4月3日にJEPA主催で行われた「楽天KoboとAquafadasのマーケティング戦略」セミナー後半は、フランスのデジタル出版ソフトウェア企業で、Koboの子会社である Aquafadas をレポートさせていただきます。講師は Aquafadas CEO Claudia Zimmer 氏(上の写真右)と、CTO Matthieu Kopp 氏(左)です。
前半パート「楽天Koboのマーケティング戦略 ── JEPAセミナーレポート」も合わせてご覧下さい。なお、JEPAのサイトで資料(PDF)と動画が公開されているので、詳細を確認したい方はそちらをご覧下さい。前半、後半、それぞれ1時間くらいです。
Aquafadasのパートは「マーケティング戦略」ではなく、会社そのものと商品紹介が中心でした。
- Aquafadas Degital publishing systemの紹介
- Aquafadas活用事例(デモ)
- Aquafadasについて
インタラクティブなコンテンツの制作は難しい
スライド初っ端にいきなり映画「マイノリティ・レポート」のワンシーンで、つかみはOKです。思わず笑っちゃいました。
要するに、インタラクティブなコンテンツの制作は、難しいしコストもかかるという話です。できれば簡単であって欲しいけど、格好いいとは言い辛いものとか、単なるPDFのレプリカができてしまったり。
そこで Aquafadas は、タブレット向けアプリやゲームと同じくらい、美しくて魅力的な電子書籍や電子雑誌を作ることができる環境を提供します、とのことでした。ヨーロッパやアメリカで、成功を収めているそうです。
電子コンテンツ制作に必要なこと
電子コンテンツ制作に必要なこととして、
- 簡単で
- クリエイティブの制約がなく
- どの出版社・制作者のワークフローにも適応しやすい
という点を挙げていました。個人的には特に2番めの「クリエイティブの制約がないこと」は、非常に重要だと思っています。Appleの「iBooks Author」やAmazonの「Kindle Comic Creator」は、それぞれのストア専用ファイルが生成されてしまうので、別のプラットフォームに転用できないんですよね。標準方式ではなく特定企業の独自形式だと、突然サポートを切られる可能性だってあるわけで。
その点、Aquafadas はIDPF(International Digital Publishing Forum:EPUB規格を策定した団体) のメンバーなので、提供しているツールはちゃんとEPUB書き出しに対応(もちろん日本語縦書きにも)しているとのこと。また、AHL(Advanced-Hybrid Layout)ワーキング・グループのメンバーでもあるそうです。
デモ
では、実際どういうコンテンツが制作できるのか、デモが行われました。動画を撮ってあります。カメラを手で持っているので、多少揺れるのは勘弁して下さい。
- Rich Magazine ……デザイナーが作る雑誌。アニメーション、トランジション、マルチメディアなコンテンツ
- Newspaper …… 新聞。すべてをいかに自動化するか、という話。55の地域版を自動制作、記事検索、リフロー対応など
- BookStore …… 個別マーケティングやプッシュメッセージ。学研の子供向け電子書店「がっけんのえほんやさん」や、本国フランスで運営している「Beyard」について
なお、本国フランスで運営している子供向け「Beyard」の売上は、iBooks と Kindle と Google の合計売上の10倍になっているそうです。
参考:「DPS戦線異常あり:学研、Frankfurt Book Fair 2013でAquafadasのDPSを使ったデモを予定 – ITmedia eBook USER」 ※2013年10月4日の記事
利用可能なツール
4つのツールが紹介されました。
- InDesign Plugin …… InDesignのプラグイン
- Cloud Authoring …… クラウド型のツール。PDFベースのコンテンツを受け取って、リッチコンテンツにできる
- Comic Composer …… コミック制作ツール
- Motion Composer …… HTML5アニメーションツール
いずれのツールも、EPUB書き出しに対応しています。さすがIDPFのメンバー。そして、後ほど質疑応答で明かされますが、これらのツールは基本的に無料で提供されるそうです(※ただし、InDesign Pluginには一部有料のものもあるとのこと)。
対応フォーマット
EPUB、HTML5といった標準形式と、 Aquafadas 独自形式のAVE(AndroidやiOS Appへの配信のためのフォーマット)があります。
新規でコンテンツを作成するのはもちろんのこと、PDFをインポートしたり、データベースからあまり手間をかけずにリッチなコンテンツへ吐き出すことも可能になっているそうです。
今後の電子出版
下図は、横軸が左ほど自動・右ほどマニュアル、縦軸は下ほどPDFレプリカ・上ほどタブレットに最適化したデザイン(インテラクティブ)です。
