ユニクロ「UTme!」利用規約の「著作物に関する全ての権利を無償で譲渡」や「著作者人格権を行使しないことに同意」はなぜダメなのか?

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ユニクロが5月19日から開始した、スマートフォンでデザインできるオリジナルTシャツの作成サービス「UTme!」の利用規約に、「著作物に関する全ての権利を無償で譲渡」や「著作者人格権を行使しないことに同意」という条項が入っており、大騒ぎになりました。翌日には「規約を修正する」という報道が流れ沈静化へ向かいそうです。

2014年5月19日時点における「UTme!」の利用規約第9条(権利帰属)は、こんな感じでした。画像の赤線、blockquoteの太字はボクが追加しました。

「UTme!」の利用規約

第9条(権利帰属)

  1. 当社ウェブサイト及び本サービスに関する知的財産権は全て当社または当社にライセンスを許諾している者に帰属しており、本規約に基づく本サービスの利用許諾は、当社ウェブサイトまたは本サービスに関する当社または当社にライセンスを許諾している者の知的財産権の使用許諾を意味するものではありません。
  2. ユーザーは、投稿データについて、自らが投稿その他送信することについての適法な権利を有していること、及び投稿データが第三者の権利を侵害していないことについて、当社に対し表明し、保証するものとします。投稿データに、ユーザー以外の第三者が知的財産権を有している以下の各号のいずれかが含まれる場合、必ず事前に権利者の使用許諾が必要となります。(なお、以下各号は一例であり、使用許諾が必要となる投稿データはこれらに限定されません。)
    1. 歌のタイトル、文章等からの引用等、商品、企業、ブランド、有名キャラクター等の名前及びロゴ
    2. アニメ、CM、商品、企業等のキャラクターのイラスト、画像等
    3. 名を問わず、人物を特定できるイラスト、画像等
  3. ユーザーは、投稿データについて、その著作物に関する全ての権利(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含みます)を、投稿その他送信時に、当社に対し、無償で譲渡します。
  4. ユーザーは、当社及び当社から権利を承継しまたは許諾された者に対して著作者人格権を行使しないことに同意するものとします。
  5. ユーザーは、当社が実施する各種キャンペーン等に投稿データが使用されることに同意するものとします。

これの何がいけないかというと、「著作物に関する全ての権利を無償で譲渡」という点と、「著作者人格権を行使しないことに同意する」という点が、オリジナルTシャツの作成サービスとしては凶悪過ぎる条件だからです。

何が凶悪なのか?

著作者の権利をおおまかに分類すると、「著作権(財産権)」と「著作者人格権」に分かれます。著作権(財産権)は、コピーしたり配布したり加工したりといった権利で、他人へ譲渡したり販売したりできます。著作者人格権は、著作者の氏名表示や勝手に改変されたりしないといった、著作者の名誉を守る権利で、他人へ譲渡できません。

著作権(財産権)の譲渡とは?

ユニクロに対し「著作物に関する全ての権利を無償で譲渡」すると、原作者からは著作権(財産権)が失われてしまうため、原作者自身ですら自由に複製したり頒布したりできなくなってしまいます。

デザインコンペやコンテストなど、企業がそのあと自由に著作物を使うことを目的としている場合には、むしろ当然の条件です。しかし、オリジナルTシャツを作ろうと思ってイラストを投稿したら、著作権(財産権)をユニクロに全て無償譲渡してしまうことになるというのは、明らかにやり過ぎです。

例えばニコニコ動画へ投稿する際の規約は、以下のようになっています。太字はボクが追加しました。

2.運営会社による投稿コンテンツの利用

利用者は、投稿コンテンツをアップロードすることにより、運営会社に対し、投稿コンテンツに関する世界的、非独占的、無償、サブライセンス可能かつ譲渡可能なライセンスを付与するものとします。利用者は、投稿コンテンツに関し、上記ライセンスを付与するために必要な権原を有することを表明・保証するものとします。投稿コンテンツに関する上記ライセンスは、利用者が投稿コンテンツを削除した時に終了するものとします。

「ライセンス付与」なので、著作者自身が権利を失うことはありません。その上、ニコニコに付与したライセンスは、動画を消した時点で終了します。こういう条件なら、比較的安心して利用できます。

著作者人格権を行使しないとは?

