先週は「海賊版サイト対策中間まとめ、反対多くまとまらず」「静止画ダウンロードの違法化を総務省が先導」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年9月17日~23日分。ブログ「見て歩く者」での更新最終回です。詳細は記事末尾の案内をご覧ください。
広告もステマもなし 出版不況でも売れる雑誌の作り方〈NIKKEI STYLE(2018年9月17日)〉
印刷証明付き発行部数で20万部を超えた晋遊舎の女性誌「LDK」について。ちょうど1年ほど前の記事ですでに20万部だったので、その当時からはあまり伸びていないようです。とはいえ、どの雑誌も軒並み部数を減らしている中、現状維持でも立派なことだと思いますが。広告を載せず徹底的にアイテムテスト&批評するという、昔の「暮しの手帖」と同じコンセプト。消臭剤の効き目を判定する臭気判定士さんの写真が、インパクト強いです。
テクノロジー企業の大富豪がTIME誌買収〈hon.jp DayWatch(2018年9月18日)〉
セールスフォースがTIME誌を買収。身売り先には複数候補があったようですが、「金は出すけど口は出さない」方針が決め手だったそうです。スポンサーとして、理想的。
「ブロッキング法制化の強行につながる」、9委員が海賊版対策まとめ案に反対表明〈日経 xTECH(2018年9月19日)〉
知的財産戦略本部で公開されている第8回検討会議の配付資料で興味深いのは、立石委員提出の資料3「被害額等の算定に利用するデータについて」。被害額算定に使われているSimilarWeb社のデータについて、信憑性に強い疑義を唱えています。同社が個人情報を無断送信しているため、アドオンなどがマルウェア判定されたり、アメリカのの連邦取引委員会(FTC)から名指しで注意喚起されたりしているそうです。中間まとめ(案)に反対する9委員の意見書はこちら。
APLシンポジウム「伝統を未来へ、組版の国際化」〈Advanced Publishing Laboratory(2018年9月20日)〉
9月20日に開催されたシンポジウムの動画が公開されています。W3Cの固定レイアウト国際会議で報告された内容や、組版標準化にどんな苦労があるのか、CSSの取り組みと今後どうなるか、など、非常に濃い内容でした。記事にしたいのですが、まとめるのは相当苦労しそう……。
iOS 12でアップルの電子書店が大幅リニューアル〈hon.jp DayWatch(2018年9月20日)〉
オーディオブック推しとなった「Apple Books」誕生。ティザーサイトが公開された際の記事はこちら。「ストア」の変更が主ですが、「ライブラリ」で書影の左下に%が表示されるのと、右下にメニューアイコンが付いて「削除」「コレクションに追加」などのメニューがすぐに呼び出せるようになったのは、地味に良い改良だと思います。
前代未聞、ブロッキング法制化巡り委員の半数が反対〈読売新聞(2018年9月20日)〉
2ページ目後半の「総務省が修正要求、割れる政府見解」に注目。アクセス警告方式を採用すべきだという主張なのですが、「総務省はこの方式をとるにあたり、まず著作権法の改正により、現在、動画や音楽で導入されている著作権侵害コンテンツのダウンロード違法化を漫画などの静止画にも拡大することを求めている」とのこと。急に出てきた印象のある「静止画ダウンロードの違法化」案は、総務省が出所だったわけです。なるほど。読売新聞がこれに賛成するのは、著作権保護強化の動きに賛意を示すこれまでのスタンス的に納得できます。
私は、違法録音録画の私的ダウンロード違法化や刑事罰化の際にもさんざん指摘をしてきていますが、一般ユーザーからするとどのコンテンツが著作権侵害でどれが侵害ではないかを判別するのは非常に困難です。公式で無料配布されているケースもあるわけで。また、最近の海賊版サイトはストリーミング配信で閲覧させている場合が多く、ダウンロード行為ではないため法的な抑止が効きません(参考)。違法録音録画の私的ダウンロードが刑事罰化されてから6年経ちますが(参考)、私が知る限りこれまで摘発事例はないはずです。音楽・映像パッケージの売上が回復したという話も聞きません(売上が伸びているのはストリーミング配信)。ブロッキング法制化も地獄ですが、静止画ダウンロードの違法化も地獄ですよ。
