JEPAセミナー「電子書籍元年 第二章 ~ コンテンツ、サービス、テクノロジーはこれからどうなる? ~」に行ってきた

左から朝日新聞社の林智彦さん、アイティメディアの西尾泰三さん、イーストの高瀬拓史さん

プレゼンターが、朝日新聞社の林智彦さん、アイティメディアの西尾泰三さん、イーストの高瀬拓史さんということで、こりゃ話を聞いておかねばということで行ってきました。さっそくレポートさせて頂きます。

なお、資料はこちらで暫定版PDFが事前配信されていたのですが、実際に用いられた資料ではかなり加筆修正されていました。たぶん後ほど正式版が改めて配信されると思います。また、映像も撮っていたみたいなので、こちらも後日配信されるでしょう。

「論客3名のバトルトーク」と銘打たれてはいますがとくにバトルということはなく、林さんがビジネス・サービスについて、西尾さんがコンテンツについて、高瀬さんが技術的な面について、それぞれ2012年の回顧や現状・2013年予測についてお話頂く形でした。

2012年回顧という点では、ITmedia eBookUSERで反響の大きかった記事というのが挙げられていて、ボクの書いた記事が何本も入っていたのが嬉しかったです。特に電子書店レビューについて、林さんから「あれは凄いレビューですよね」と仰って頂いたのは、身に余る光栄でした。西尾さんが「あの記事を書いた方は、今日この会場にも居ますが」と仰った時に、名前呼ばれるんじゃないかとちょっとヒヤヒヤしていました。うひひ。

2012年の出来事として挙げられる大きな出来事は、やはり「Kindleストアの日本上陸」です。しかしそれ以外にも、KoboイーブックストアやGooglePlayブックスがオープンし、EPUB 3での制作環境が整い、国内電子書店もさまざまなサービス改善を行い、端末も高機能かつ安価なものが次々と発売された――つまり、電子書籍が普及するための基盤が整った年でした。

林さんが仰っていた「もはや言い訳できない状態になった」というのが、2012年の状況を端的に表しているのではないかと思います。高瀬さんが技術的な観点からのプレゼンをする際に、「もはや『どう作るか』よりも『どう売るか』という点に注力していった方がいいのではないか?」という問題提起をされていたのも非常に印象的でした。

「今後」という点では、他にもさまざまな問題提起がなされていました。

  • Kindleストア日本上陸の際に、まさかKindleダイレクト・パブリッシングを同時に開始するとは。これで「出版社中抜き」がただの「論」ではなく、一気に現実味を帯びてきたような状況になっている。
  • そうはいっても「電子での自己出版」は玉石混交大量で埋もれてしまうため、砂漠の砂の中から輝く1粒の宝石を見つけるようなものである。売れる自己出版作家をどうやって発掘するかは米国でも課題になっている。
  • 電子の個人出版(自己出版)の場合、紙書籍での初版印税やアドバンスのような仕組みがないため、一部の例外的なヒット作品を除き収益的にはまだまだ厳しいだろう。
  • 従来の出版モデルの中で育ってきた編集者は、「ネットでの売り方」を知らない。「ソーシャルメディアを利用して、今後どんな書籍がウケるかマーケティング活動をしましょう」というようなレベル。
  • 出版社的には1ソースマルチユースでなるべく簡易に電子書籍化したいのだが、実際にはストア毎に少しづつ仕様が異なるため、ストア別のファイルを用意するような手間をかけねばならない。修正もかなりの部分が結局手作業になっており、手間がかかる。ワークフローがなかなか自動化できない。
  • プラットフォームが多すぎるのではないか。どの電子書店で何を売っているのかが、非常に把握しづらくなっている。「多様性」と言えなくもないが、恐らく今後淘汰も進むであろう。
  • 電子書店の淘汰が進む際に問題になるのは、買った書籍資産が移動できない点。本棚連携などで動いているのは、まだごく一部だけである(Raboo閉鎖時にKoboへ購入履歴が移管できなかった本当の理由は何だろうか?)
  • スマートフォンの普及率は非常に高いのに、電子書籍利用率はまだ非常に低い。LINEやモバゲーが普及しているようなライトユーザー層に、電子書籍が普及していくためのカギは何だろうか? 結局のところ、可処分時間の奪い合い。

こういったところが今後の論点になってくるのかな、という感じでした。ボクもこの業界に既にどっぷりと浸かってますので、今年はほんと正念場になると思います。今後ボクが、どういう役割が果たせるか。頭が焼け焦げそうになるまで考えます。頑張らねば。

[追記]

epub cafeで映像アーカイブの配信が始まりました。

林智彦さん

西尾泰三さん

高瀬拓史さん

座談会

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