また、著作者人格権は前述のとおり他人へ譲渡できないため、企業が著作物を自由に使いたい場合は、著作者に対し「行使するな」という条件を付ける場合が多いです。このような「著作者人格権不行使条項」は、無効であるという説と、有効であるという説があり、現時点ではまだ決着していません。ブログが流行り始めた2004年ごろから、このような条件を規約に盛り込むサービスが増えてきたようです。

なぜ企業は著作者人格権を行使されたくないかというと、著作者人格権の中には「同一性保持権」というのがあるからです。UTme!では、スマートフォンのアプリでイラストを加工できるようになっています。ところが極端な話、その加工が気に食わないから「同一性保持権が侵害された」とユニクロを訴えることも理屈上は可能なのです。

著作権(財産権)を譲渡した相手を原作者が訴えたケースとしては、彦根市のキャラクター「ひこにゃん」の事件が有名です。

この事件では、募集要項に「キャラクターの一切の著作権は実行委員会に帰属する」とあったので、原作者からは著作権(財産権)が失われています。しかし、元デザインに存在しないしっぽを勝手に付けたぬいぐるみが販売されたりしたため、原作者が同一性保持権の侵害だと訴えたのです。

同一性保持権というのは原作者にとって、最後に残された最強の権利なのです。極端なことを言えば、トリミング加工をしたサムネイル画像を用意することすら、同一性保持権を行使すれば止めることができます。ただ、さすがにサムネイル画像すら作れない状態では、著作物を使ったサービスなど展開できませんよね。

どういう規約ならよかったのか?

例えばGoogleの利用規約は、以下のようになっています。

本サービスの一部では、ユーザーがコンテンツをアップロード、提供、保存、送信、または受信することができます。ユーザーは、そのコンテンツに対して保有する知的財産権を引き続き保持します。つまり、ユーザーのものは、そのままユーザーが所有します。

権利譲渡ではない旨が明記されています。

本サービスにユーザーがコンテンツをアップロード、提供、保存、送信、または受信すると、ユーザーは Google(および Google と協働する第三者)に対して、そのコンテンツについて、使用、ホスト、保存、複製、変更、派生物の作成(たとえば、Google が行う翻訳、変換、または、ユーザーのコンテンツが本サービスにおいてよりよく機能するような変更により生じる派生物などの作成)、(公衆)送信、出版、公演、上映、(公開)表示、および配布を行うための全世界的なライセンスを付与することになります。

おお? と思いますが、直後にこのように明記されています。

このライセンスでユーザーが付与する権利は、本サービスの運営、プロモーション、改善、および、新しいサービスの開発に目的が限定されます。

ライセンス付与の目的がはっきりしているわけです。

ちょっと怖いのは、その続きにあるこの部分。

このライセンスは、ユーザーが本サービス(たとえば、ユーザーが Google マップに追加したビジネス リスティング)の利用を停止した場合でも、有効に存続するものとします。

ニコニコ動画みたいに消したら権利も消滅、ではないわけです。ここはもうちょいなんとかして欲しいな……と思いますが、まあ、ユニクロのUTme!の規約に比べたら雲泥の差だというのがお分かりいただけるかと思います。

ユニクロも批判を受け、慌てて規約を修正するようですが

過去に似たような形で炎上している案件なんかいくつもあるわけですから、はじめからもうちょい慎重にすすめておくべきだったのではないかな、と思います。デザイン発注して著作権買い取りというビジネス慣行を、そのままユーザーに対して当てはめちゃダメですよ。

なんでコンテンツにカネを払うのさ?デジタル時代のぼくらの著作権入門

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