ブロッキングは出版業の救世主か 編集委員 関口和一〈日本経済新聞(2018年9月21日)〉
総務省の筋書きに乗って、日経も静止画ダウンロードの違法化推し。私は前述の理由から、これには明確に反対だと表明しておきます。また、「日本の電子出版サイトは各社バラバラで、どこに何の本があるのかよくわからない」などと主張していますが、KDPセレクトのような独占排他の例外や、出版社直営で自社商品しか扱っていないところや、マンガ専門店ならともかく、総合型電子書店はだいたいどこもほとんど同じようなラインアップが並んでいて、事実上、出版社横断型のプラットフォームになっています。それが複数社で競争しているというだけの話。使い勝手も、巨大IT企業系より国産のほうが良いくらいです。こういった現状を理解しておらず、先入観で「利便性が低い」と思い込んでいるユーザーも多いのではないでしょうか。
ヤフー ネット広告の配信一時停止へ 不正対策〈NHKニュース(2018年9月21日)〉
アドフラウド対策。正直、やっと重い腰を上げたか、という感がありますが、大手が動いたのは大きいでしょう。こういう不正行為は広告主に対する明らかな背信行為ですから、アドネットワークには積極的に取り締る義務があります。間接的にではありますが、海賊版サイト対策にもなるはず。
デジタルアーカイブ整備推進法(仮称)要綱案に活発な意見 ~ デジタルアーカイブ学会法制度部会の意見交換会が実施〈hon.jp DayWatch(2018年9月21日)〉
取材&記事にしました。私は、ウェブを含めたボーンデジタル作品のアーカイブについて触れられていないように思えたので、念のため質問してみました。柳氏から、ボーンデジタル作品のアーカイブは、もちろん対象に含まれているという回答があり、ホッとしました。
新潮社社長、『新潮45』めぐりコメント 「あまりに常識を逸脱した偏見が見受けられた」〈ねとらぼ(2018年9月21日)〉
腹は立つけど炎上商法に加担したくないので、いわゆる「杉田論文」やそれを擁護する「新潮45」特集について、私は無視することにしていました。ただ、あとで知った「新潮45」編集長の事前コメントを読む限り、これは確信犯です(信念に基づいて実行されているが、犯罪ではない)。つまり「新潮45」編集長は、これを「良心に背く出版」だとは思っていないのです。この炎上を踏まえ、「新潮45」編集長が次にどのような行動に出るかを、遠くからそっと見守ることにします。
新潮社佐藤社長のコメントにも、言及しておきましょう。これ、火消しのつもりかもしれませんが、謝罪の言葉がないため火消しになっていません。編集権の独立を考えると、経営層が謝罪するわけにはいかないというのも理解はできますが、であればこの段階での経営層からのコメントは早計だったのでは。
なお、どれだけ下劣で低劣なクソ表現であろうと、表現に対しては表現で対抗すべきです。暴力に訴えたり、公権力を使って封じ込めようとするのはダメ。
集英社「ジャンプ+」が広告売上の50%を漫画家に還元 「業界を夢のある場所に」〈BuzzFeed News(2018年9月22日)〉
マンガ家にとっては「ボーナスが加算される感覚」でしょうけど、読者にとっては今後新たに、邪魔な広告が掲載されるようになるという話。とはいえ無料で消費できるコンテンツに広告が表示されるのはもはや当たり前になっているので、集英社もそろそろ例外扱いをやめていいと判断したということなのでしょう。「ジャンプルーキー!」では以前から載ってましたし。
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