先週は「メルカリの新刊販売はトーハン」「pixiv論文は合法? 倫理問題?」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2017年5月22日~28日分です。
リクルート、キュレーションメディア「ギャザリー」終了 「一次権利者の権利保護が現状困難」 ITmedia NEWS(2017年5月19日)
1週前の記事ですが見落としていたので改めてピックアップ。リクルート、潔い。しかし「他媒体からの無断転載が見受けられる」というワードを、「YouTube」や「ニコニコ動画」に当てはめて考えると……?
知的財産戦略本部、「知的財産推進計画2017」を決定 カレントアウェアネス・ポータル(2017年5月22日)
ちょっとまだ熟読できていませんが、「国の分野横断統合ポータル」の構築という記述が気になります。仮称「ジャパンサーチ」とのこと。
新刊、フリマで販売 メルカリ、トーハンと組む 新・中古本選びやすく 日本経済新聞(2017年5月23日)
メルカリ「カウル」の第1報で「今後は、出版取次業者と協力し、メルカリ カウル上で中古の商品だけではなく新刊の販売も予定するという」と記述されているのは、トーハンでした。リアル店舗での新古混在販売を普及させる気はないのかな? ICタグの導入が必要でしょうけど、万引き防止にもなるから、一石二鳥。
アニメ化効果は最大5.2倍!2017年春アニメの原作コミック売上ランキングベスト5 ほんのひきだし(2017年5月23日)
アニメ化で売上が伸びているコミックの事例。1位『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』、2位『王室教師ハイネ』、3位『武装少女マキャヴェリズム』までは、鷹野は観ていません(汗)。4位『エロマンガ先生』はアニメを観てコミックも買いました。第5位の『BORUTO-NARUTO NEXT GENERATION-』が1.7倍なので、ここに挙がっていない作品は、アニメ化効果が出ていない……?
著作権者捜し代行、文化庁などが実証実験 埋没させず活用へ 日本経済新聞(2017年5月24日)
著作権者が見つからない「オーファンワークス(孤児著作物)」は、二次利用できないままでは人々の記憶から消えていってしまいます(作品の死)。それを防ぐため、文化庁に「著作権者不明等の場合の裁定制度」があります。ところが権利者を探す「相当な努力」がとても手間だったり、費用が多くかかる(裁定申請手数料と広告費が申請1回ごとに必要)など、使い勝手が悪い制度でした。これをもっと利用しやすい仕組みにするための実証事業に、9つの権利者団体が「オーファンワークス実証事業実行委員会」を結成し、協力していたのです(昨年11月開始時に書いた記事)。今年3月にはシンポジウムが行われ、報告書が公開されています。なお、当初は4月から本格運用の予定でしたが、今年度も実証事業を継続する方針とのことです。
部数が非公開になった雑誌、順位の入れ替わりが確定した分野…時代の流れを覚えさせる新たな動き…諸種雑誌部数動向(2017年1-3月) ガベージニュース(2017年5月24日)
印刷証明付き発行部数の話。ウェブサイトや読み放題なども含めた「電子版」の数字がどうなっているかが気になります。「SPA!」や「ウォーカー」シリーズなんかは、結構電子で読まれているはず。
〈ネオ・マンガ産業論〉第2回 電子コミックとスマートフォンの蜜月はいつまで? マガジン航(2017年5月24日)
電子コミックの歴史について。「読書端末として現在は何が使われているのか? 電子書籍業界としての正式な統計資料が見つからない」とありますが、手元にあるインプレス総合研究所『電子書籍ビジネス調査報告書2015』(のコピー)によると、利用機器はPC調査でスマートフォン49.5%、パソコンが41.0%、タブレットが38.5%。スマホ調査でAndroidが60.5%、iPhone18.9%などです。2016年版が国立国会図書館に入っているので、アップデートしなければ……。
あと、「スマートフォンで読む人が多いのは、日本国内での普及率が50%を超えて、電子コミックを読む年代に限れば、ほぼ1人に1台が行き渡った、最も身近な携帯端末だからだ」という論旨には概ね同意ですが、ここでもちゃんとデータ出典を明示して欲しいところ。「情報通信白書」平成28年版によると、スマホの利用率は日本人全体で60%超えています。ただし、20代87%というのは、90%を超えてるアメリカ、イギリス、ドイツ、中国より低いです。
また、「アマゾンのKindleですら苦戦している」というのは恐らく専用端末のことだと思いますが、「苦戦している」というソースってどこかにあるのでしょうか? 各種調査によると確かに専用端末の利用率は低いのですが、専用端末を使う人の「利用頻度」や「利用点数」はスマートフォンユーザーより高いと思われるため、一概に「苦戦」と言うのは早計かなという気がします。
