一年の始まりなので、2018年に出版関連でどんな動きがあるか予想してみる

2018年

新年あけましておめでとうございます。

今年も「見て歩く者」をどうぞよろしくお願いいたします。

毎年恒例の出版関連の動き予想です。

2017年の予想と検証

2017年元旦の予想は以下の5つ。自己採点の結果を右端に付けておきました。

  1. ウェブの雑誌化が進む → ○
  2. 出版者による直販が増える → ○
  3. イーシングルが再び脚光を浴びる → △
  4. 出版物の制作工程が変わる → ×
  5. ローカルメディアが盛り上がる → ×

答え合わせの詳細は「DOTPLACE」に寄稿した記事をご覧ください。

それ以前の予想と検証は、以下の通りです。

2018年には何が起こる?

さて、2018年にはどんなことが起こるでしょうか? 出版科学研究所が年末に発表した2017年の紙の出版物推定販売額は1兆3700億円で、前年比6.9%減1009億円のマイナス(1〜11月実績からの推計)。コミックスを含む雑誌は6600億円で、前年比10.0%減739億円のマイナス。書籍は7150億円で、前年比3.0%減220億円のマイナスです。この数字は紙のみで、電子出版の数字は加味されていないことに注意する必要があります。

電子を含めた上半期の数字は7月に出ており、電子コミックが777億円(同22.7%増)、電子書籍が140億円(同14.8%増)、電子雑誌が112億円(同21.7%増)、電子出版市場全体では1029億円(同21.5%増)です。

仮に下半期が前年の成長率と同じと仮定して計算すると、電子コミックが1833億円、電子書籍が290億円、電子雑誌が246億円、電子出版市場全体では2364億円ということになります。ただ、下半期は成長が鈍化しているかもしれないので、ちょっとこの数字は留保しておいてください。

2017年はとくに紙のコミックス(単行本)が、前年比12%減と下落幅が大きくなっているようです。前年実績から逆算すると1713億円。前述の仮定数字と比較すると、ついにコミックスでは紙と電子で販売額が逆転、ということになりそうです。

ただ、『出版月報2017年12月号』には「電子コミックは20%増くらいの見込み」とあり、前年実績1460億円から逆算すると1752億円。これでも紙と電子の逆転は揺るがなそうですが、前述の仮定とはちょっと差があります。紙と電子をあわせた確報は「出版月報2018年1月号(1月25日発売)」を待ちましょう。

なお、電子書店では既刊の販売比率がかなり高いようなので、紙とのカニバリズムが起きているかどうかは慎重に見極める必要があるように思います。

これらを踏まえた私の2018年予想は、以下のとおりです。

雑誌の人材がウェブへ流れる動きが加速する?

主に「雑誌」という切り口で。これは2016年の予想「雑誌のウェブ化が進む」の延長上にあります。電通が昨年2月に発表した「2016年 日本の広告費」によると、雑誌広告費2223億円(前年比91.0%)に対し、インターネット広告媒体費は1兆0378億円(同112.9%)。2016年の雑誌の推定販売額は7339億円なので、雑誌販売額+広告費は9562億円。つまり、2016年の時点ですでに、雑誌の販売と広告で生み出される売上より、インターネット広告媒体費は大きくなっているのです。

お金のあるほうへ人は自然に移動していきます。すでに何年も前から移動は始まっていますが、今後は紙媒体しか扱ったことがない人や、パソコンが大の苦手な人も、ウェブの世界へ放り込まれるようになるでしょう。たとえば2017年にも、新潮社の河野通和氏が「ほぼ日」にジョインしたり、小学館とDeNAが共同出資で「MERY」を設立して運営を開始したりといった動きがありました。ライターも編集者もデザイナーも営業も、雑誌に関わっていた人々がもっとウェブ業界へ流出していくでしょう。ただ、出版とITの文化やビジネスモデルがあまりに違いすぎるため、運営方針を巡って激しい衝突が起きているという噂も耳にします。

2016年は、捏造ニュースや剽窃が大きな問題となりました。Facebook や Google といった大手プラットフォームは、矢継ぎ早に対策を打ち出しました。ただ、その多くは小手先の「アルゴリズム」の変更によるもので、根本的な解決には至っていません。おそらく今後もいたちごっこは続くでしょう。人工知能は万能ではありません。良質な情報の発信と流通には、まだまだ人の手が必要だと私は信じます。雑誌からウェブへの人の動きが、ウェブでの良質な情報の発信と流通に寄与することを期待します。

デジタルファーストが拡大する?

