毎週月曜恒例。出版業界関連の先週のニュースで、ボクが気になったものにコメントをつけてまとめていきます。電子出版界隈が中心です。先週は「TSUTAYAの電子書店が終了、BookLiveへ引き継ぎ」「スキャン代行訴訟、知財高裁判決」などが話題になっていました。
ガベージニュースで出版関連の数字が「グラフ化」されているので、気になるところをいくつかピックアップ。
出版物の分類別売上推移をグラフ化してみる(2014年)(最新) – ガベージニュース ※2014年10月19日
分類別売上推移。「児童書」が大幅増、「コミック」「文庫」は横ばいか少し減、「雑誌」「文芸」「新書」は大幅減。ここ数年のトレンドは、大きく変わっていません。
書店数とその坪数推移をグラフ化してみる(2014年)(最新) – ガベージニュース ※2014年10月20日
日販調べでは、3年連続で総坪数も減少トレンド。ちなみにJPOの出している数字(PDF)だと、総坪数はまだ増え続けています。
出版物の売り場毎の販売額推移をグラフ化してみる(番外編:電子出版独自追加版)(2014年)(最新) – ガベージニュース ※2014年10月22日
売り場別推移。電子書籍追加版。書店が1兆2252億円に対し、インターネット通販は1607億円。本はまだ圧倒的に書店で売れているのです。
【新文化】 – 書協、出版契約書ヒナ型説明会開く ※2014年10月16日
先週のネタですが見落としていたのでピックアップ。
電子書籍や文庫化など出版計画はあるものの、期日が未定の場合、第25条「特約条項」へ「後日、協議して決定する」などと記述することを推奨。それにより一体型の出版契約を確保できると説明した。
電子版だけよそで出されるのが嫌だったら、最初から自分のところで出せばいいのに。なぜ権利だけ確保して、保留にするんでしょうね?(参考:【要注意】電子出版権創設前後に出版社が著者と結ぶ契約に盛り込もうとする「逆オプション契約」とは?――JEPAセミナーレポート)
noteのアプリが出ました。|加藤貞顕|note ※2014年10月21日
noteのネイティブアプリ、iPhone版とAndroid版が同時リリースです。待ってた方が多いんじゃないかな。
電書ラボ、配信前にEPUBの表示を確認できる「電書ラボEPUBチェッカー」を提供開始 – ITmedia eBook USER ※2014年10月22日
EPUBファイルを電子書店で配信する前に確認できるチェッカー。電書ラボ&大江さんグッジョブ。
(出版不況 大手トップに聞く:1)コンテンツ、多媒体で展開 講談社・野間省伸社長:朝日新聞デジタル ※2014年10月22日
「出版不況 大手トップに聞く」シリーズ4連発6名。興味深いところをそれぞれピックアップします。まず講談社・野間省伸社長。
電子書籍市場が伸びていないというのは、大いなる誤解だ。
再販制度が適用されない電子書籍を通じて、我々は初めて価格政策を覚えた。
紙の本の再販制は必要だが、(一定の時間が過ぎたら価格を縛らない)時限再販など柔軟な運用はあってもいいのではないか。
時限再販に言及してますね。4年前のインタビュー(東洋経済)とは少しスタンスが変わっています。
(出版不況 大手トップに聞く:2)電子書籍の存在感出す KADOKAWA・角川歴彦会長:朝日新聞デジタル ※2014年10月23日
電子書籍が伸びている実感はある。電子書籍端末が売れないのと電子書籍が売れないことは違う。僕は紙の本の市場の25%くらいまで電子が伸びると思う。でも今は1割未満。
出版界は再販制で守られていて、出版社が本の価格を決められるため、価格政策を考えずにやってこられた。当時もっと頭を悩ますべきだったのに、業界内の硬直的な発想に陥って、価格政策を放棄してしまった。いまの出版の状況は当然の帰結だ。
再販制は勝ち得たもので、絶対の制度ではない。だからこそ、再販制を柔軟に運用する必要がある。(中略)電子は自由価格にして、紙の再販制だけは絶対に守りたい。
KADOKAWA・角川歴彦会長は紙の再販制は堅持という意見。「電子にも再販制を!」という意見に対する牽制なのかな?
