先週は「WantedlyのDMCA侵害申告制度悪用」「書店ゼロの自治体2割強に」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2017年8月21日~27日分です。
少年ジャンプ編集部、騒然 「スマホと指で描いた漫画」がルーキー賞 新人漫画家あつもりそうさんの素顔 ITmedia NEWS(2017年8月22日)
セルフパブリッシング版『Gene Mapper』を通勤電車の中、iPhoneで執筆した藤井太洋氏のエピソードを思い出しました。デジタル出版の授業で表紙画像を作成するのに「iPhoneアプリを使っちゃダメですか?」っていう学生もいるので、まあ、わりといまの若い世代には普通なのかなという気も。なお、いまはもうPCとペンタブで描いているそうです。
“世界初”の「シェア書店」も登場 リアル書店の復興に見る「文化の時代」の始まり wisdom(2017年8月22日)
書店でありながら、10日間は無料貸し出しも可能という新たな試み。いわゆる「シェアリング・エコノミー」型サービス。中国での話です。店頭で立ち読みや座り読みしてOKなら、家に持ち帰ったっていいじゃんという発想。これ、日本だと委託販売制だから難しいかも。
「雑誌界の奇跡」広告なしテスト雑誌で13万部増??徹底した商品テストをエンタメ化した出版社 BUSINESS INSIDER JAPAN(2017年8月23日)
晋遊舎「LDK」などについて、社長兼編集長の西尾崇彦氏へのインタビュー。先駆者「暮しの手帖」などにも触れられています。以前は商品を貸し出してくれなかったシャープが、破綻後は積極的に貸し出してくれるようになったというエピソードが面白い。
Medium、ライターにコンテンツ料を支払う「Partner Program」スタート ITmedia NEWS(2017年8月23日)
月額5ドルの会員制プランの収益から、一部のライターにコンテンツ料を支払う形に。かなり「cakes」に近いモデルに転換した、と言えるでしょう。要米国の銀行口座。
書店ゼロの自治体、2割強に 人口減・ネット書店成長… 朝日新聞デジタル(2017年8月24日)
要因として挙げられている「人口減」は、むしろ都市部への人口集中(および不便な地域の過疎化)でしょう。自治体数は平成の大合併で減ってますから、「書店ゼロの自治体」というカウントにどれほど意味があるのか疑問です。書店は小売店ですから、商圏で考える必要があります。書店ゼロでも狭い自治体なら、隣の自治体にある書店へ不便なく行けるなら問題ないわけです。また、例えば東京都千代田区は人口5万6000人ほどの小さな自治体ですが、昼間人口(通勤・通学)がべらぼうに多いため、書店数は100店舗近くあります。反響として、空犬太郎さんが「でも、大事なのは、じゃあ、どうするのか、なのではないかなあ、などと思う」というブログ記事を書かれていたのが印象的でした。
メディア接触の主導権争い、「フェイスブック」の独走に「グーグル検索」が奪回迫る メディア・パブ(2017年8月25日)
興味深い傾向。米メディアへの全流入トラフィックは、2年ほど前からFacebookがGoogle検索を逆転していたのに、直近1カ月では再逆転しているとのこと。ニュースフィードや検索結果一覧へ表示するアルゴリズムがちょっと変わるだけで露出がぜんぜん違ってきますから、巨大プラットフォームの手のひらで転がされている感が。
WantedlyのIPO批判記事、Google検索から消える 「写真を無断利用された」とWantedlyが削除申し立て ITmedia NEWS(2017年8月25日)
DMCA(デジタルミレニアム著作権法)侵害申告制度の悪用。DMCAでISPは、著作権侵害の申し立てを受けたらとにかく一旦削除して投稿主へ通告を行えば免責されます(Notice and take down)。通告を受けた投稿主は異議申し立てをし、反論がなければ復活できます。問題は、反論するには自分の身元情報が必要なこと。そして、著作権侵害の申し立てをしてきた人に、その身元情報が送られてしまうこと。弁護士に代理人を頼めば身元情報に関してはクリアできますが、費用がかかってしまうところが難点。「そこまでする必要があるか?」という問題に。投稿1つ程度の話なら、諦めちゃう人が多いかも。ドメイン丸ごとGoogle八分みたいな状況なら、さすがに黙っちゃいられないでしょうけど。
“冬コミ”参加表明の真木よう子に厳しい声「コミケという場を選ぶ必要ない」 ORICON NEWS(2017年8月26日)
女優・真木よう子氏がクラウドファンディング「CAMPFIRE」を利用して目標金額800万円を集め、フォトマガジン(ZINE)を「出版社を挟まず」コミケで手売りします、というプロジェクトを開始。わざわざコミケでやる必要は? などと批判を集めています。現時点で530万円以上の支援が集まっており、残り1カ月ということを考えると、まず間違いなく達成することでしょう。ちなみにAll-In方式なので、達成しなくてもファンディングされます。クラウドファンディングは著名な人ほどお金を集めやすく、目標金額も出版物としては結構高額。批判というより、拒絶反応や妬みが大きいのかも。個人的にこういう挑戦は嫌いではないのですが、プロジェクトの協力者に「編集=北尾修一」と記されているのが気になります。北尾氏は太田出版「Quick Japan」の発行人ですが、太田出版とは関係なく個人的な立場でプロジェクトに参加しているのかな?
[さらに追記:北尾氏から下記のようなツイートが。]
いろいろお騒がしていますが、誤解なきようご報告です。既に発表されている「真木よう子、フォトマガジン出版プロジェクト」は、私が個人で依頼され、今後請ける予定のお仕事です(私は8月末日で太田出版を退社予定です)。誤解を与えたことを太田出版にお詫びします。取り急ぎ。
— 北尾修一 (@kitaoshu1) 2017年8月29日
電子書籍、はびこる海賊版 不正コピー対策難しく 日本経済新聞(2017年8月27日)
「電子書籍の普及で不正コピーが容易になった」という冒頭文は、間違いではないけど若干疑問符。電子出版市場が拡大するよりもっと前から、紙の本をスキャンしたデータが海賊版として流通している実態があります。いまでも、ヤフオク!などで「裁断済」と検索すれば数千件出品されており、連続スキャン可能な機械ならそれほど手間はかからないでしょう。その手間の多少よりもっと大きな問題は、「どのサイトが正規でどのサイトが海賊か、ユーザーには判別困難」な点にあるのではないでしょうか。出版学会でも提案したんですが、音楽の「エルマーク」のような、正規版サイトであることが一目で判別可能なマークを、早急に業界団体で用意し周知に努める必要があると思います。
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