【書評】本田雅一さんの「iCloudとクラウドメディアの夜明け」を読んだ

小飼弾さんに勧められ、読んでみました。結構知らないことがあって、勉強になりました。

iCloudとクラウドメディアの夜明け (ソフトバンク新書)

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本田 雅一

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中島聡さんのエントリー

に対し、小飼弾さんが「それは設問が間違っている」というエントリー

で応酬した中で紹介している本です。中島聡さんは「未だに終身雇用制の呪縛に縛られている」のを理由とし、日本の雇用制度を問題視しています。小飼弾さんは「HPもDellもNokiaも、MicrosoftやGoogleですらAppleになれなかった理由が説明できない」と反論しています。正しい設問はこうだ、と。

なぜ今のAppleはかつてのSonyになり、そして今のSonyはかつてのAppleになってしまったのか。

この小飼弾さんの問い掛けに、1つの解を示している本だと思います。

というのは、タイトルに「iCloud」と入っているのでAppleばかり取り上げている本なのかと勘違いしてしまったのですが、実はかなりの文量をSonyに割いているのです。Sonyが失敗した理由とAppleが成功した理由の解説や、SonyとAppleの「クラウド」に対するアプローチの仕方が異なる理由についての解説がなされています。

この本は昨年8月に発行されているのですが、もっと早く読んでおけばよかったなーと思いました。つい先日、Sonyの社長兼CEOになることが決まった平井一夫さんに、この時点で既に焦点を当てているんですね。

ボクもずっとSonyをウォッチしているわけではないのですが、独自規格でユーザーの囲い込みをしようとして大失敗したというような印象を持っていました。ところが、Sonyは既に2009年の段階でその従来の戦略を改めているそうです。

従来のやり方とは、コンテンツのデジタル技術や連携ツール、サービスなどを駆使し、利用者を自社製品から離れられないように囲い込むマーケティング手法である。このやり方は利用者の気持ちを無視していると思うかもしれないが、デジタルメディアの時代になって以降、常套手段として多くの場面で用いられてきたものだ。アップルもその例外ではない。

しかし、この”囲い込みマーケティング”は、どのようにうまく、利用者に迷惑がかからないよう運営したとしても、使用できる機器の選択肢を限定してしまうという意味で、利用者に中長期的な不利益を与えてしまう。

つまり、先行するAppleに同じやり方(囲い込み)で追いつくことはできないから、さまざまなプラットフォームで共有できるオープンな流通網を創造する方向に舵を切っているそうです。その舵を切るきっかけが、平井さんが2009年にSony本社の副社長になり、ネットワークプロダクツ&サービスグループを率いるようになったことだったようです。

ボクがいま使っているSony製品はPSPと、Sony EricssonのXperia(SO-01B)です。正直言って、ボクがその方針転換による恩恵というのを実感できたことはありません。Play Station Networkに登録しているので、パソコンからSony Entertainment Networkに接続することはできますが、メニューにある「モバイル端末」にはまだXperiaを登録することができません。仮に登録したところで、どんなメリットがあるか判らないない、というのが現状です。

http://www.sonyentertainmentnetwork.com/jp/

Sony Entertainment Network

しかし本書を読み進めると、既に欧米向けには実装されているサービス――例えば「ミュージックアンリミテッド・バイ・キュリオシティ」などが紹介されています。同サービスは日本向けには行われていないそうです。本書では「それはなぜか」というところまで踏み込んではいないのですが、恐らく「まねきTV事件判決」に象徴される時代遅れな法規制によって、日本のユーザーがお預けを食らっているという状況なのだと思います。

つい最近も、音楽データ違法ダウンロード刑事罰化へ法改正しようという動きがあったりと、日本の法規制は既得権者のロビー活動がうまいからか、時代に逆行する方向へ進んでしまってます。

本書によると、Sonyが凋落したのも、独自の著作権保護技術を搭載した機器を積極的にプロモーションしたことがきっかけだったようです。価格が高い上に不便で、一般に用いられているMP3との互換性がないという、消費者の利便性を考慮していない製品群は、実は音楽レーベルによって制定された方針に沿っただけなのですが、消費者の批判は音楽レーベルではなく、製品を出しているSonyに向かってしまったそうです。

また、AppleのiTunesミュージックストアの誕生が、それに追い打ちをかけたそうです。ボクは全く認識がなくて、本書を読んでびっくりしたのですが

ソニーで音楽レーベルとの交渉を行なっていた人物は、音楽レーベル側が手のひらを返すようにアップルに楽曲の使用許可を出した理由が、当初はまったくわからなかったという。実はアップルは音楽レーベルを飛び越し、iPodユーザーであった有力アーティストたちに、iPod向けに音楽をダウンロード販売しないかと口説いていたのだ。

iTunesが成功したのには、こんな理由もあったんですね。全米レコード協会と交渉をする前に、しっかり根回しをしておいたというわけです。また、Appleが交渉を行ったタイミングも良かったようです。著作権保護技術で失敗し、MP3の違法アップロードは収まらす、不正利用者への容赦ない訴訟で不興を買い、世論の支持を失ってすっかり弱気になった全米レコード協会が、方針を変えようという議論を行なっていた最中だったそうですから。

Appleは消費者の利便性を徹底的に追求したのに対し、Sonyは既得権益を守る方へ動いてしまった、というのが冒頭に挙げた小飼弾さんの問い掛けに対する答えだとボクは解釈しました。しかし今後はどうなるか。時価総額世界一になったAppleが、既得権益を守る方向へ動く兆しが見られたら、その時がAppleの凋落の始まりなのかもしれません。

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