「一部の口うるさいクリエイター」が全体を代表している? インターネットと著作権 ── MIAU設立6周年記念イベント「MIAU祭2014」レポート #miaujp

左から、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事 久保田裕氏、北海道大学大学院法学研究科教授 田村善之氏、慶應義塾大学経済学部准教授 田中辰雄氏、ブロガー heatwave_p2p氏

2014年3月15日に国際大学GLOCOM ホール(東京・六本木)で行われた、MIAU設立6周年記念イベント「MIAU祭2014」のレポートをパート別にお届けします。今回のセッションのテーマは「インターネットと著作権」です。

登壇者は写真左から、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事 久保田裕氏、北海道大学大学院法学研究科教授 田村善之氏、慶應義塾大学経済学部准教授 田中辰雄氏、ブロガー heatwave_p2p氏、モデレーターはMIAU代表理事の 津田大介氏です。

動画はニコニコ「MIAUチャンネル」に載っていますので、詳細を確認したい方はそちらをご覧下さい。トータルで5時間半のイベントです。

冒頭、MIAU設立(2007年)のきっかけは「海賊版ダウンロード違法化」だったと津田氏は振り返ります。2007年は、1月に初代iPhoneが発売された年で、「モバイル」「クラウド」「ソーシャルメディア」がまだ黎明期だったころです。

MIAU代表理事 津田大介氏

日本の著作権をめぐる議論が、こういった時代の変化やユーザーの実態とそぐわなくなっている、と津田氏はいいます。では、日本の著作権はどういう方向を目指すべきか? MIAUは今後どういう役割を果たしていけばいいのか? というのがこのセッションのテーマです。動画はこちら。

「法」と「技術」と「教育」

まず、社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事 久保田裕氏から。津田氏から「敵、みたいに思っている人も多いかもしれませんが、腹を割って話をできる方です」と紹介されました。標的になってるときは、結構気持ちいいそうです。

社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事 久保田裕氏

久保田氏は、どの辺りでバランスを取ったらいいのか? というのを考えてきたそうです。個人情報や著作権など、情報を「守る」という立ち位置から考えると、「法」「技術」「教育」に集約するのではないかと久保田氏はいいます。

「法」に関しては、日本は民主主義の国だから「法はこうあるべきだ」という議論はどんどんやるべきだと考えているそうです。その上で、「次の世代が幸せになってもらわないと困る」と。だから、MIAUのような組織が積極的に情報発信していくことは応援したいし、議論には是非呼んで欲しいと語ります。

「技術」に関しては、是非ではなく「どう使うか」に知恵が問われる、と。例えばP2P(Winny)の訴訟でも、技術の是非は争っていないし、技術の進歩に足かせを付けようという気もまったくないそうです。

久保田氏が一番大切だと考えているのは、「教育」だといいます。「モラル」というのはボトムアップだから、上から押し付けるのはおかしい、と。できるだけ「法規制」で押さえつけるのではなく、「モラル」のレベルで「情報」を見ていきたい、と考えているそうです。

「One Size Fits All」の著作権法はそろそろ限界

次に、北海道大学大学院法学研究科教授 田村善之氏から。悪い癖で、スライドを20枚くらい用意してきてしまったそうです。持ち時間は1人5分です。

北海道大学大学院法学研究科教授 田村善之氏

まず田村氏は、著作権法の歴史から説明します。

著作権法が初めて成立したのは、18世紀のイギリスです。16世紀に発明された印刷技術の普及(第一の波)によって、出版に対する「コピーライト(複製する権利)」が必要とされたのです。この時代の複製には相当な投資が必要だったので、複製者は少数でした。コピーライトは事実上、競業者を規制する権利にとどまります。

それが技術の進歩と複製技術の普及(第二の波)によって、コピーライトが私人の活動を規制する権利に変容していきます。私人の活動を監視するのは困難なので、権利の実効性を欠くようになっていきます。そこで、貸与権や私的録音録画補償金請求権など、「行為者」が少ない行為に権利の対象を移していきます。

零細的使用を取り締まる規定はない

しかし、企業内でのファックスやメールのコピペ(零細的利用)など、著作権侵害は日常的に行われています(私的利用ではないので、法的には許諾されていない)。著作権法の条文と、法に対する一般の意識が乖離しているのが実態です。

