Amazonビデオ ダイレクト(日本版)
昨日、Amazonビデオに、誰でも映像を投稿・販売できる「Amazonビデオ ダイレクト」というサービスが追加されました。これはどんなサービスなのでしょうか? YouTubeやニコニコ動画にとって、脅威となるのでしょうか?
先に私の結論を書くと、AmazonビデオとYouTube・ニコニコ動画は、機能的には一部競合する点はあるものの、客層が異なるので恐らく住み分けられるだろう、と予測します。ただ、後述しますが、現時点のAmazonビデオ ダイレクトには、大きな難点が1つあります。
Amazonビデオ ダイレクトで収益を得る方法
Amazonビデオ ダイレクトで収益を得る方法には、購入・レンタル、Amazonプライム会員特典、広告、追加月額課金があります。順に見ていきましょう。
購入・レンタル
Amazonビデオ ダイレクトと、YouTubeやニコニコ動画が根本的に異なるのはここです。いまのところ後者には、映像作品を1本単位で販売する機能がないからです。
YouTubeやニコニコ動画は、誰でも無料で見られる映像を誰でも投稿できる「Consumer Generated Media(CGM)」が出発点。だから、中心となる客層は「コンテンツは基本的に無料」だと考えています。つまり、TVの視聴者に近いと言えるでしょう。
それに対し、AmazonはもともとDVD/ブルーレイを通信販売しており、Amazonビデオはその延長上にある「パッケージ販売」。だから、中心となる客層は「コンテンツは基本的に有料」だと考えています。つまり、直接競合するのは「Google Play ムービー」や「iTunes Store(映画)」などです。
要するに、Amazonビデオ ダイレクトで映像作品を登録すると、ここ↓に並ぶわけです。さすがにここへ、スマホでちょろっと撮ったチープな動画をアップロードするのはためらわれます。それなりの、いや、相当のクオリティがなければ、売ることはできないでしょう。
Amazonビデオ ダイレクトで配信する際に「購入」や「レンタル」を選択すると、「純収入の50%」を受け取ることができます。価格設定モデルは「プリセット」と「カスタム(上級者向き)」から選択できますが、小売価格の決定権はAmazonにあります。
例えば、2時間のハリウッド映画の新作購入で2000円、48時間のレンタルで250円、という価格設定が競合になるわけです。だから、Amazonがあらかじめ用意している「プリセット」モデルは、こんな感じです。
新作向けの「ベース」は購入で1000円、レンタルが200円。旧作向けの「バリュー」は購入で500円、レンタルが100円です。Amazon.co.jpだけ、HD(高画質)とSD(標準画質)に価格差がないのが興味深い。日本のユーザーは、画質の差による価格差を認めていない、ということなのでしょうか。
Amazonプライム会員視聴による配分
ここのAmazonにとっての競合は、サブスクリプションで映像をストリーミング配信する「Hulu」「Netflix」「dTV(旧dビデオ)」「dアニメ」や、「YouTube Red」「ニコニコチャンネル」など、ということになるでしょう。
Amazonプライム会員は、通販の送料無料を目的として加入している方も多いはずです。だから、「コンテンツは基本的に無料」だと考えているユーザーや、そこに近いユーザーにも観てもらえる可能性があります。これはAmazonの強みです。
Amazonビデオ ダイレクトで配信する際に「プライムで見放題で楽しめます」を選択すると、日本のユーザーなら1時間の視聴につき6.5円を受け取ることができます。ただ、全世界で年間合計50万時間が上限なので、日本なら325万円が最大ということになります。
100時間視聴されても650円の収益ですから、あまり期待できないなあ……と思ったのですが、ここにはボーナス加算があります。毎月上位100タイトルに、合計100万USDが比率配分されるのです。わお! これは登録タイトル数が少ないうちがチャンスかも?
広告
Amazonビデオ ダイレクトで配信する際に「広告付き無料動画」を選択すると、「正味広告収益の55%」を受け取ることができます。ここはYouTubeとモロに競合しますが、インターネット広告はGoogleが圧倒的に強い領域です。そして、プライム会員なら特典で良質なコンテンツが視聴できちゃいます。正直、あまり収益は期待できないように思います。
追加月額課金
Amazonビデオ ダイレクトのヘルプには、「追加会員制サービス」や「アドオン・サブスクリプション」と表現されています。「ニコニコチャンネル」では、チャンネル独自に有料会員を集めることができますので、そういうサービスと競合することになるのでしょう。
毎月の純収入の50%を受け取れるようですが、最低30タイトルの配信が条件になるようです。ただ、ヘルプには「米国の」と書いてあるので、もしかしたら日本はまだ未対応なのかもしれません。
Amazonビデオ ダイレクトでも30%の源泉徴収が
さて、実際にAmazonビデオ ダイレクトで[無料のアカウントを作成する]をやってみると、アカウント情報(住所や電話番号)・銀行口座の入力に続き、「税務情報を提出」というステップがあります。
「税務情報を提出」へ進むと、「必要なもの」のところに「米国のTaxpayer Identification Number(TIN)」と記載してあります。これが冒頭で書いた「大きな難点」です。
これは、Kindleダイレクト・パブリッシングの初期の頃と同じトラップです。つまり、TINを登録しないと米国の税法に基づいて30%が源泉徴収され、米国と日本で二重課税されることになってしまうのです。
個人の場合は Individual Taxpayer Identification Number (ITIN) 、会社および個人以外の事業体の場合は Employer Identification Number (EIN)が必要です。番号の取得には、米国内国歳入庁(IRS)に自分で申請する必要があります。参考までに、Kindleダイレクト・パブリッシングのヘルプを貼っておきます。
個人:Individual Taxpayer Identification Number (ITIN)
会社および個人以外の事業体:Employer Identification Number (EIN)
ちなみにKindleダイレクト・パブリッシングは、ヘルプに「米国以外の Kindle ストアで獲得したロイヤリティについては、Amazon は米国の源泉徴収税の徴収を行いません」と明記されるまで約2年かかりました。
米国以外の出版者の源泉徴収税
この件、昨日気づいてすぐに問い合わせ窓口からメールで質問しておいたのですが、本稿執筆時点では回答がありません。これは大きな参入障壁なので、早く解消して欲しいところですが……。
以下、2016年5月18日追記
Amazonビデオ ダイレクトのサポートから、ようやく回答が届きました(※1回目の回答では要領を得なかったので、再確認しています)。
Amazon.co.jp、 Amazon.co.uk 、Amazon.de で獲得したAmazon ビデオ ダイレクトのロイヤリティについては、Amazonは米国の源泉徴収税の徴収を行いません。米国の源泉徴収税の対象となるのは、Amazon.com で獲得したロイヤリティのみです。
Kindleダイレクト・パブリッシングと同じ対応ですね。日本国内向けだけの映像を配信するなら、TINは不要ということに。ひと安心。