「縦スクロール」マンガのユーザー受けは、どうなんでしょうね? 「comico」がライフ制導入でMAUを減らしていますが、それはビジネスモデルの転換を余儀なくされたということであり、縦スクロールマンガがユーザーに否定されたわけではないとは思っています。ただ、収益化の手段が紙本販売しかなかったため、縦スクロールに最適化されたコンテンツを紙本用に再構成する手間がかかっちゃうところがコスト要因として大きいのではと推測。
JASRAC会見「京大HP歌詞は引用。請求しない」…16年度徴収額1118億円 弁護士ドットコム(2017年5月24日)
JASRAC理事長も定例記者会見で「JASRACは引用として判断している。(著作権使用料を)請求はしない」と明言しています。となると、最初の京都新聞の記事はなんだったのでしょうか? また、どう見ても引用なのになぜJASRACが問い合わせをする必要があったのか? という疑問も残ります。
なお、マンガで歌詞の一部が載っているケースがありますが、演出の一環として歌詞を利用すると必然性の引用要件を満たしません。そのため、ちゃんとJASRACに許諾を得て、欄外に許諾番号を明記している場合がほとんどだと思われます。
WELQの方がマシだった? ネットの医療情報は今、どうなっているのか BuzzFeed News(2017年5月24日)
悩ましい。「藁をも掴む思い」で検索した結果辿り着いたクソみたいなページと、「藁をも掴む思い」で読んだクソみたいな本では、後者のほうが罪深いのでは。出版社から出ているから半端に信頼性が高いと思われてしまい、より多くの時間を無駄にしてしまうわけです。でも「表現の自由」があるから、クソみたいな本も書店には並んでいます。ガンを治す漢方薬とか薬膳料理などの怪しげな「書籍」が、バンバン書店で売られているのが現実です。
ハースト婦人画報社の全雑誌電子版をストリーミング配信、新サービス「マガジンクラウド」をローンチ PR TIMES(2017年5月24日)
紙の雑誌を購入すると、電子版が無料で閲覧できるサービス(出版社公式)。横断検索にも対応しています。素晴らしい。単冊販売の場合どうやって「紙の雑誌購入者」であることを判定しているんだろう? 定期購読はわかるんだけど。
カドカワ・角川歴彦氏、相談役から取締役会長に ゲーム情報ポータル事業の分社化も アニメーションビジネス・ジャーナル(2017年5月26日)
ちょっと「おや?」と思った体制変更。代表権がない取締役会長ではあるものの、相談役よりは責任が重いポジションに返り咲くわけで。ただ、代表権があるのが川上氏だけになったと考えると、うーん。
立命館大学の研究者による「pixiv論文」の論点とは──“晒し上げ”批判はどれほど妥当なのか(松谷創一郎) Yahoo!ニュース個人(2017年5月27日)
「pixiv」に投稿されていたR18作品を題材に研究論文を発表、炎上したという事件。この記事では、法的な問題はないとしても、「研究倫理」と「配慮」が足らなかったという結論です。問題の論文を読んでみたのですが、法的なところではシンプルに「引用」かどうかの問題だと思いました。少なくとも、電子計算機による情報解析はやっていない(手作業)なので、47条の7は関係ありません(参考:文化庁「著作物が自由に使える場合」)。AI研究目的だというところで混乱しますが、この論文は「評論」や「感想」となんら変わりないものだと考えられます。
つまり論点は、具体的な表現が複製されている、2ページ目の3.3.1~4の4カ所(鉤括弧付きで載っている)に絞られるでしょう。「明瞭区別」「必然性」「主従関係」まではクリア。「出典明示」が、URLと作者名が一覧表になっているだけなので、どの表現がどのURLなのかが即座にはわからない辺りが不親切。ただしフレーズが短いため、表現上の本質的な特徴が認識可能かどうかは微妙。
なお、ログインが必要な場に公開された作品が「公表作品」かどうかについてですが、一般的に50人を超えていれば「多数」とみなされるのが文化庁の見解です。会員登録が必要な「pixiv」上での公開とはいえ、MAU500万人超の場を「私的領域」と言うのは無理があるでしょう。ましてや、「pixiv」は 「申込みがあれば『誰にでも』送信する」サービスです。「公衆向けに送信した」ことになるかどうかついて、議論の余地はないと思います。これが私的領域(=公表ではない)とみなされるなら、同じく会員制である「ニコニコ動画(※未ログインでも外部サイトへの埋め込みなら閲覧可能という指摘あり・例としては不適切でした)mixi」や「Facebook」に友だち限定で作品をアップすれば、対象が500万人だろうと合法になってしまう……というのが私の見解。
あとは専門家による解説に委ねます。きっと誰かが書いてくれる。
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