そして、インターネットの普及(第三の波)です。「公衆送信」までもが私人に普及します。ネット時代は、アマチュアでも発信できるのです。デジタル技術によって、以前に比べれば制作も容易になっています。

個人の私的な著作物が公衆に提供されていくことで、著作権処理コストに見合うベネフィットを得ている著作物の割合が低下していきます。権利者の意向も、あくまで権利を行使する側(その意向は政策決定過程に反映されやすい)と、権利行使に無関心(その意向は政策決定過程に反映されづらい)に分化していきます。誰が権利者か分からない「孤児著作物」も増加しています。

では、どのように解決していくべきか。「One Size Fits All」の著作権法はそろそろ限界なのではないかと、田村氏はいいます。つまり、全てを一律に守るのではなく、守るべきものを守り、守らなくていいものは守らない方式(オプトアウトからオプトインに)変えていくべきなのではないか、と。例えば、昔のアメリカのように著作権登録制度にし、一定年月で更新登録しなければパブリック・ドメインになる、という形です。

現在の日本の著作権制度は、条文どおりに守ると「零細的使用」が全部ダメになり、経済活動が一気に停滞してしまうそうです。しかし、権利者の多くは権利行使をしないため、「寛容的利用(Tolerated Use)」によって事実上のオプトイン方式になっていると。しかし、寛容的利用による均衡は、脆弱です。

最後に、もう1つ伝えておきたいこととして、「少数派バイアス」を挙げました。政策形成過程には、少数の「組織化されやすい利益」は反映されやすいけど、多数に拡散された「組織化されにくい利益」は反映されづらい傾向があります。MIAUの活動は、「組織化されにくい利益」を守っているのだ、と。

規制強化に対する経済学者からの意見

続いて、慶應義塾大学経済学部准教授 田中辰雄氏から、経済学者の立場からの「最右翼な意見(本人談)」が述べられました。

慶應義塾大学経済学部准教授 田中辰雄氏

海賊版ダウンロード違法化

違法コピーに対する経済学者の意見は、真っ二つに分かれているそうです。田中氏は、オリジナルは影響を受けない(むしろ好影響)派だとか。このように意見がわかれている場合は、増えてる場合もあれば減ってる場合もあるので、個々の権利者の選択に任せるのがいいと。自然に、落ち着くところへ落ち着いてきているそうです。例えばYouTubeのように、訴えがあれば取り下げる、なければそのままにする、という形になってきています。

著作権保護期間延長問題

ほぼ全員の経済学者が「延長すべきでない」という意見だそうです。延長したい権利者と、延長すべきでない経済学者との激しい論争が繰り広げられています。アメリカは権利者が勝ち、保護期間が延長され死後70年になりました。日本は議論の末に、いまのところまだ死後50年に留まっています。

非親告罪化

「非親告罪化」の狙いは、海外の違法業者を訴えなくても捕まえられるようにしたい、ということだろうと言われています。では、海外の被害実態というのはどうなんだろう? という議論があります。「無料で宣伝しているようなものだ」というのです。

例えば、違法コピーがタイで急激に減少し、ライセンス版に切り替わった実例があるそうです。違法業者にライセンスを与えることで敵が味方になり、他の違法業者を叩くようになったと。利用の裾野を増やすことは、結果的に権利者をハッピーにするのではないかと田中氏はいいます。

儲かる/儲からないに関わらないことまで「ダメ」なのか

次に、ブロガー heatwave_p2p氏から、ユーザーの立場としての意見が述べられました。ユーザーだから「楽しいこと」が重要だと。

ブロガー heatwave_p2p氏

そのせいで結果的に著作権者が食えなくなってしまうとしても、それは時代の変化なので、また新しいやり方を模索し確立していくべきものだろうと考えているそうです。

インターネットはテレビのように一方的に情報を浴びるわけではなく、自分が観たい情報だけ観る形になります。また、自分で発信することもできます。インターネットの発展と普及によって、情報の受け手としてだけではなく、送り手にもなれると。

インターネットの初期は、デッドコピーが問題になりました。それが「けしからん」というのは十分理解できるけど、儲かる/儲からないに関わらないところまで「ダメ」というのは違和感があるそうです。

ユーザーが、「二次創作」や「パロディ」で儲けることを目的とするのではなく、面白がって発表する場としてインターネットが使われているのに、それが「ダメ」と言われてしまう。