主に「書籍」という切り口で。ちょっと長い前置き。ここ10年の書店の店頭における出版物分類別の売上で、最も売上額を落としているのは雑誌ですが、減少率では文芸(43.8%減)が最も高く、次いで新書(39.1%減)、雑誌(36.7%減)、文庫(30.3%減)の順になっています。店頭では、初動で売れない本はたとえ新刊でもどんどん返品される運命にあります。書籍の場合、ノーリスクで返品可能な期間は原則105日。その期限がくる前に次の他の新刊が、売れない本を棚から押し出してしまう、というわけです。

ところがここ数年、出版点数はほとんどのジャンルで抑止傾向にあります。「とにかく新刊をつくって押し込む」ことが難しくなっているわけです。初刷部数も減少傾向にあります。平積みできず初めから棚差しになってしまうケースも多いと聞きます。するとどうなるか。小売ビジネスは限られたスペースを複数の商材が奪い合うため、否応なしに、売れないジャンルの占める面積が減り、売れるジャンルの占める面積が増えることになります。

店頭販売で唯一伸びているジャンルが児童書です。おそらく子供向けのグッズや文具など、本以外の物品が売り場に占める面積も増えているはずです。逆に、売上を落としているジャンルである文芸、新書、雑誌、文庫などの、売り場に占める面積は減っていることでしょう。セブンイレブンが新レイアウトで雑誌スペースを縮小したり、定期購読と取り置きサービスを始めたのも、そういう動きの一つといえます。

店頭で売れないなら、ネット通販はどうか。日販『出版物販売額の実態2017』によると、ネット通販(電子出版を除く)の占める割合は拡大傾向にあるとはいえ、構成比は10.6%に過ぎません。まだ出版物の3分の2は、書店の店頭で売れているのです。なお、電子出版を含めた売り場別シェアでは、書店が56.2%、コンビニ9.6%、ネット通販9.4%に対し、電子出版は11.2%と存在感を増しています。

という長い前置きを踏まえた上で、デジタルファーストが今後はもっと加速していくはずです。ネットには事実上無限の棚があるわけですから! と言ってもパッケージ販売に限った話ではありません。むしろ、「初出がデジタルメディア」と言い換えたほうがいいかもしれません。新潮社&ヤフーの『キュー』のような事例が「特設サイト」みたいな特別扱いではなく、スタンダードになっていくように思うのです。コミックはすでにウェブコミック or アプリが初出というのがスタンダードになりつつありますから、文字モノがあとへ続く日も近いように思います。

2017年に話題になった、新潮社『ルビンの壺が割れた』や講談社『健康格差』や幻冬舎『えんとつ町のプペル』といった事例はパッケージ化したあとの無料公開です。が、認知拡散効果を考えたら、ウェブでの無料公開(連載)を行ったのちにパッケージ化するほうが効率がいいはず。あとは、文藝春秋『アメリカの壁 小松左京e-booksセレクション』のように、過去のコンテンツ資産を活かして話題になったタイミングを逃さず素早く配信する、という動きが、もっとあってもいいように思います。

大手企業を核とした業界再編(離合集散)が進む?

主に「資本」という切り口で。2017年にはフレックスコミックスが凸版印刷グループの BookLive 傘下になったり、メディアドゥが出版デジタル機構を買収したり、CCC が徳間書店主婦の友社を買収したりといった動きがありました。流通大手がメーカー(出版社)を傘下に入れ SPA(製造小売業)を強化する動きは他業種でもありますから、今後ますます加速することが予想されます。出版社が書店を傘下に入れる、ということもあり得なくはない?