従来は、コンテンツへのアプローチの仕方が大きく2つ、左下の「一般的なPDFレプリカ」と、右上の「デザーナーによるリッチレイアウト」に分けられてきました。
出版社によっては、なるべくコストや時間をかけずにコンテンツを作りたいということで、単なるPDFのレプリカを作ってしまうのですが、ユーザー体験としてはあまりよくないものになってしまうと。逆に右上は、お金も時間もかかってしまいます。
そこで現在、完全に自動でリッチなコンテンツを作る「自動リッチレイアウト」と、基本はPDFレプリカにいくつかインタラクティブなものを追加する「ポストプロダクション」というところがトレンドになっているそうです。
デモ
ここで再度、実際どういうコンテンツがあるのか、デモが行われました。動画を撮ってあります。カメラを手で持っているので、多少揺れるのは勘弁して下さい(次から三脚持っていこう……)。
- Rich Magazine …… 4秒で自動制作されたリッチマガジン。CMSやデータベースのコンテンツ、InDesignテンプレート(デザイナーが最初の1回だけ作る)、アニメーション、トランジション、マルチメディアコンテンツなどを利用
- Education …… 教育向けコンテンツ。テスト、課題、学習管理システム(LMS)
- Electronic commerce …… 楽天グループなので、どこかにeコマースを入れなきゃいけない(笑)
Aquafadas について
プレゼンの最後は Aquafadas 自身について。
ソフトウェア開発会社として2006年に設立。
2012年10月、Kobo Inc.に買収され楽天グループ入り。本社はフランス南部のモンペリエ。パリ、ニューヨークにも支社があるそうです。
クラウド上に800万のユーザーライブラリを保有しているそうです。
質疑応答
Q. EPUB書き出しはリフローも固定も? リッチコンテンツはどの程度のもの?
A. 両方できます。固定の場合、レイアウトを再現するのが難しい場合は画像になります。日本語にも対応、縦書きにも対応。リフローはちょっと難しい(1ページ内にボックスがいくつもあると、流れを指定する必要)けど、それを可能にするツールがあります。
Q. 4秒でリッチコンテンツの制作過程を見せて欲しい
A. サーバーへのアクセスが必要なので、ここでデモするのはムリです。仕組みを言葉で説明すると、まず出版社がコンテンツをどのように格納しているかに依存します。コンテンツを貰う時に、どういうカテゴリなのかを確認します。カテゴリが分かれば、InDesignで作られたテンプレートにボタン1つで流し込むだけです。テンプレートやルールは、もちろん出版社側が決められます。今年の後半に、自動出力したリッチコンテンツを、さらに編集できるビジュアルツールを公表する予定です。
Q. Aquafadasのセールスモデルは?
A. ツールは基本的に無料です(InDesignプラグインの中には一部有料のものも)。コンテンツのエキスポート時に、エキスポート料を払う形になっています。また、コンテンツを公開する時に、アップロード費用がかかります。損益が計算しやすいようにしています。
出版社がコンテンツの販売で得た利益に応じてレベニューシェア、ということは考えてません。あくまでクリエイティブ、出版時のみ費用をいただきます。日本の提供価格は、楽天戦略事業室の片山から価格表を贈ります。
Q. JEPAで公開されてる資料が英語版なんですが、実際プレゼンで使われた日本語版も欲しいです。
A. 後日アップします。
Q. Aquafadasの仕組みを使ってEPUBで出力したものは、Kindleで販売できる?(ワンソース・マルチユースできる?)
A. もちろん可能です。どうぞKindleストアでも売って下さい。私どもの考えは、あくまでオープンです。出版社は、いいコンテンツができたら、いろんなプラットフォームで売りたいものです。もちろんKoboは素晴らしいプラットフォームだと思ってますが、他で売るのも自由です。ただ、コンテンツがインタラクティブ過ぎるとEPUB化できないものもあるので、そこは我々のAVEで橋渡しができればいいと思ってます。
Q. 固定レイアウトとAHL、Kindleにも独自方式(バーチャルパネルビュー)があるけど?
A. それぞれのプラットフォーム独自の形式にも出力できます。Kindleのバーチャルパネルビューにも対応できます。iBooksもJavascriptがAHL対応すれば可能です。AHLについては、EPUBの固定レイアウトに対する拡張機能なので、標準としては優れています。我々のツールはAHLにほぼ対応しているが、ベンダー側の対応も必要です。AHLを標準としてベンダーに採用するよう働きかけるには、出版社の力添えも必要です。
「電子書籍」の方向性として「リッチコンテンツ」というのはよく語られてきた未来ですが、それを可能な限り自動で行うというのは理に適っているように思います。とくに、「雑誌」とか「絵本」といったビジュアルが重視される領域では、重宝されるのではないかと。