著作権法は「文化の発展」を目的としているのに。それって「文化の発展」じゃないの? クリエイティブじゃないの? と、heatwave_p2p氏は問いかけます。

アイデアを借りて表現したならそれは合法

津田氏は久保田氏に、非親告罪化についてどう思うかを尋ねました。

久保田氏は、現状、ほとんどの権利者は権利行使しないのが実態だといいます。昔は、アメリカの「BSA(Business Software Alliance)」という団体から「日本の違法コピー稼働率は世界でワースト3だ」と言われてたそうです。その頃に比べたら、この20年間で日本人の著作権遵法意識は大きく変わった、と。

「作ってみても、文句を言われない」というところは、大きいのではないかといいます。「表現しちゃったのなら、自信持って公表しろよ」と。著作権法を勉強して「アイデア」と「表現」の違いを理解しよう、アイデアを借りて表現したならそれは合法なのだから、と久保田氏はいいます。

現状でバランスは取れているので、著作権法があるから「萎縮する」というのはどうなんだろ? とは思うそうです。しかし、もし刑事罰を被るとなると確実に萎縮するので、非親告罪化はACCSとしても反対だと明言しました。

ただ、海外の権利者からすると、非親告罪化によって日本の警察が税金で取り締まりしてくれるようになれば、コスト削減になるから嬉しいのではないか、と。だから、TPPで非親告罪化を言ってきている彼らは、賢いと。

二次創作の同人誌は著作権法上、本来はセーフ?

次に津田氏は田村氏に、オプトアウトからオプトインにというのは、権利者からするとどうしても権利の切り下げという意識になりがちだけど、そこをどう説得すべきか? と問いかけます。

田村氏は、実際のところは権利の切り下げというより、振り分けだといいます。「守らなくていい」と思っている人の権利は守る必要がない、「守りたい」と思っている人の権利だけを守ればいい、と。つまり、権利を守るための「手続き」があればいいのだと。

また、久保田氏の言っていた「アイデア」と「表現」の区別について。恐らく「(二次創作の)同人誌なんて本来はセーフだろう」と思われているのに、条文どおり解釈したり判例からすると「絵があるとアウト」みたいになっている。そういうところを直した上で、「手続き」型に変えていけばいいのではないか? という見解を述べました。

声の大きい人の意見が表面化しているだけ

津田氏は田中氏に、これまで権利者に対してはずっとお金の話をしてきた(制度設計した方が収入増えるよ!)のだけど、「金の話じゃない」みたいなところに戻っちゃうという悩みを打ち明けます。

田中氏は、「お金の話じゃない」のは当然のことだと返します。ただ実は、クリエイターがどう思っているかは、明瞭じゃないとも言います。保護期間延長問題では、権利者団体が「延長!」と言いだしたら、「反対!」という声がクリエイターから上がった、と。

実は先日、クリエイターの意識調査を行ったところ、クリエイターと消費者の意見はあまり変わらないことがわかったそうです。結局、実際のところは声の大きい人の意見が表面化しているだけで、利用を促進して自分もまた使いたいという人が相当程度いるのだと。

「儲けたお金を使って、今後どうする?」というビジョン

津田氏から「ここまでの議論を踏まえてどうですか?」と尋ねられたheatwave_p2p氏は、「延長問題なんて、自分の死んだ後の話ですもんね」「儲かるのは(権利を持ってる)会社だけなのかな」「天国までお金運んでもらえるわけじゃないですよね」と答えます。

企業がお金を儲けたいのは健全なことだけど、「儲けたお金を使って、今後どうするの?」というビジョンがあまりないのでは、とheatwave_p2p氏はいいます。これだけコンテンツが溢れている世の中で、クラウド課金とか、保護期間延長といったやり方は、根本的な解決になってないのではないかと疑問を投げかけます。

みんなが同じテレビを観てみんなが「いいな」と思うようなことはなくなってきているのだから、小さな「いいな」がたくさんある時代に合わせてどういうビジネスをしていけばいいか? というビジョンを持たねばならないのでは、と。

自炊代行サービスは今後どうなる?

