【書評】違法ダウンロード罰則化のニュースを見て、山田奨治さんの「日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか」を読んだ

この週末の夕方に、こんなニュースが流れました。

具体的にどんな条文になるかまだ明かされていないため詳細は判らないのですが、報じられている内容を読む限り、2010年1月から施行されている改正著作権法の範疇で、従来罰則がなかったものに罰則を設けることになる、ということのようです。

「著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合」(改正著作権法30条1項3号)

この改正によって、違法ファイルのダウンロードは「私的使用のための複製」とはみなされなくなったわけですが、刑事罰がないため「民事訴訟される可能性がある」程度にとどまっていました。この2年前のINTERNET Watchの記事で福井検索弁護士は既に、今後さらに強固な措置を求める可能性があると指摘しています。

それが今国会で審議されている「日本版フェアユース」「絶版本データの図書館配信」「DVDリッピング規制」の著作権法改正案に、急遽追加で盛り込まれることになったというわけです。

寝耳に水だった関係者が、この動きに猛反発しています。

ボクが警戒しているのは特に、小倉弁護士が言及している法改正後の警察の動きです。著作権法の本来の趣旨とは無関係に、「あいつが気に食わないから社会的に抹殺してやりたい」という目的のために、法が濫用される可能性があると思います。

津田大介さんや山田奨治さんが怒っているのは、今回の話が公開された議論を経ずいきなり湧いてきた話だという点です。

議論を尽くして、各方面の代表の大勢が合意したことであるのなら、

ぼくはあえて問題にするつもりはない。

なぜこれを問題だと思うのかというと、

これは国会議員が音楽業界の意向だけを聞いて、やろうとしていることだからだ。

これは山田奨治さんのエントリーからの引用ですが、この下にこんなことが書いてありました。

しかも、そう法律がそう変わったのは、ほんの2年ほどまえのことだ。

(しかし、その議論において、ユーザーの意見が徹底的に無視されたことについては、拙著『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』第4章をお読みください。)

これを見て、この本を買っただけで積んであるのを思い出しました。まあ、読むタイミング的には、ちょうど話題がホットな今がよかったのかもしれません。

日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか

日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか

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山田 奨治

人文書院

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さて本書の帯にはこんなことが書いてあります。

本書の論点

・日本の著作権はどんどん厳しくなっている。

・著作権法の改正にかかわっているのは、ごく限られたひとたちである。

・厳しい著作権をむやみに海外に広げることは、文化の伝播を阻害する。

・法改正に向けての議論は、閉ざされていく傾向にある。

・市民は法改正の議論に関心を持ち、発言すべきである。

実際の章立ても、これに近い形になっています。

第1章 パクリはミカエルの天秤を傾けるか?

第2章 それは権利の侵害です!?

第3章 法律を変えるひとびと

第4章 ダウンロード違法化はどのようにして決まったのか

第5章 海外の海賊版ソフトを考える

第6章 著作権秩序はどう構築されるべきか

第1章は今の日本の著作権法がどういうものかという解説を、第2章はその法律によって複雑な自体が起きてしまっているという実例を紹介しています。

興味深いのは、第3章と第4章。法律を改正するにあたって、どんなプレイヤーがその話し合いに参加しているのか、どんな綱引きがあるのかを、「文化審議会著作権分科会」や「私的録音録画小委員会」などの議事録を丹念に紐解きながら解説し、問題提起しています。

著作権法の目的は第一条に定められている「文化の発展に寄与すること」ですが、「著作権者等の権利の保護」と「文化的所産の公正な利用」は相対する要素を含んでいるため、本来は権利者・利用者双方の利害を調整しながら落としどころを探るというプロセスが求められるはずです。

しかし、著作権分科会や小委員会のメンバーはほとんどが権利者団体の代表で、自分たちの業界の権益を守ることが最大の目的になっています。業界団体内でも意見が分かれそうな所を、周囲の意見も聞かずに代表者の独断だけで権利を主張していたりと、ダウンロード違法化が決まるまでのプロセスを見ると正直呆れます。

私的録音録画小委員会に、数少ない「利用者」側の立場で参加していたのが津田大介さんです。そういう経緯でMIAUを設立したというのは知りませんでした。「ネトラン」で「ぶっこ抜き」などといった記事を書いてたというのは知っていたのですが……そこからどこをどう歩んでいくと、こういった重要な会議のメンバーになれるのでしょうね?驚かされます。

見かけにだまされるな、奴は相当「できる」男だ。

しかしもっと興味深いのが、第5章の海外の海賊版について。前半の、海賊版DVDを見分ける方法は正直どうでもいい(ネットワーク化により、パッケージ流通は今後減っていく一方なので)のですが、後半の海賊版の経済・社会学というところが非常に面白い。

海賊版がアジア各国に蔓延することで、日本製コンテンツへの需要が生まれ、結果的に新たな市場が生まれているというのです。言い方を変えるなら、文化による侵略が勝手に起きたといったところでしょうか。日本でも第二次世界大戦後に、アメリカのホームドラマが繰り返しテレビで放映されることで、アメリカの豊かな生活への憧れが民衆に芽生えたと言われています。

経済的に裕福になってくると、違法コピーが減っていってソフトにお金を払うようになるという分析も面白い。人間の欲求として、まず何より生存すること=食料や住む場所・安全が確保されることが最重要なわけですが、それが満たされれば、徐々にモノや娯楽・文化にお金を使う余裕が出てくるということなんでしょうね。

さてこのままだと、日本の著作権法は更に厳しい規制を強いる方向に進んでいってしまいそうですが、果たしてそれは「文化の発展に寄与する」のでしょうか?このままいくと「著作”権”者の権利保護」ばかりが強くなってしまうわけですが……例えば、著作権者がその権利の一部(翻案権など)を開放して非商用であれば二次創作を認めている「東方」や「初音ミク」がこれほど流行しているという状況を、規制強化しようとしている人々はどう見ているのでしょうか。目先の権益を守ろうとする動きが、かえって自分たちのクビを締めることになっていると、ボクは思うのですが。[文中赤字部分追記]

[追記]

少し言葉が足らなかったようなので補足します。従来の「複製によって儲ける」というビジネスモデルが破綻しかかっているのに、そこに固執して規制を強化しても活路は見いだせないのではないか?むしろ消費者を敵に回すことになるのでは?今までと違うやり方での収益化を模索するべきなのでは?というのが結び部分の趣旨です。「東方」や「初音ミク」以外にも事例を挙げるとしたら、グレイトフル・デッドを挙げます。ライブ重視という意味では「AKB48」もそうですね。

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