「場」のないコンテンツ販売プラットフォーム「note」と、「場」としての「cakes」

鷹野凌 (takano) | note

ピースオブケイクのコンテンツ販売プラットフォーム「note」が周囲で盛り上がっています。観測範囲には新しいもの好きが多いからかな? ボクもサービス開始初日にすぐ始めたクチです。こういうのすぐ飛びついちゃう。

使ってみてすぐ想起されたのは、「Gumroad」と「Medium」「Tumblr」でした。

Gumroadは、ほとんど決済機能だけに特化したコンテンツ販売プラットフォームです。登場当時、一部であまりに手放しで賛辞されているのを見て、「おいおいちょっとまてよ」と続けざまに記事を書いたことを覚えています。

当時あれこれ提案した中で、「購入ページに販売者の情報を載せる」というのは既に実装されていますが、ボクとしてはわりと重要性が高いと思っていた「公式の『場』を早期に用意する」というのは Gumroad の目指す方向性と違ったようで、いまだ実現していません。あくまで「TwitterやFacebook、自分のブログなどで手売りする」サービスという位置づけなのでしょう。

Gumroad を販売プラットフォームとして使う側の立場から改めて考えると、この「場」が用意されていない(全ては自分次第)点と、エディタ的な機能が用意されていない(別途作成したファイルをアップロード)点は、意外に Gumroad のハードルを高くしていたように思います。

もともとTwitterやFacebookでそれなりにフォロワーがいたり、ブログにもたくさん読者がいる人なら、「場」がなかったとしても手売りできるでしょう。しかし、そういったバックボーンのない人にとっては、「出したところで売れない」現実を思い知らされるだけです。フォロワーがいなければ、まったく売れません。笑えるくらい、売れません。清々しいまでに、売れません。

また、別途ファイルを用意しなければならないというのも、もともと自らコンテンツを制作していた人ならともかく、これから何かを始めようという人には障壁です。Wordかなにかで書いた文章をPDF化すればいいだけですけど、TwitterやFacebookのようなSNSへ書き込むのに比べると、やはりそれなりに「面倒」なのです。

そういう意味でいうと、Medium や Tumblr のようなオンラインエディタによって気軽に投稿し、そのまま販売開始までできるというのは、これまでの他のサービスとちょっと違う点だと思います。しかし、note には「場」がないので、容易には売れないという点においては、従来の他サービスと変わりません。

noteはSNS的(というかtumblr的)なので、「ちょっと、見に行くか」ということになりやすい(可能性がある)。つまり、人がそこに集まるのだ。言い換えれば、日本語で言うところの「場」としての機能が意識されたプラットフォームなのだ。

R-style » 「note」を触ってみた雑感など

そしてnoteに新しく投じられるコンテンツは、すでに読者がいるところに、話題がある場所に、コンテンツが流通している場所に加えられることになります。

ブログでもSNSでもない「note」は未来を生み出すコンテンツ・プラットフォームだ | Lifehacking.jp

上記の R-style 倉下さん、Lifehacking.jp 堀さんには申し訳ないのですが、note には 「場」がありません。note そのものが「場」であるというのも、ちょっと違うと思います。それはつまり、note の参加者は、自らの意思で見たい対象を選び(フォロー)、自分固有のタイムラインを自分自身の手で作り上げる設計になっているからです。裏を返せば、フォロワーがいなければ、何を発信しても誰にも見られることはないのです。

「Twitterには『場』がない」という議論が過去に何度も繰り返されていますが、それと同じ話です。どこで、誰が、どんなコンテンツを発信しているのか、新規で参入した人にはわかりません。検索する仕組みも、用意されていません。辛うじて「おすすめユーザー」がちょっと表示される程度です。

自分の意思で誰かをフォローしない限り、自分の視界には何も現れないのですから、それは「場」と呼べません。はっきり言って、その点においては Gumroad とあまり変わらないと思います。多少、SNS的な要素があるぶん、Gumroad よりマシという程度でしかない、という状態でしょう。

つまり現状の noteは、もともとTwitter、Facebook、ブログなどの他の場所で、ある程度の認知を確立できている人にとっては、それなりに魅力的なサービスになり得ます。しかし、残念ながら無名の新人がいきなりスターダムになることは、まずあり得ないサービスでもあるのです。

ただ、note が単独のサービスとして新規で立ち上げられたのであれば、この先厳しいだろうなと思うのですが、ピースオブケイクには「cakes」という「場」があります。そこが大きな差別化になってくるはずです。

cakesは、編集の手が入ったある程度のクオリティが担保されたコンテンツが、きちっと整理分類された形で配信されている、Webマガジンです。cakes のようなところが、まさに「場」と呼ぶべき場所だと、ボクは考えます。

そして恐らくピースオブケイクは、noteである程度人気の出たコンテンツ(note の全容を把握できるのは、運営者だけ!!)を、cakes に引き入れる方向性を考えているはずです。ボクがピースオブケイクの人間なら、絶対そうします。

これは、DeNAが「マンガボックス」に「マンガボックスインディーズ」を追加したのと同じように、ネット上に「散在」しているコンテンツを「集約」し、そこから特定の作品をピックアップして「編成」するためのプラットフォームだと思うのです。つまり、登竜門的な立ち位置です。

ということを、数日使ってみて感じました。甘いことや、必要以上に持ち上げることもしませんが、cakes との組み合わせには可能性を感じます。

このブログでもやってる「投げ銭」をやってみたら、思いのほか反響があったのには驚きました。まあ、サービス開始直後の実験というか、ご祝儀的なところも大きいとは思うのですが。しかし、この note に限らず、ワンコインくらい気軽にお金を払っちゃうのが日常になると、インターネットがもっと面白くなる気がします。

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