【書評】糸井重里さん監修・解説の「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」を読んだ。

少し前のことです。姉から Twitter を始めたという連絡をもらったので、姉の好きなことや性格を考えた上で、糸井重里さんをフォローすることを薦めました。わりとツボだったらしく、ほぼ日刊イトイ新聞も読むようになっていたようです。

ある日「ほぼ日で紹介してた本、読んだ?」というメールが届きました。ほぼ日の記事につられて買ったはいいけど、わりとしっかりしたビジネス本だったので、これはボクが読むべきだと思ったらしいです。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

というわけで年末年始に帰省した際、借りてきて、そのまま1ヶ月積んでいました。糸井さんが著者へインタビューに行った記事は読んだんですが、クリス・アンダーソンの「フリー」と似たような内容かな?という先入観があったからです。

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そして今日、日経ビジネスオンラインにこんな記事が載っていました。

イトイさんが語る~ グレイトフル・デッドに「仕事」を学ぶ

積んでる本がたくさんあるので、次はどれを読もうか考えていたんですが、最近ニコニコ動画関連でいろいろ調べたり記事を書いていたこともあり、この記事でようやく「そろそろ読もうか!」という気になりました。

糸井さんの解説が巻頭に載っているのですが、「これは、まさに今、読まなければいけない本だ」という運命的なものを感じました。

グレイトフル・デッドは、40年以上前から、ファンのみんなに自分たちの音楽を無料で開放していました。ツアーの音楽は録音してコピーし放題。まさに『フリー』であり、『シェア』のはしりです。

ボクは時々、そういう本との出会いがあります。読もうという気になった時が読むべき時ということなのかな?と思っていますので、積ん読もあまり気にしません。時事ネタは時期を外すと悲しいモノがありますけどね。

以下、この本のエッセンスを紹介します。

ツアーそのものが主な収入源であったので、グレイトフル・デッドは(中略)毎晩違う音楽体験で楽しませてくれるので、ファンは1日だけではなく、毎晩続けざまにライブに行きたいという気になる。これは、他のバンドとは正反対のアプローチだった。

通常ジャズの即興演奏はソロパートだけなのですが、彼らはなんとライブ演奏の8割くらいを即興で演奏するそうです。つまり、1度として同じ演奏は無いということです。だからよく失敗もするし、歌詞を忘れちゃうこともよくある。でもファンはそういう雰囲気が大好きで、彼らのツアーに何度も何度も足を運ぶそうです。

グレイトフル・デッドのように印象的で忘れられない名前をつければ、組織にとって大切な資産となる。

商品名の場合、商標登録という制度がありますので、もちろん他社が既に使用している名前は付けられません(厳密に言えば、区分が異なればOK)。例えば漫画やアニメのタイトルやキャラクター名であっても、よくある名前は検索した時に埋もれます。

虚淵玄さんが「魔法少女まどか☆マギカ」の登場人物の名前を考える時に、検索した時それしかヒットしない名前にしたっていう話をどこかで目にしました。実はボクもこの筆名を付けるときに、検索して他に同名が使用されていないかどうかを確認しています。

グレイトフル・デッドは、バラエティに飛んだスキルを組み合わせた相乗効果で、前代未聞の1+1=3のサウンドを作り上げた。

同じ業界で働いてた同じ職種の人ばかりを集めても、その同じ範疇でしか物事を考えられないという話ですね。会社組織なら、人事の意識が変わらないとユニークな人材は集まらないし、金太郎飴ばかりじゃ新しい発想もなかなか生まれないということだと思います。

今日の企業は、グレイトフル・デッドから『偽りのない本物である』ことの重要性を学ぶことができる。顧客や提携先、偽りのなさや透明性を従来よりも評価するようになっている。」 (中略) 「社員が自社のブログを書いたり、自社についてツイッターに書くよう勧めよう。社員に『信頼してるぞ』と伝えれば、問題を起こすこともなく、よい結果が得られるだろう。

“情報の非対称性”は不信感を招くだけなので、透明性を高くすることには大賛成です。だけど、社員にそういう行為を勧める場合、結果が吉と出るか凶と出るかは 会社が社員をどう扱ってきたか?に左右されると思います。社員を大事にしていない会社は、とてもじゃないけど怖くてこんなことできないですよね。

