「TSUTAYA図書館問題でTRCがCCCとの関係見直し?」「本が売れぬのは図書館のせい?」など出版業界関連の気になるニュースまとめ #192(2015年10月26日~11月1日)

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Nexus7

毎週月曜恒例。出版業界関連の先週のニュースで、ボクが気になったものにコメントをつけてまとめていきます。電子出版界隈が中心です。先週は読書週間が始まったからか、ニュースがてんこもり。中でも「TSUTAYA図書館問題でTRCがCCCとの関係見直し?」「1冊6万円の亞書」「『日本酒入門』騒動でエイ出版社が謝罪」「本が売れぬのは図書館のせい?」などが話題になっていました。

【新しい図書館のカタチ】世田谷区の“本のない図書館”が開館以来、人気に。 | GetNavi web ※2015年10月26日

見出しの “本のない図書館” は正確ではなく、“蔵書のない図書館” と言うべきでしょう。返却された本や、貸出予定の本はあるわけですから。郵送貸出サービスやってる公共図書館結構たくさんあるのですが、誰でも利用できるところもあれば、障害者に限定されているところもあったりで、サービス内容は結構まちまちのようです。場所借りてスタッフ常駐させるコストに比べたら、郵送対応の方がはるかに安くあがるような気がするんだけどなあ。

日刊ゲンダイ|「ダッシュ勝平」「F」がヒット 六田登さんが語る漫画家人生 ※2015年10月26日

六田登さんインタビュー。ここが興味深い。

『F』がデジタルで売れてるおかげで、アシスタントに給料を払いながら、ボクは描き下ろしで、描きたいものを描いてられる。

おお、すごいなーと思ってちょっと調べてみたら、多くの電子書店は版元が小学館ではなく、ゴマブックスになってました。

ゴマブックス株式会社

eBookJapanだけ小学館。この表紙は1986年初版のビッグコミック版のようです。

F(エフ) – 電子書籍・コミックはeBookJapan

「eBookJapan発売日:2008年03月21日」とあるので、電子化はこちらの方が早かったものと思われますが、なぜ他の電子書店はゴマブックスがやっているのか。うーん、興味深い。

なお、Kindle版は121MB、eBookJapan版は43.9MBです。試しに買って比べてみましたが、表紙はもちろん、目次ページとか、カラーページとか(eBookJapanはオリジナルのスキャンだと思われるが、Kindle版はデジタル着色っぽい)、もちろん奥付も違います。完全に違う版ですねこれは。うーん、興味深い。

Listening:<第69回読書世論調査>読書教育の場は「家庭」 調べ物「ネットで」6割(その1) – 毎日新聞 ※2015年10月26日

第61回学校読書調査:知識広げるマンガ 文化変えるスマホ(その1) – 毎日新聞 ※2015年10月27日

学校読書調査:本をよく読む子は、マンガも – 毎日新聞 ※2015年10月27日

第61回学校読書調査:知識広げるマンガ 文化変えるスマホ(その3止) – 毎日新聞 ※2015年10月27日

毎年行われている読書世論調査と学校読書調査の記事から何本かピックアップ。1本目の記事で “他方でスマートフォンやパソコンが普及し、大人も含め家庭全体の活字離れも懸念されている” と書いてるのは、やれやれだぜ、という感じ。ところがそれ以外の記事では、やたらとマンガ推しなんですよね。ちょっとびっくり。書いてる人が違うのかしら?

TRC、CCCとの関係見直し 図書館運営で対立 :日本経済新聞 ※2015年10月27日

【TSUTAYA図書館】図書館流通センターが一転 CCCとの共同運営を継続する「理由」 ※2015年10月31日

2本まとめて。別に日経の誤報ではなく(一番早かったのは文化通信だと思われるが、ネットに記事がないので代替)、後から「海老名市立図書館について、共同事業体を解消するとは言っていない」という見解が出たそうで。

東洋経済オンラインの、CCC増田宗昭社長インタビューTRC谷一文子会長インタビュー(取材は10月中旬に行ったそうです)や、ノンフィクション作家の松浦晋也さんが書いた批判記事もついでに読んでおくといいかも。

ポーランドの裁判所、電子書籍をめぐるEUの新VATルールを違憲と判断 ※2015年10月27日

フランスとルクセンブルクの低税率を利用したAmazonの越境取引による租税回避を狙い撃ちした「電子書籍は紙の本とは違う」というEU司法裁判所の判断(詳細は、当時のマガジン航の記事を参照)に、加盟各国から強い反発があるそうです。もう一波乱ありそうですねこれは。