津田氏は、自炊代行サービスのような、ユーザーがお金を払ってまでデジタル版を所有したいというニーズを満たす「デジタル化変換」が、ほとんどの著者は反対してないのにみんな違法になってしまっているけど、こういう代行サービスは今後どうなるだろう? どう解決しけばいいだろう? と田村氏に問いかけます。

田村氏は、「私は自炊代行業者側の立場で意見書を出したばかりなのでバイアスかかってます」と前置きした上で、守るべき著作権者はもちろんいる(特に、電子書籍市場で活躍しているような著作権者)けど、それはごく一部だといいます。

田村氏の所有している本は法学の先生の著書ばかりで、電子書籍市場に関心がある著者は1人だけだと。困っているのは、部屋いっぱいになってしまった本。合法化すれば、一気にデジタル化できるのに、このまま代行サービスがなくなってしまったら、自分で自炊する時間はないです、と嘆きます。

津田氏は、それは著作権法のどこを変えることで対処できるのでしょうか? と再度問いかけました。田村氏は、現状の著作権法では、まだあれはグレーだといいます。電子書籍市場とバッティングするようなやり方はもちろんダメだけど、スキャン後に破棄する形ならコストがかかるので、著作権者側も充分勝負できるのではないかといいます。

久保田氏は、どういう状況でビジネスが成り立っているかを考えなければならないといいます。手足理論でOKなのか? と。業者としてそれで成り立ち得ることが、どういう影響を与えるのかも考えないと結論は出ない、と。逆に、電子書籍市場が強くなれば、そもそも自炊代行業者は要らないかもしれないわけです。

「ライセンス」はビジネスマインドが重要なので、例えばパッケージと一緒にデータも提供とか、使用許諾契約という方向で考えていったほうが、立法による解決を図るより解決は早いかもしれない、と久保田氏はいいます。

津田氏は保護期間延長問題の議論の中で、「ディズニーだけ永遠にしてあげるから、他は放っといてよ!」みたいな話があったと述懐します。全部に適用しようとするから無理があるのであって、自炊代行も「ダメ」な著者だけ登録によって拒絶できるようにすればいいのではないかといいます(実際、そういう方向で日本蔵書電子化事業者協会Myブック変換協議会が協議してます)。

田中氏は、グレーにしておくのは「弱い」といいます。よくあるのが、「問い合わせてくるなよ! 問い合わせてこられたらダメって言わなきゃいけなくなるから!!」みたいな話だと。また、議論するたびにじわじわダメになってしまうので、こんな議論やらなきゃいいのになーと思うことも結構あるそうです。もし公にやるとしたら、申告した人だけリストアップとか、「いや」という人だけ除外といったやり方になるんだろうけど、これはこれで何か問題があるらしくてなかなかコレといった解決策はない、といいます。

田村氏は、津田氏の「情報の呼吸法」のクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのように、著者側から「自由に使っていいよ」と許諾することを推進しては? と提案します。しかし津田氏は、「自由に使っていいよ」はなかなか広がらないのが現状だといいます。

正しく議論をすると生産的な話になる

最後に一言づつ。

heatwave_p2p氏は、自分のお金で手に入れたものは、なるべく長くさまざまな環境で利用できるようにしたいから、ふたたびDVDのリッピングができるようにして欲しいという意見を述べました。MIAUみたいなところは他にないので、頑張って欲しい、と。

田中氏は、いまある著作権法の最大の問題は「非親告罪化」なので、TPPを阻止するのに全力を傾け、もしきてしまったとしてもなんとか換骨奪胎して無力化しようと提言します。

田村氏は、今後とも政策決定過程になんらかの形でコミットしていって下さい(私はなぜか外されちゃった)とエールを送りました。

久保田氏は、正しく著作権の議論をすると生産的な話になるので、しっかり著作権のことを勉強しましょうと提案し、みんなにとっていい制度をつくろうと呼びかけました。

「ネットの自由」VS.著作権~TPPは、終わりの始まりなのか~ (光文社新書)

「ネットの自由」VS.著作権~TPPは、終わりの始まりなのか~ (光文社新書)

posted with amazlet at 14.04.09

光文社 (2014-03-28)

売り上げランキング: 20,951


だいじなことなので何度でも。「MIAU祭2014」の会場では、こんな紙が配られていました。お試し版EPUBのURLは、「来場者限定」と書いてあるのでモザイクかけてあります。

MIAUメールマガジン「ネットの羅針盤」

セッションの途中で津田氏がポロッとおっしゃっていましたが、現在会員数は300人くらいだそうです。消費税率上がったので、いまは月額540円です。MIAUの活動資金としては、かなり心もとないものがありますね……お申し込みは「MIAUチャンネル」にて。

タイトルとURLをコピーしました