グレイトフル・デッドは音楽ジャンルの境界を超えて独自のサウンドを作り出し、他のバンドとは異なる存在になった。

他の真似して同じ土俵で競争するより、他にない新しいジャンルを作ってしまえという話ですね。先日読んだ別の本に「出版業界は、ヒットした書籍の二番煎じ、三番煎じを好む。同じような本なら小さくても確実に売上が見込めるから。だから、出版社に持ち込む企画がうまく思い浮かばないときは、ベストセラーの真似をしよう」というようなことが書いてあったのを思い出しました。出版業界がどんどん苦しくなってる理由が、判るような気がしますね。

グレイトフル・デッドは、自分たちが変わり者でいることで、ファンにも風変わりであることを奨励し、クリエイティブに表現する機会を与えた。

変わり者には変わり者が惹かれるという話。ボクはときどき「お前は変人だ」と言われるけど、そう言われることが嬉しくなって照れちゃうくらいには、変わり者だという自覚があります。

グレイトフル・デッドは、「グレイトフル・デッド体験」が何であるかを、ファンに決めさせた。ファンを自分たちといっしょに旅する対等なパートナーとして扱ったのだ。

この章で紹介されてる、よくライブにくる聴覚障害者グループ「デフヘッズ」のエピソードが凄いです。音が聞こえないのにライブ?と思うのですが、彼らは手に持った風船の振動で音楽を感じるそうです。そして周囲の人たちは彼らを暖かく迎え入れ、その場で「ハロー」と呼びかける手話を学ぶのだとか。そうやってライブ会場での体験を共有する”仲間”たちのコミュニティーができ上がっていったそうです。

グレイトフル・デッドは、ツアーの情報をファンに真っ先に知らせ、最も良い席を取れるようにし、その忠誠心を駆り立てた。

これは企業が CRM ( Customer Relationship Management ) を導入する目的だったりします。往々にして、新規顧客獲得のためのプロモーションにお金をガンガン使って、長くお付き合い頂いている上客を放置してたりするんですよね。ほんとは逆にしなきゃいけないのに。ちなみに Loyalty って、日本語に訳すと「忠誠心」なんですよね。微妙にニュアンスが違う気がしますけど。

ほかのバンドと違って、グレイトフル・デッドは観客によるライブの録音を奨励していた。ライブを録音するファンは『テーパー』と呼ばれ、彼らがなるべく高い音質で録音できるよう専用の場所がミキシング・コンソールの後ろに設置された。

これって、ライブ演奏の8割が即興という特別の場だからこそ成り立つのだと思います。彼らもちゃんと、その録音を他人に売ったり、商業的な目的で使ったりすることは禁じていたそうです。そして、プロが録音・編集した高音質版をCDで販売すると、テーパーの録音を持っていたとしても熱心なファンは買うそうです。

ライブ会場の駐車場で行商人たちがバンドのロゴを使った商品でけっこう儲けていることに、バンドのツアー・クルーが気がついた。でも、「売るな」と弾圧するのではなく、彼らを歓迎した。ライセンス料を払ってくれれば使用を認めて、行商人をパートナーにしたのである。

ニコニコ動画のスタッフの方々は、恐らくこの本を既に読んでいると思うんですね。そしてこの本によって、自らが進んでいる方向が間違っていないのだという確信に近いものを感じているのだと思います。だけどやはりボクには、ニコニコのやり方は少しづつ間違っていると思います。例えばデフォルト設定のまま「営利利用可」にしちゃったら、”無断転載でもライセンス料を払ってくれれば咎めない”なんてこともできませんもんね。

最終章はいい結び方。

グレイトフル・デッドは、自分たちがやっていたことが本当に好きだったのでそれをやり通した。そしてもちろん、結果的に成功した。

やりたくない仕事を我慢してやり続けるより、自分がやりたい、情熱を傾けられることをやった方が、楽しいですよね。

この本じつは、装丁もわりと凝ってます。途中で半透明のページに写真が印刷されていたりします。これを破壊して自炊なんて、もったいなくてできない。本はテキストデータだけで構成されているわけではないということだと思います。

以前ツイッターで、装丁の価値を軽く見たような発言をして怒られたことがありましたが、今ならその理由がよく判ります。例えば青空文庫で昔の小説をただ「読む」ことはできますけど、あれは「読書体験」とは別物ですね。

読み終わってみた感想。「フリー」は概念的な話が中心で、細かな手法までは紹介されていなかったので、「グレイトフル・デッド」の方が腹に落ちやすい気がします。「フリー」未読の方は、「グレイトフル・デッド」さえ読めばOKだと思います。

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