1冊6万円の本を半額で国会図書館に大量納入 税金投入する必要あるのかと疑問が相次ぐ : J-CASTニュース ※2015年10月27日

1冊6万円謎の本、国会図書館に 「代償」136万円:朝日新聞デジタル ※2015年11月1日

まさか当事者がインタビューを受けるとは思わなかった騒動。内容は「自分が即興的にパソコンでギリシャ文字を打ったもので、意味はない」などと述べており、腹立たしく思ったのですが、冷静になって考えてみるとこれは非常に難しい問題なのです。

国立国会図書館側では本の内容を吟味して選ぶという行為はできないんですよね。あらゆる出版物を後世に残すのが目的ですから。同人誌(ユネスコの定義なら多くは「小冊子」)ですら本来は納入対象なのです。PODも対象だと言われたので、『月刊群雛』も毎月ちゃんと納本してます。

ただ、定価の半分と送料を「代償金」として支払う制度に穴があるのは確かでしょう。納本義務のある「出版物」の定義を、もうちょいはっきりさせた方がよさげ。少なくとも「美術品とか工芸品」は、現時点でも収集対象ではありません。

ドイツで「電子書籍の中古販売」議論が再燃、バーデン=ヴュルテンベルク州の消費者保護局「認めるべき」 ※2015年10月27日

「中古」として捉えるからおかしくなるのであって、利用権の転売や譲渡だと考えれば、むしろきっちり制度化した方がいいように思えてきました。死後にSNSアカウントをどう管理するのか? 問題と少し似てますね。

活字文化の日 知の基盤となる公立図書館に : 社説 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE) ※2015年10月日

読売新聞ェ……。

民間の柔軟な運営方法を取り入れること自体は、悪くない。ただし、住民に良書を提供するのが、公立図書館の第一の役割であることを忘れてはならない。

日本図書館協会「公立図書館の任務と目標」には「住民は,あらゆる表現の記録(資料)に接する権利を有しており,この住民の知る自由を保障することは,公立図書館の重要な責務である」と書かれており、どこにも「良書を提供」とは書いてありません。「あらゆる表現の記録(資料)」がポイント。「良書」かどうかは判断しないのです。

【やじうまWatch】電子書籍ストア「PDABOOK」が15年の歴史に幕。再ダウンロード期限は12月7日まで -INTERNET Watch ※2015年10月日

老舗が看板を下ろします。DRMフリーのXMDFが手に入る数少ない電子書店の1つだったそうですが、ラインアップが集まりづらかっただろうな……。合掌。

「日本酒入門」騒動でエイ出版が謝罪 「二次使用の許諾確認に不手際があった」 – ねとらぼ ※2015年10月28日

エイ出版社の言い分にどうも不明瞭なところがある事件。

名前が載ってないということは、勝手に使う気満々だったのでは。経緯と再発防止策を公表しないと、他の著者が「エイ出版社に原稿預けると同じようなことされるのでは?」と疑心暗鬼になっちゃいますよ。

秋田書店、解雇の元社員と和解 当選者水増し指摘 – 47NEWS(よんななニュース) ※2015年10月28日

首都圏青年ユニオンが勝ち取った案件。和解条件で削除された2013年8月21日付け社告(同月22日改訂)のArchiveはこちら。秋田書店的には「弊社としては法廷の場で事実関係を明らかにし、解雇の正当性を証明する所存」だったようですが、結局全面的に非を認めている形になっていますね。しかし和解まで2年もかかるというのは……弱い立場は辛いところですね。

本が売れぬのは図書館のせい? 新刊貸し出し「待った」:朝日新聞デジタル ※2015年10月29日

新潮社の言い分は「公共図書館はほんとうに本の敵?」(マガジン航に掲載された、2月2日に紀伊国屋サザンシアターで行われた「シンポジウム〈公共図書館はほんとうに図書館の敵?〉」の記録)の頃からあまり変わっていません。反論として、政策研究大学院大学知財プログラムの中瀬大樹氏が2012年に書いた論文「公立図書館における書籍の貸出が売上に与える影響について」の結論「図書館による書籍の貸出は、売上に対して、正の影響を与えている」や、同じ朝日新聞の林智彦さんが書いた「「本が売れぬのは図書館のせい」というニュースを見たのでデータを確かめてみました」が話題になってます。

「そもそも初版の9割が売れて採算ラインという設定がおかしい」という声も聞こえてきましたが、果たして。新潮社石井氏の言う「いわゆるベストセラーで爆発的に売れる本よりも、中堅の作家、失礼な言い方かもしれませんが、そこそこ増刷をしてくれる本で新潮社のような文芸出版社は成り立っています」というのが、どうも眉唾な感じがしてなりません。ベストセラーの利益の方が圧倒的に大きいのでは?

