11月19日に行われたJEPAセミナー「小学館のデジタル戦略」のレポート前編です。ちょっと長いので、前編・後編に分けます。プレゼンで使用された資料は epub cafe で公開されています。
第一部 「三浦綾子電子全集・開高健電子全集から、ボーンデジタルのホラー小説まで、小学館の電子書籍最前線!」
デジタル事業局 デジタル出版企画室の大家正治氏(右)と中山博邦氏(左)のパートです。小学館 eBooks では10年くらい前から電子版をやっているそうですが、売上の半分くらいがライトノベルだそうです。文字モノは現時点で2900冊くらいを配信、毎月約50冊の新刊が出ているとのこと。やはり映像化されると、相乗効果が生まれるそうです。
「ちょっと普通じゃない9つの実例」ということで、以下の事例が紹介されました。
1.三浦綾子電子全集
「三浦綾子生誕90周年/小学館創業90周年記念」の「三浦綾子電子全集」が発行されています。80作品91点が配信中です。
三浦綾子記念文学館から相談をされたはいいけど、今のご時世、紙で全集の発行なんてやったらえらいコストがかかってしまうので、「電子版オリジナルの全集」発行を提案したとのことです。
三浦綾子記念文学館所有の秘蔵写真や、夫・三浦光世氏が見た創作秘話など、多くの巻に追加編集の項目があります。小説40、随筆35、語録4、歌集1の、各巻500円で発売中です。
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三浦 綾子
小学館
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2.開高健電子全集
「三浦綾子電子全集」ができるなら、他でもいけるんじゃないか?と、次に開高健記念館に相談をし、発行されたのが「開高健電子全集」です。開高健氏の本は小学館から1冊も出てないのになぜ? という話もあったらしいのですが、やはりいまのご時世「全集」なんてなかなか出せないので、電子全集ってのもいいんじゃない?と話が進んだそうです。
小説、ルポ、エッセイ、対談など、1巻に単行本4冊分以上の作品が入って1000円(税抜)という価格になっています。巻末の付録が非常に充実しているのが特徴で、そういう雑誌的なつくりが「なんで小学館なんだ?」という問いへの答えになっているとのことです。
広告や生原稿、構想メモ、写真(ベトナム戦争時、井伏鱒二氏と釣りをした写真とか)、旧府立天王寺中学校中学校同窓会報「五十期生」に寄せた『歯と目は大丈夫ですが、一件のほうが思わしくない。』という言葉などなど。
配信開始記念に紙の本で名言集「漂えど沈まず」を刊行し、帯の表4に電子全集の告知を掲載しました。当初は「紙の本で電子の本の宣伝はハードルが高い」と社内で言われたそうですが、なんとか実現にこじつけたそうです。
開高健名言辞典<漂えど沈まず> 巨匠が愛した名句・警句・冗句200選
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滝田誠一郎
小学館
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3.「昭和文学全集」電子版
昭和文学の名作を5年かけて集大成した全集の電子版で、2014年2月14日から配信開始予定です。価格未定、配信順未定というのが、このプロジェクトの難しさをあらわしています。
まず、関係者1000人の権利処理を行うところからがスタート。小学館の経理データベースや、契約書データを調べる作業。日本文藝家協会の委託者リストの調査(461名が登録されてたそうです)。著作権台帳や紳士録などを調査、ネットで講演会の記録などを調査……などなど。
手間ではあるけど失礼になってはいけないので、手書きの手紙を添えて応諾書を送付し、その後正式に契約書を交わすという工程をとったそうです。9割くらいは住所がわかったけど、住所不明で戻ってくるものもあるそうです。
著作権継承者が増えていたり、継承者は自分じゃないと言われたり、電子化NGと断られたり、他社と独占契約を結んでいたり……当然のことながら、全集全部は電子化できないため「配信順未定」になっているとのこと。
こういう情報をアナログで管理するというのもバカバカしいので、同意書作成&チェックシステムを構築したそうです。存命/故人(没年)といった情報や、日本文藝家協会に委託しているかどうかなどの情報が管理されています。
「どこで売られるのか?」とか「旧字はそのまま使われるのか?」……などなど、やはりいろいろ言われるそうです。逆に、著作権継承者から「せっかくなら未公開イラストを」みたいな打診がもらえると、付録として使えるので嬉しいとのこと。
せっかくなのでと、配信開始記念にこちらも紙の写真集を刊行予定だそうです。サライムックで、林忠彦「日本の作家」とのことですが、いま調べたら主婦と生活社から1971年から同名のものが出ていますね。復刻版なのかな?