(出版不況 大手トップに聞く:3)新潮社・佐藤隆信社長/日経BP社・長田公平社長:朝日新聞デジタル ※2014年10月24日
新潮社・佐藤隆信社長。
本が売れない要因は、特に文庫への新古書店の影響が大きい。
ええっと、ガベージニュースのグラフにもあるように、文庫はここ十数年ほぼ横ばいなのですが。「新潮文庫が」新古書店に食われているということかな?
公共図書館の仕入れに新刊や同じ本(複本)が多いことも問題だ。
ええっと、公共図書館の複本問題って、日本図書館協会と日本書籍出版協会の連名で「公立図書館貸出実態調査2003報告書」(PDF)というレポートが出ていて、市場に影響を与えるほどではないという結論が出ているのですけど。
例えばフランスのように、電子も定価販売を可能にすべきだ。
新潮社は「電子にも再販制を!」派なのですねぇ……。
日経BP・長田公平社長。
雑誌の収益悪化の最大の原因は、広告収入が減ったこと。ピーク時には販売収入の1・5倍あったが今はその3分の2くらいだ。
ええっと、これは「日経BPにおいて」という話かな。全体の数字では、雑誌販売の売上ピークは1995年で1兆5980億円、雑誌広告の売上ピークは2000年で2683億円です。つまり、一般的な雑誌は、広告売上よりも販売売上の方が圧倒的にでかい。
売れない本は作らない。必要以上に増刷もしない。9割以上売れても、増刷しなかったケースもあるほどだ。
それは凄い。
(出版不況 大手トップに聞く:4)岩波書店・岡本厚社長/光文社・丹下伸彦社長:朝日新聞デジタル ※2014年10月25日
岩波書店・岡本厚社長。
アメリカではどんなに売れる本でも6週間で売れ行きが落ちるという。
アメリカ在住の出版エージェント・大原ケイさんから「違います」とのコメント。「売れない新刊本が返本になるいちばん早いサイクルが6週間、売れるものは何年にも渡るベストセラーになります。」とのことです。
光文社・丹下伸彦社長。
大手チェーンの増床は続いているが、町の本屋さんがなくなってしまった。町の書店さん、小さい書店さんの基本の数字を作り出すのは雑誌。こうした書店が無くなれば、当然雑誌は売れなくなる。
これが「書店数減・総坪数増」の影響ということかな。町の本屋に打撃を与えた主要因はコンビニだと思うのですが、ここ最近はコンビニでも出版物売れてないですもんねぇ……。
スキャン代行訴訟、地裁判決に続き知財高裁も作家支持で控訴棄却の判決 – ITmedia eBook USER ※2014年10月23日
代行業者の敗訴は予想通り。ただ、蔵書電子化事業連絡協議会(Myブック変換協議会)と一般社団法人日本蔵書電子化 事業者協会(JABDA)が基本合意してから、一切動きを見せなくなったのは想定外だった……。
まあ冷静に考えれば、著作権者が許諾していない作品はスキャンしないと回答したスキャン代行業者は訴えられずに済んでいるわけですから、今回の判決で白黒はっきりしたという意味では良かったのかな、と思います。
TSUTAYA.com eBOOKsがサービス終了へ BookLive!への移行措置/Tポイント返還を予定 – ITmedia eBook USER ※2014年10月23日
日本における電子書店のサービス終了で、ここまで綺麗に他社へ移行するのは初めてではないでしょうか。BookLiveの株主には日本政策投資銀行(政府による100%出資の株式会社)が入っているので、今後も他でサービス終了する電子書店があれば、受け皿になる可能性が高いように思います。
ちなみに、「今回の移行はこのパートナーシップの中であらかじめ予定されていたものではなさそうだ」とありますが、BookLive広報の方から直接「6月の時点では、ほんとに予定してなかったんです」という説明を受けました。
カーリルが図書館・電子書籍サービスとの連携を開始しました | カーリルのブログ ※2014年10月26日
図書館蔵書検索サイト「カーリル」が、電子図書館にも対応。出版社別の比率(のべ書誌数)グラフがなかなか凄まじい。というか、楽天Koboが10万点を超えた時のグラフとよく似た状況になっているような。伝統的出版社では、なんと平凡社が1位という。他社も、もっとやる気出してください。