樋渡啓祐、TSUTAYA図書館問題を語る ※2015年11月1日

NewsPicksによる取材。突っ込みが甘すぎる。

ただ、もともとあった蔵書を削って、変な本を入れたわけではない。

そこですかさず、DVDが大量に除籍され同じタイトルがレンタルで並んでいる状況や、貴重な郷土資料が破棄された件をぶつけなきゃダメでしょ。

オープン直前になって棚からの本の落下を防止する安全対策が必要だと判明し、本を買う予算の3分の2を安全対策費に回さざるをえませんでした。

この件は「再契約もなく流用されたのは違法」として住民監査請求されてますね。受理されたのかしら?

さてはて。

著作権判例集が「著作権侵害」 出版差し止め命じる決定:朝日新聞デジタル ※2015年10月29日

冗談のような本当の話。非常にコメントしづらい。DOTPLACEに寄稿した記事にも書いたのですが、報道の早かったNHKだけ有斐閣のコメントが「取材には応じられない」(Internet Archive)になってて、なんだかなあという感じ。朝日新聞では「仮処分決定は、著作者とは何かということについて、当方の見解と大きく異なる。精査した上で、早急に対応方針を検討する」となっています。末尾に福井健策先生の「一連の仮処分の提起の中で、学生や受験生のことはどれくらい考慮されたのだろうか」というコメントも。

「楽天いどうとしょかん」にOverDriveの電子図書館サービス導入 -INTERNET Watch ※2015年10月29日

「楽天いどうとしょかん」は先週、北海道で運行開始している(ピックアップ忘れてた)のですが、同時に米OverDriveの電子図書館システムを導入したそうです。このCSR活動は何度も言うように、ほんと素晴らしい。リアル展開はAmazonがやらない部分だから、もっと力を入れてもいいのでは。

電子書籍を提供している公共図書館は94%(米国):Library Journal誌とSchool Library Journal誌による共同調査より | カレントアウェアネス・ポータル ※2015年10月29日

2014年の調査では95%だったのですが、全数調査ではないので、誤差の範疇ということで。ただ、回答図書館数が減ってるのはちょっと気になる。

出版物の売り場毎の販売額推移をグラフ化してみる(番外編:電子出版独自追加版)(2015年)(最新) – ガベージニュース ※2015年10月30日

ガベージニュースが毎年書いている、出版関連の販売額推移グラフの記事。“「インターネットルート」と「電子出版ルート」を合わせると、すでに「コンビニルート」を抜いている” というのが興味深い。「インターネットルート」と「電子出版ルート」は、どちらも伸びてますからね。

スマートフォンの所有率が上昇:Pew Research Centerの各種情報端末の所有率調査より(米国) | カレントアウェアネス・ポータル ※2015年10月30日

「利用率」ではなく「所有率」です(原文も ownership)。だから「電子書籍端末の所有率は19%で、2015年初期段階の32%より減少」というのが不思議。スマホシフトは分かるけど、フィーチャーフォンと違って利用目的と機能が違うから、捨てちゃうってことはないと思うのですけど。

出版状況クロニクル90(2015年10月1日~10月31日) – 出版・読書メモランダム ※2015年11月1日

毎月楽しみな、小田光雄さんの出版状況クロニクル。「元武雄市長に始まるTSUTAYA図書館誘致の流れを重ね合わせてしまう」と内沼晋太郎氏のブックコーディネートを批判するのはちょっと言いがかりに近いような気が。

(cache) JPO日本出版インフラセンター【HOME】 ※2015年11月2日 08:57の魚拓

JPOは緊デジに関する会計検査院の改善処置要求を受け、10月5日の記者会見で「出版社に配信状況を問い合わせ、今月中に調査結果を公表する」と言っていたはずなのですが、とりあえず現時点ではウェブサイト上には何も公表されていないことを魚拓として残しおきました。

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