、録音・録画メディアや機器のみならず、オンラインストレージサービスも補償金の対象に含めようという動きです。
「頭がどうにかなりそうだった……」
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「ネットリテラシー教育」に関するMIAU活動報告
もう1つのトピックスは、「ネットリテラシー教育」に対するMIAUの取り組みについての報告です。動画はこちら。
2007年に「青少年ネット規制法」ができるというリークを受けて、MIAUは反対の声を挙げました。
しかし、法案は可決・成立し、正式名:青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律として施行されました。
MIAUとしては、「規制の前に教育があるべき」というスローガンを掲げていた以上、法律ができてしまったとしても「教育は必要だよね」ということで、まず学校で教えるための教材作成に乗り出します。
幸い、マイクロソフトから助成金が出たので、きっちりしたものを作れたそうです。MIAUのサイトでPDFが公開されています。
学校向けの次は、家庭向けです。一般の方がMIAUのサイトに来てPDFをダウンロード……なんてことはほとんどあり得ないので、「紙の本で書店に頒布しなきゃダメだ」ということで、ガチの本を出したそうです。
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期日までに出版するため、津田大介氏の関与を完全排除したそうです。津田氏は締め切り守らないのか……。ちなみにリアル書店ではあまり売れておらず、Amazonでいちばん売れてるそうです。図書館協会が気に入ってくれて、1000部納入したとか。
2013年から2014年にかけては、学校図書館向けに頑丈な本を出したそうです。
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なんで書影入ってないんだろ?
最後に「ネットリテラシーの今」について。
「依存」を切り口に、ネットの諸問題を包括的に見るように変化しているそうです。これまでは対処療法的だったため、たとえば「要するにケータイが悪い」という誤った認識になってしまったと。
「依存」しているバックグラウンドには何があるか? という観点で抜本的な解決をしないと、結局また別のことに依存するようになってしまうのではないか、と小寺氏はいいます。
また、「東京と地方の超えられない壁」というのを痛感することが多いそうです。地方の有力者から「社会にネットが必須という前提はおかしい」という発言が出てしまうと。例えば校長を引退した年配の方が、「ネット?要らん!」みたいな感じで切り捨ててしまうそうです。
だから、青少年のネットによる極端な事件の発生は東京も地方も変わらないのに、地方で事件が起こると極端な規制に走ってしまう傾向があるのだとか。目先の解決をしても、長期的な解決にはならないのだから、そういう認識を少しづつでも変えていくことが重要なんでしょうね。
ちなみに、「MIAU祭2014」の会場では、こんな紙が配られていました。お試し版EPUBのURLは、「来場者限定」と書いてあるのでモザイクかけてあります。
セッションの途中で津田氏がポロッとおっしゃっていましたが、現在会員数は300人くらいだそうです。消費税率上がったので、いまは月額540円です。MIAUの活動資金としては、かなり心もとないものがありますね……お申し込みは「MIAUチャンネル」にて。