直木賞候補に挙がった時に購入し、しばらく積んでありました。当時「SFが直木賞を受賞できるかも!?」と話題になっていましたね。
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高野 和明
角川書店(角川グループパブリッシング)
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読み始めたら止まりませんでした。帯の煽りに「晩飯を抜いてでも買って読むべし」というのがありましたが、晩飯を忘れて最後まで読んでしまいました。で、率直な感想。ハリウッド映画みたいでした。
(ちょっとネタバレありますので注意して下さい)
(ここからネタバレあります)
ものすごく簡単に言ってしまえば、二人の主人公が、それぞれの戦いに打ち勝ち、ハッピーエンドを迎えるというストーリー。とても面白かったんですが欲を言うと、とてもキレイな結末なのが物足りなかったです。いや、この話のこれから先のことを想像すると、恐らく現人類の滅亡という結末が待っているので、純粋な意味でのハッピーエンドではないのかもしれませんけど。最後の最後にもう1回「うわあぁぁぁ!」ってさせて、「え、これどういうことなの?」と考えさせるような余韻を残す終わり方にして欲しかったなあ、と。
映画「インセプション」のラストシーンでは、主人公が回したコマが回り続けるのか、回転が鈍って揺れ始めたのか、どちらとも判断できる(そしてどっちに解釈をするかで、ラストシーンの意味が全く変わる)所で映像が終わり、「うわこれどっちなんだろう?」って頭を悩まされました。家に帰ってから調べたんですが、やはりわざとそういう終わり方にしているんですね。非常にうまい。
この作品は題名が「ジェノサイド」ということもあり、話中で人類が犯した過去の”虐殺”に関する話が何度か出てきます。中でも、関東大震災の時の流言蜚語による朝鮮人虐殺や、南京大虐殺など、戦後日本の自虐的な歴史教育を否定したい人々(あえて俗な呼称は使いません)がヒステリックになるトピックスが出てくるので、ネットで「ジェノサイド」の評判を見ると、見事に賛否が分かれています。
“歴史”なんて後の世の人が都合よく書き換えてしまえるものだから、認識が立場に拠って違うなんてのはよくあることだし、ボク自身はそこで論争するつもりは全くないし否定するつもりも無いのですけど、話中での取り上げ方が微妙に唐突に感じられてしまうのが惜しいな、と思いました。どうしても作者としてこの話題には触れておきたかったのだな、というのが透けて見えるんです。
核兵器、ヨーロッパ諸国によるアフリカ植民地、チンギス・ハンの征服、アウシュビッツなどなど、人類の愚行として話中に取り上げているトピックスは他にもたくさんあるんですが、やはり日本人が書いた作品を日本人が読むと、日本人の過去の蛮行というのがどうしても目に止まってしまいますね。
さて、SF作品としては珍しく直木賞候補には挙げられ、残念ながら受賞はできなかったこの作品ですが、ボク自身は読み終わるまで選評は見ないようにしていました。
【直木賞 選評の概要 第145回 『ジェノサイド』×各選考委員】
直木賞ってネームバリューはあるけど、選考理由がボクたち一般市民にはイマイチ納得しづらかったりするんですよね。「文学的ではない」とか、よく判らない。結構好きな作家の北方謙三さんが「人知を超える存在を小説の核に据えることが、最終的には私には受け入れられず、強く推すに到らなかった」なんて言ってるけど、それってただのSF嫌いなんじゃ? とツッコミを入れそうになりましたよ。伊集院静さんなんかベタ褒めしているように見えるのに評価は△。なんだそりゃ。