大前提として、ボクは宇宙系の話は大好物です。「はやぶさ2」が飛べないかもしれないという話は、残念で仕方がないし、削る所違うだろ!っていう憤りも感じています。
でもあえて正論を吐きましょう。
「はやぶさ」後継機の予算問題について政府を責めるのは筋違いで、そもそもJAXA内での優先順位に問題があるのです。
あの「はやぶさ」後継機、存亡の危機
この松浦晋也さんの記事を読むと、どういう経緯でこういう状況になっているのかがよく判ります。
(JAXAの予算を管理する)経営企画部はどちらかといえば統合前に最大組織であった旧NASDA系の宇宙計画を向いており、宇宙科学、それも日本としてはやっと端緒に付きだしたばかりで人材の薄い太陽系探査には比較的冷淡な態度を示した。
状況が変わったのは、2010年のはやぶさの帰還で一気にはやぶさブームが巻き起こってからだ。それでも、はやぶさ2の予算がJAXA内でトッププライオリティを得ることはなかった。
つまり、JAXAの決めた優先順位に基づいて政府は判断しているわけです。震災による緊縮財政で、予算を削らなければならないという時に、たまたま人気のある「はやぶさ」の後継機の予算がその対象になっただけの話。「なんで『はやぶさ2』の予算を削るの!」と政府に言うより先に、「なんで『はやぶさ2』の優先順位が低いの!」とJAXAに言わなきゃ、とボクは思うのです。
ちょっと穿った想像をしてみましょう。JAXAの経営企画部は、人気のある「はやぶさ」の後継機予算なら、JAXAでの優先順位を多少下げておいても削られることはないだろう、と考えていたのではないでしょうか? あくまでこれはボクの想像ですが、予算は奪い合いなので、こういった姑息な戦法が用いられていた可能性は高いのではないかと思います。
ちょうどこの予算の話が話題になり始めたころ、「はやぶさ」プロジェクトの本を読みました。
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講談社
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「はやぶさ」プロジェクトマネージャーの川口淳一郎さんによる監修で、技術的側面から「はやぶさ」について詳細に解説している本です。ちょっと難解な部分もありますが、解説や注釈も豊富なので、非常に興味深く読むことができました。
ただ、読み進めるうちに、いくつか疑問を感じてしまいました。
この世界初のエアロブレーキング実験は、日本ではほとんど黙殺に近い扱いを受けたのですが、国際的には大きなセンセーションを巻き起こしました。(中略)「世界で尊敬されるような存在になるためには、世界初を狙わなければいけないのだ」ということを実感(後略)
これは1991年の「ひてん」の話で、本書ではかなり冒頭で語られています。この後も、何度も「世界初」の意義について説明があり、「はやぶさ」がどんな世界初を達成したかが克明に記されています。
じゃあ、「はやぶさ2」にはどんな世界初があるの?
「はやぶさ」が岩石が主体のS型小惑星のイトカワを探査したのに対し、「はやぶさ2」は炭素を含むC型小惑星の「1999JU3」を探査するプロジェクトです。異なる対象を探査することで、太陽系の起源を探るという理学的な意義は判ります。飛行を繰り返すことで信頼性を高める必要があるという工学的な意義も判ります。
でも、川口淳一郎さんが繰り返し語っていた「世界初の重要性」が、「はやぶさ2」プロジェクトからは伝わってこないように思うのです。「はやぶさ2」プロジェクトのホームページを見ても、正直言ってボクには判りません。
JAXAはやぶさ2プロジェクト
http://b612.jspec.jaxa.jp/hayabusa2/
ボクは、「信頼性を高める」とか「別の小惑星をターゲットにし太陽系の起源を探る」という、「はやぶさ」の延長上にある目的だけではなく、「次のプロジェクトにはこういう世界初があります!」という説得材料が必要だったのではないか? という気がしてなりません。簡単に言うな、と怒られそうですが
ちょっと余談ですが、川口淳一郎さんは著書の中で再三「世界初」の意義について語っています。が、最後に「世界初、世界一を目指すべき」と「世界初」と「世界一」を同列に語っています。恐らくコレは、事業仕分けで標的になったスーパーコンピューターのことが念頭にあったからでしょう。