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林 忠彦
主婦と生活社
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ここまでは紙の本の電子化でしたが、後半はボーンデジタルのプロジェクトです。
4.九十九神曼荼羅シリーズ
ボーンデジタル・イーシングルのホラー小説で、各100円です。SF作家クラブから八杉将司氏、平谷美樹氏、青木和氏、木立嶺氏などが書いており、シリーズ内シリーズも展開されているそうです。
デジタルで反響があったので、紙でも発行、という事例も出ているそうです。小学館文庫から平谷美樹氏の「冬の蝶 修法師百夜まじない帖」です。
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平谷 美樹
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5.「大江戸恐龍伝」
これは電子でずっと連載してたものが、紙で発行されたケースです。夢枕獏氏の長編書きおろし連載小説で、構想から完結まで20年、総原稿4000枚超というスケール。1話40円で配信して全114巻だったのが、紙だと全5巻になってしまったとか。
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夢枕 獏
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6.「メール内『男心』連絡網」
「男心を研究」というテーマで女性誌「Oggi」で10年以上連載しているコラムを電子化したものです。長年の連載のあいだに、著者の岡村佳代氏は「男心研究家」から「オヤジ世代研究家」に肩書を変えているとか。もともと携帯だけで配信していたものを、EPUBで出し直したそうです。雑誌の連載コラムは、1冊分まとまるまでに数年かかって、ネタが古くなっちゃう場合があるため、紙の本にするのは難しいみたいですね。
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岡村佳代,平松昭子
小学館
7.ちょっとHな、女子向け小説&コラム集「イランイラン文庫」
いままではこういのを小学館として出しちゃダメじゃないかと思っていたらしいのですが、じつはランキングでも上位に入る隠れたベストセラーなのだそうです。アメリカの電子書籍市場で、ロマンスポルノが売れているのと同じ現象なんでしょうね。取次からも「携帯の文字モノで売れるのはエロだけだ!」と、さんざん言われたそうです。
小学館の女性誌局発・女性向けの「ファネット」というウェブサイト(※2013.12.31で更新停止するようです)に連載しているコラムや、週刊ポスト編集部「メス全開で何が悪い!?」などを、携帯で安価にシリーズ配信していたそうです。
「舐め食べ」「キミ濡れ」といった、キャラクターが立っちゃうくらいのタイトルの強さが特徴で、携帯の小さい画面で、サムネとタイトルだけで買ってもらうのが勝負だったとのこと。それを「イランイラン文庫」というレーベルを作ってEPUB版も出した、ということだそうです。ちなみに「イランイラン」というのは、アロマの香りで官能的なやつだそうで。知らなかった。
メス全開で何が悪い!? vol.1~トリプル、夫の実弟、店長とSM~ (イランイラン文庫)
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週刊ポスト編集部,冴羽日出郎
小学館
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8.國元なつきの「Dear…,私、なつきのHollywoodまでのお話」
ハリウッド映画「47RONIN(フォーティーセブン・ローニン)」の大石リク(赤石仁氏の母親で、真田広之氏の奥さん)役である國元なつき氏が、オーディションに合格してハリウッド映画に出るまでの自伝を電子版として出す企画。「映画がヒットしたら、本も売れるよね」的な「先物買い」とのことです。
ただ、映画は12月6日から公開されているにも関わらず、本は1月31日から配信開始とのこと。意図的に遅らせたらしいのですが、それってどうなんだろう? ちなみに日本語版と英語版が同時配信されるそうです。
47RONIN(キアヌ・リーブス、真田広之、柴咲コウ、浅野忠信 出演) [DVD]
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9.築地魚河岸三代目 小川貢一の魚河岸クッキング
こちらは「築地魚河岸三代目」の巻末付録として載せられている、マンガによる調理方法の説明だけをピックアップして、電子版のムックとして発売したものです。
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鍋島雅治,はしもとみつお
小学館
電子版はブックリスタとの共同制作なので、ブックリスタ系だけで配信していたそうです。春夏秋冬の季刊4冊と、4冊をまとめたものが販売されていますね。
築地魚河岸三代目 小川貢一の魚河岸クッキング 4巻セット(小川貢一,はしもとみつお,鍋島雅治,九和かずと) 小学館 | 実用・趣味 > くらし・実用 | Reader™ Store – ソニーの電子書籍ストア
そしてその電子版ムックが、再度紙のレシピ本としても発売されるそうです。こちらは「調理本」という体裁なので、資料写真が中心でコミック要素はかなり削ぎ落とされているそうです。料理本がブームになっているので、やっぱり紙で出したい! という企画を出したら通ったとのこと。「魚河岸三代目」のコミック41巻と同じ日(1月28日)に発売予定とのことです。
築地魚河岸三代目 小川貢一の魚河岸クッキング・レシピ (実用単行本)
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小川 貢一
小学館 (2014-01-28)
まだ書影が登録されていないですね。残念。
小学館は付録が大好きなので、付録にもすごい情報量があるそうです。それを再編成して再度世に送り出す上で、電子版というのはやりやすいとか。
第二部は後編にて。