2016年には一迅社が講談社の傘下になり、これから音羽グループの買収攻勢が始まるのか? という予感がありました。が、2017年には動きが見られなかったのが若干肩透かし。今年はなにかまた新しい動きがあるかもしれません。一ツ橋グループ(小学館・集英社など)がどこかを買収したり、共同出資で新会社、という動きもあり得るでしょう。

KADOKAWAも、2017年には新しい動きが見られませんでしたが、もともと買収に積極的な企業です。DWANGOが足を引っ張りつつあるのが気がかりかも? あとは、楽天が大阪屋に出資し栗田を吸収してから出版関連では大きな動きを見せていない(ドイツでTolinoを買収したくらい)ので、そろそろ次の動きがあってもおかしくありません。

巨大資本と言えば大日本印刷。丸善ジュンク堂の社長交代に伴い、なにか大きな動きがあるかもしれません。また、苦境の書店を救済すべく、トーハン・日販の買収攻勢が加速するかも。はたまた、たとえば IPO が噂されているメルカリや、IPO 以降あまり買収攻勢を仕掛けてはいない LINE といった、新興企業による出版関連企業の M&A があるかもしれないし、もしかしたら逆に、分裂劇が起こるかもしれません。

出版での FinTech 活用が進む?

主に「技術」という切り口で。FinTechとは、金融: Finance と、技術: Technology を組み合わせた造語です。アメリカで、ブロックチェーン技術を活用した次世代型の出版プラットフォーム「Publica」が1月1日にオープンしました。ブロックチェーンとは、分散型台帳技術または分散型ネットワークのこと。発行から現在までのすべての取引を、だれでも使えるP2P方式の台帳で記録している仕組みです。「Publica」は「出版界のAmazonを目指す」としてICO(Initial Coin Offering)を実施、仮想通貨取引所である香港「KuCoin」に上場し、PBL トークンを発行して 1億米ドルを調達。仮想通貨によるクラウドファンディングで資金調達ができる出版プラットフォームを始めました。

まあ、この「Publica」がうまくいくかどうかは別として、仮想通貨による資金調達はいまブームになっています。実際、年末には幻冬舎とCAMPFIREの共同出資によるネット資金調達型出版プラットフォームの設立が発表されており、「トークン発行型出版」が検討されているとも報じられています。今後は日本の出版界隈でも、仮想通貨を活用しようとする事例がもっと出てくるものと思われます。

ただし、オタク向けICO(Initial Coin Offering)に気をつけろという趣旨のブログ記事にもあるように、ICO での資金調達は規制もなにもない中で行われており、株式市場の IPO に比べたらはるかに詐欺や相場操作などの危険性が高いものになっています。出版界隈でも ICO 詐欺(SCAM)に騙される人が現れるかもしれないので、注意喚起しておきます。

ドメスティックな産業からの脱却(コンテンツ輸出)が進む?

「流通」という切り口で。日本の出版産業は非常にドメスティックですが、日本の人口はこれから減っていきます。国内マーケットだけを対象にしていては先細る一方ですから、生き残るためにはコンテンツの輸出は必然と言っていいでしょう。2016年にはKADOKAWAがアシェットと合弁会社を設立しました。メディアドゥが2016年にアメリカで設立した電子取次子会社は、2017年11月から翻訳版の配信を開始しています。KADOKAWA、講談社、集英社、小学館、アニメイトの5社による合弁会社ジャパンマンガアライアンス(JMA)は、バンコク店設立初年度から黒字化という報告もありました。今後はもっともっとそういう動きがあってもいいはず。

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そんなこんなで、毎年恒例になってきたJEPAセミナー、2017年ニュースの振返りと、2018年動向予想というテーマで、1月9日に登壇します。残席わずか。

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