でもボクは、「世界初」と「世界一」は一緒にしてはダメだと思います。例えば、「従来からある方式を改善して、世界一の速度を達成しました」と、「従来とは異なる世界初の方式で、世界一の速度を達成しました」を比べると、同じ世界一でも後者の方が他の追従を許さないという意味でも価値が高いです。
そして今日、川口淳一郎さんがこんな文章をアップしました。
はやぶさ後継機に関する予算の状況について
どうして2番ではだめなのか、この国の政府は、またも、この考えを露呈したかのようだ。トップの位置を維持し、独走して差を開いて行こうという決断を行うことに躊躇してしまう。世界の2番手にいて、海外からの評価と格付けに神経をとがらせるばかり。堪え忍べと叫び、自らの将来を舵取りするポリシーに欠ける。
蓮舫さんの、事業仕分けの際の発言を取り上げて批判をしています。前述のとおり、そもそもJAXA内の優先順位に問題がある話です。そして、蓮舫さんの「2番ではダメなんですか」発言は、マスコミによって文脈が無視されてしまっている所がおかしいとボクは考えています。
「2位じゃだめ?」発言のおかげか 日本スパコン、世界一を奪還
蓮舫氏の発言の前に、「1位でいられる期間は?」「一時的にトップになることにどの位意味があるのか」との質問が出る。回答者は「国民に夢を与えることが大きなひとつの目的」と述べた。
その後、蓮舫氏はそうした思いや夢を否定するわけではないと前置きしつつ、「本当にこの額が必要なのか、もうちょっと教えて下さい」などと注文する。そして例の「2位じゃダメなんですか」が出てくる。2位以下になると、それまでの人的、材的投資がゼロになる、という意味なのかとも質問している。さらに、米国との共同開発の可能性についても聞いている。
その後も、文科省側の答えに納得がいかないのか、ほかの「評価者」らからも同趣旨の質問が相次いでいる。
そもそも「世界初」や「世界一」になることは、目的ではなく目標です。
だから正直言って、川口淳一郎さんが著書に「世界で尊敬されるような存在になるためには」と書いていることには違和感がありました。「はやぶさ」プロジェクトが様々な世界初を達成した素晴らしいプロジェクトだったことは間違いありません。でも、その後継機の目的は「トップの位置を維持し、独走して差を開いていくこと」なんでしょうか? 何か違うという気がしてなりません。
最初に書いた通り、 ボク個人としては「はやぶさ2」が飛べないかもしれないという話は残念で仕方がないし、削る所違うだろ!っていう憤りも感じています。でも、「トップの位置を維持することが大切」という反論は、どこか筋がおかしいのではないでしょうか。
米国やロシアから25年以上遅れていたという日本の宇宙開発が、「はやぶさ」の成功で「NASAから小惑星着陸の技術を教えてくれと言われるようになった」のは喜ばしいことです。ただ、すでに米国版「はやぶさ」が2016年の打ち上げを目指し650億円の予算を獲得した、というニュースも流れています。ここで足踏みしたら、あっという間に追いつき・追い越されるという焦りも判ります。
じゃあなんでJAXA内ですら「はやぶさ2」の優先順位が低いの?
何か歯車が狂っているような気がしてなりません。
Google+のコメントで、鷺ノ宮瑞穂さんに教えてもらったことを追記しておきます。
「はやぶさ2」がJAXA内で優先順位が低いのは、旧NASDAが強いせいらしいです。JAXA設立の時もNASDAとISASが喧嘩していたのは有名な話とのこと。そして、昔からISASは冷遇されており、発言力が弱いそうです。なるほど、そういう背景もあるわけですね。
コメント
>「はやぶさ2」がJAXA内で優先順位が低いのは、旧NASDAが強いせいらしいです。
>JAXA設立の時もNASDAとISASが喧嘩していたのは有名な話とのこと。
>そして、昔からISASは冷遇されており、発言力が弱いそうです。
それだったら、ISASをJAXAから分離してPTAこと日本PTA全国協議会の所管にしたほうがよいです。
PTAは『松浦晋也氏のL/D』の「川口コメントに追加あり」の「はやぶさ2実現を望む男」のコメントに書かれているとおり、ISASと同じ旧文部省の組織で、一人当たり月3,000円、幼稚園から高校までの子供の人口5千万人として、年1.8兆円もの予算を持っているので、ISASをPTAの所管にすれば、JAXAの時と違って優遇されるでしょう。
だだ、そうなったらISASのロケットや探査機には必ず「PTA」のロゴが付けられることになるでしょう。
>松浦悪屋さん
面白いですねそれw